X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第3回X線動態画像セミナー[2021年9月号]

第3部 呼吸機能

胸部X線動態撮影による間質性肺疾患の呼吸機能評価

上山 維晋(公益財団法人天理よろづ相談所病院呼吸器内科)

間質性肺疾患(間質性肺炎:IP)の診療において,呼吸機能検査は非常に重要であり,特に努力肺活量(FVC)の推移はIPの病状進行のマーカーとなることが知られている。一方,呼吸機能検査には,検査に伴う患者への負担や,気胸・縦隔気腫の悪化リスク,感染リスクなどもあることから,より低侵襲でアクセシビリティの高い検査が望まれている。そこで,胸部X線動態撮影によるIPの呼吸機能評価に関する当院での検討を報告する。

IPの呼吸機能評価の検討

1.目的・方法・患者背景
われわれは,IPにおける胸部X線動態撮影のパラメータと呼吸機能との相関からFVCなどの予測モデルを構築することで,IPの呼吸機能評価が可能か検討を行った。
本研究は単施設前向き観察研究で,対象は,2019年6月〜2020年4月に当院を外来受診したIP患者97名である。呼吸機能検査の同日に胸部X線動態撮影を施行し,2回目撮影を行った25名については,test-retest reliabilityを検証した。X線動態画像から,最大吸気・呼気のタイミングの画像を抽出し,正面像・側面像の肺野面積を測定。さらに,既報の容積推定式にて肺野容積の推定値を算出した。患者は70歳代が中心で,男女比は7:3,予測努力肺活量(%FVC)の中央値は89.2と比較的保たれていた。換気障害のパターンは,呼吸機能正常が約5割,拘束性が約3割,閉塞性が約1割であった。

2.検 証
X線動態画像の正面像における最大吸気時の肺野面積とFVCとの相関係数は0.73で,側面像の情報を加えると肺野容積の相関係数(推定値)は0.86まで向上した。この推定値は,全肺気量(TLC)や機能的残気量(FRC),1秒量(FEV1.0)などとも高い相関係数が得られた。
さらに,吸気・呼気時の推定肺野容積,年齢,性別,BMIを予測変数として,重回帰分析によって予測モデルを構築した。FVCは吸気・呼気時の推定肺野容積・年齢・性別・BMI,TLCは最大吸気時の推定肺野容積,FRCは最大吸気時の推定肺野容積とBMI,残気量(RV)は最大吸気・呼気時の推定肺野容積とBMIが,予測に重要な変数となっていた。これは,肺そのものの体積が大きくなると,それに比例してTLCだけでなく,FVCやFRC,RVも大きくなることを意味していると考えられる。また,上記の予測モデルによって得られた呼吸機能の予測値と呼吸機能検査の実測値から求めたFVCとTLCのモデルのR-Squareは0.8を超えており,予測性能が高いと考えられる(図1)。

図1 呼吸機能の予測値vs実測値

図1 呼吸機能の予測値vs実測値

 

3.考察・今後の課題
今回のFVCモデルにおけるmean absolute error(MAE)は270mLと,やや精度不足であるが,複数回測定の平均をとることで,臨床応用可能なレベルにまで予測精度を向上できると考える。
胸部X線動態撮影の利点として,自動音声にて撮影するため常に均質な画像を得やすいことや,1回の撮影で最大吸気・呼気時を同時に評価可能なこと,撮影後に動画を見ながら最大吸気・呼気のタイミングを抽出可能なことが挙げられる。
なお,本研究は,呼吸機能検査を施行可能な軽症のIP患者のみが対象であるため,高齢者や重症例への適応が可能かは今後の検討課題である。また,病状の変化をどこまで鋭敏に検出できるかについても追加検討する必要がある。

経過観察症例での検討

症例は,71歳,男性,慢性過敏性肺炎(CHP)で,経過観察として胸部X線動態撮影を5回行っている。図2は,肺野面積,肺野容積とFVCとの比較であるが,どちらも同様の傾向を示している。前述の重回帰モデルの推定式を用いれば,さらに誤差が減少すると期待している。
本症例は病状が安定しており,FVCにもほとんど変化は見られないが,今後,病状が進行した際にX線動態画像がどのように変化するのか,注目していきたい。

図2 肺野面積,肺野容積とFVCとの比較

図2 肺野面積,肺野容積とFVCとの比較

 

まとめ

胸部X線動態撮影によって得られた肺野面積および推定肺野容積は,IPの呼吸機能と有意に相関しており,FVCなどの呼吸機能の予測に有用であった。また,胸部X線動態撮影は,呼吸機能検査よりも低侵襲でアクセシビリティが高く,画像的評価と呼吸機能評価をオールインワンで実現する新しいツールとして,さらなる臨床応用が期待される。

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