X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第3回X線動態画像セミナー[2021年9月号]

第2部 肺循環

胸部X線動態画像で急性肺血栓塞栓症を診る

細川 和也(九州大学病院循環器内科)

当院では,急性肺血栓塞栓症(PE)における胸部X線動態画像の診断能について検討したので報告する。

PE診断アルゴリズムと胸部X線動態撮影

PEは日本において近年患者数が急増し,循環器内科の日常診療で頻繁に遭遇する疾患となっている。無治療では高確率で死亡する疾患であり1),見逃してはならない。現在一般的に用いられているPEの診断アルゴリズムでは,症状や身体所見を確認,Dダイマー上昇や右室負荷,下肢静脈血栓などの有無を確認した後に,最終的に胸部造影CTで診断を行うことが推奨されている。
一方,PEは妊産婦の主たる死因であり,PE発症リスクは妊娠後期が6倍,産褥期早期が22倍と報告されている。
そのような中で,2019年の欧州心臓病学会では妊産婦に対するPE診断アルゴリズムが提唱され,胸部単純X線写真が正常な場合は,造影CTではなく肺血流シンチグラフィで代用できることが明記された。肺血流シンチグラフィの被ばく線量は,造影CTと比較して胎児は約半分,乳房は約1/20に低減するという利点がある。
近年,さらに低被ばくで,即時性が高く,安価な画像診断法である胸部X線動態撮影のPE診断での有用性が期待されつつある。胸部X線動態撮影は,被ばく量を肺血流シンチグラフィの約半分~1/20程度に低減することが可能である。
現在,われわれは胸部X線動態撮影によるPE診断能について,プルーフ・オブ・コンセプト(PoC)段階の共同研究を行っている。胸部X線動態撮影を行ったPE診断例などを対象に,胸部X線動態撮影と臨床診断の診断一致率を評価したので,その一部を紹介する。

1.症例1:PE否定症例
図1は,PE疑いで胸部X線動態撮影を行った結果,PEが否定された症例である。胸部X線動態撮影による肺血流イメージングでは,左右肺同時相で均一な血流分布が確認できた(図1)。

図1 症例1:PE疑いからのPE否定症例

図1 症例1:PE疑いからのPE否定症例

 

2.症例2:PE症例
PEと診断された別の症例の胸部X線動態撮影による肺血流イメージング(図2 a)では,右肺や左下肺野の血流欠損が確認でき,右上肺野の血流は遅延が見られた。造影CT画像では,右肺の上〜下葉に血栓閉塞があり,左肺の舌区から下葉にかけても血栓閉塞による狭窄が見られた(図2 b)。後に肺血流シンチグラフィも行ったが,胸部X線動態画像と類似する血流欠損像が確認された(図2 c)。

図2 症例2:PE症例

図2 症例2:PE症例

 

3.症例3:検出困難なPE症例
本症例は,開腹術後10日目に呼吸困難を訴え,Dダイマー上昇が確認されたため,循環器内科にコンサルテーションされた。胸部X線動態撮影による肺血流イメージ
ングでは,均一かつ遅延のない血流分布が認められたが(図3 a),造影CTでは右肺の前肺底枝や左肺舌区枝に血栓閉塞が確認され,末梢型PEと診断された(図3 b)。なお,肺血流シンチグラフィでは,右下肺野にわずかの血流欠損が認められたが,明確にPEと診断するのは困難であった(図3 c)。

図3 症例3:検出困難なPE症例

図3 症例3:検出困難なPE症例

 

まとめ

PE診断における胸部X線動態撮影は,造影剤や放射性同位元素,静注薬などが不要なことに加え,検査時間が数分程度であることもメリットである。さらに,低被ばくで行える一方で,肺血流シンチグラフィと同程度の空間分解能を期待でき,中枢性PE診断の代替モダリティとなる可能性があると考えられる。今後は,陽性・陰性適中率などを明らかにし,臨床的位置づけを決定する必要がある。

●参考文献
1)Barritt, D.W., Jordan, S.C. : Lancet, 1: 1309-1312, 1960.

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