X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第2回X線動態画像セミナー[2020年3月号]

実臨床における有用性の報告:ディスカッション

COPD,換気障害症例を中心に

坂巻 文雄(東海大学医学部医学科内科学系呼吸器内科学領域/東海大学医学部付属八王子病院呼吸器内科)

坂巻 文雄(東海大学医学部医学科内科学系呼吸器内科学領域/東海大学医学部付属八王子病院呼吸器内科)

当院では,コニカミノルタのX線動画撮影システムを用いて,2019年10月までに100例近くの撮影を行っている。本講演では,慢性閉塞性肺疾患(COPD)症例における胸郭の動きの検討結果と,症例報告としてCOPDおよび肺胞低換気症候群における本システムの有用性と可能性について報告する。

COPD症例における胸郭の動きの検討

1.背景,目的
COPDでは,肺の過膨張により横隔膜が平低化することが知られており,横隔膜の奇異運動や動きの悪化が報告されている。一方,重症COPDでは,古くから胸郭下部の肋骨の動きの異常(Hoover’s sign)が知られているが,動きについての定量的検討は少ない。そこで,COPD疑いの31症例に対し,胸部X線動態画像から後方肋骨の協調性や横隔膜の動きを解析し,主に肺の換気機能検査指標と比較した1)

2.方 法
呼気時・吸気時それぞれにおいて後方肋骨の胸膜直下に定点を設定し,定点の移動角度の変化を専用ソフトウエアで自動追跡して動きの方向を算出した。上−中肺野・中−下肺野・上−下肺野間の後方肋骨の動きの角度を算出し,それぞれの肋骨間の動きの類似度を比較した。

3.結 果
軽症群と重症群の後方肋骨の動きの類似度を見ると,軽症群では下方肋骨が上・中肋骨と異なる方向に動くのに対し,重症群ではすべて同一方向に動いていた。一方,横隔膜の動きに気流制限による差は認められなかった。また,気流制限を示す指標〔%1秒量(%FEV1)〕と類似度との相関が認められた。以上より,胸部X線動態画像によって,COPDの重症度を視覚的かつ客観的に評価できる可能性があると考える。

症例提示

症例1:COPD重症例(経過観察例)
本症例は,2018年に症状の増悪による入院を3回繰り返し,呼吸困難と気流制限は高度で,GOLDの重症度分類はDと,きわめて重症である。LABA/LAMA配合薬と吸入ステロイド薬(ICS)を中心に加療し,2019年に入り安定傾向となった。
胸部X線動態画像では,肺は過膨張気味で,やや滴状心であるが,1秒量(FEV1)は時間の経過とともに若干回復していた。後方肋骨の動きに経時的な変化は見られないが,横隔膜の変位グラフ(図1)を見ると,3回目入院時は左右のアンバランスやCOPD特有の揺れもなく,スムーズに上下している。横隔膜の変位から肺機能の改善効果が確認できる可能性が期待される。

図1 症例1:横隔膜の変位

図1 症例1:横隔膜の変位

 

症例2:中等症〜重症のCOPD例
本症例は,%FEV1が約53%,増悪による入院が一度と息切れがあり,中等症〜重症である。胸部X線動態画像のFE-MODE(周波数強調処理)では,重症例に多く見られる呼気時の気管攣縮が確認できる。

症例3:肺胞低換気症候群(経過観察例)
本症例は,他院にて特発性肺動脈性肺高血圧症と診断されたが,換気機能検査の結果からⅡ型呼吸不全と考えられた。胸部X線動態画像で認めた横隔膜の可動性の低下は,高炭酸ガス血症の原因として否定できないため,睡眠時に非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)を行ったところ,自覚症状が改善した。
努力肺活量(FVC)に経時的な変化は見られないが,最大吸気量(IC)は0.99Lから1.06Lまで上昇していた。さらに,PL-MODE(基準フレーム比計算処理)画像にて換気の改善が確認でき(図2),息切れ指標(mMRC)も改善していた。また,PH-MODE(相互相関計算処理)で肺血流の改善が見られた。胸部X線動態画像は,換気評価の一つの指標になりうると考える。

図2 症例3:肺胞低換気症候群のPL-MODE画像

図2 症例3:肺胞低換気症候群のPL-MODE画像

 

まとめ

COPDおよび肺胞低換気症候群においては,胸部X線動態画像にて後方肋骨や横隔膜の運動の定量評価を行うことで,重症度評価や経時的観察の指標となりうる。また,胸郭の動きや中枢気道の虚脱,換気の不均等,肺循環障害の視覚的評価も可能となると考える。

●参考文献
1)高橋玄樹・他,日本呼吸器学会誌,8(Suppl.):262, 2019.

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