X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第1回X線動態画像セミナー

臨床研究報告

胸部X線動態解析による手術適応評価

花岡  淳(滋賀医科大学医学部附属病院呼吸器外科)

花岡  淳(滋賀医科大学医学部附属病院呼吸器外科)

当院呼吸器外科では,年間約230件の手術を施行しており,このうち120件前後が原発性肺がんに対する肺切除術である。肺切除術の周術期には,スパイロメトリーによる呼吸機能評価が行われてきたが,術後早期の検査では創痛などのため十分に測定できないことがあった。また,当院では以前,CTのボリュームメトリーでも評価を行っていたが,最大呼気の呼吸停止下での撮影となるため,動態で評価することはできなかった。
動態評価を可能とする胸部X線動態撮影では,努力呼吸時や安静呼吸時で肺がどのように変化しているかを評価できると考え,当院倫理委員会の承認を経て,2018年6月より臨床での撮影を開始した。本講演では,当院における胸部X線動態解析研究について紹介する。

肺切除術における呼吸機能評価

胸部X線動態解析では,換気と血流の情報を可視化・定量化できるが,当院では血流に注目し,呼吸器外科での活用方法を検討することにした。
X線動態解析の妥当性については,複十字病院から血流・換気を表す解析信号値と肺血流シンチグラフィ(99mTc)に相関が認められたとの報告があり(R=0.72)1),動態血流評価で肺血流シンチグラフィを代用できる可能性が示されている。
侵襲性の高い肺切除術では,術前のリスク評価が重要である。特に,心肺機能が重視されており,「肺癌診療ガイドライン」では,手術適応の決定においてはスパイロメトリーによる呼吸機能評価を行うことが推奨されている。呼吸機能評価では,スパイロメトリーでの肺活量(VC)や1秒率(%FEV1.0)の測定,精密肺機能検査での肺拡散能(DLCO)の測定,計算による術後呼吸機能予測などでリスク評価が行われる。術後呼吸機能予測において,術後%FEV1.0が40%未満の場合は非常に高リスクとなるため,縮小手術が検討される。
術後呼吸機能予測とは,切除後の残存肺の大きさと術前の呼吸機能を基に,計算式を用いて術後の呼吸機能を求めるものである。肺は,右肺が上葉・中葉・下葉の3葉,左肺が上葉・下葉の2葉あり,血流と気道から解剖学的に全19区域に分けられる。例えば,右上葉に腫瘍があり右上葉(3区域)切除を施行する場合,切除後の肺容量が16%減となるため,肺機能(%FEV1.0)は術前の100%から84%へと低下すると考える。これを術前の呼吸機能の結果に乗ずることで,術後の予測値を算出する。
この方法は非常に簡便ではあるが,慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎を有している場合には,すでに肺機能が低下しているため,単純に区域数から計算する本方法は予測精度が低い。そこで当院では,より詳細に評価を行うために肺血流シンチグラフィを施行し,患側の寄与率も加味して術後呼吸機能予測値を算出し,手術適応を決定している。しかし,肺血流シンチグラフィ検査は手間とコストがかかる上,当院では検査日が限られており緊急性に欠けることが課題となっている。

胸部X線動態解析による術後呼吸機能予測

そこでわれわれは,術後呼吸機能予測に着目し,胸部X線動態解析の活用の可能性を検討することにした(図1)。動態解析では肺葉や区域などの細かい評価はできないが,左右肺に分けての評価は可能と考えられる。動態解析は,左肺・右肺それぞれの血流・換気の状態を考慮するため,予測精度が高いと期待されることに加え,動態撮影は手間やコストが少ない,迅速に検査が可能といったメリットがある。
われわれは今後,2つの検証を進めようと考えている。まず1つ目は,術後呼吸機能予測値と実測値の比較である。従来手法と動態解析のそれぞれの計算式から算出した術後呼吸機能予測値と,術後に測定した呼吸機能実測値を比較することで,どちらの手法が適切かを検証する。2つ目が,合併症の有無による比較である。術後に合併症が起きたグループと起きなかったグループを比較し,術後呼吸機能予測値に有意差があるかを検証する。併せて,動画・解析結果から,合併症に関連する因子を検証していく予定である。
なお,撮影時期は術前,術後1か月,3か月,6か月,12か月のタイミングで実施する。肺機能は,術後3〜6か月をかけて予測値まで回復すると言われており,その経過を追うことも含めて検討していく。

図1 動態解析による術後呼吸機能予測

図1 動態解析による術後呼吸機能予測

 

展 望

胸部X線動態解析の今後の展望としては,まず,肺機能の局所異常評価ができないかと考えている。肺切除の際,残存肺に肺気腫などがあると呼吸機能が低下しやすく,合併症を生じやすいとの報告があることから,手術リスクを正確に推定するために,動態解析にて有効な所見が得られることに期待している。
もう1つが換気血流比(V/Q)ミスマッチの評価で,手間・コスト・被ばく量が少ない胸部X線動態解析で評価できるようになることを期待しており,手法の検討を行っていきたいと考えている。

●参考文献
1)Aoki, M., et al:Dynamic Chest X-Ray Examination For Pulmonary Blood Flow Function: In Comparison With Tc-99m MAA Scintigraphy. American Thoracic Society 2012.

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