X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第5回X線動態画像セミナー[2023年10月号]

第3部 臨床報告

いかに動態撮影を実臨床へ応用するか 〜胸部外科診療の現場から〜

内田 真介(順天堂大学医学部附属順天堂医院呼吸器外科)

胸部単純X線写真は,呼吸器外科診療において必須の検査であるが,さらに胸部X線動態撮影(以下,動態撮影)によって呼吸に伴う病変の動きを見ることで,腫瘍の評価に役立つ。また,静止画では最大吸気相および呼気相などから得られる情報に限りがあるが,動態撮影では呼吸サイクルの動的イメージを取得できるほか,立位・座位・臥位など自由な体位で撮影可能である。被ばく線量も,胸部単純X線撮影の正面/側面の合計1.9mGyに対し,動態撮影は約1.7mGyと少ないという特長がある。さらに,動態撮影は肺血流評価において,造影CTや肺血流シンチグラフィと良好な相関を示すとの報告もある。本講演では,これらを踏まえ,動態撮影技術の胸部外科領域への臨床応用について考察する。

呼吸器外科における動態撮影の臨床応用

当院では2022年に動態撮影を導入し,主に胸膜癒着の評価や腫瘍浸潤の質的評価,手術前後の横隔膜運動の定量化ならびに経時的な変化の評価,術後肺血管血流の描出による肺塞栓の検証に活用している。以下に,実際の症例を提示する。

1.胸膜癒着の評価
症例1は,胸腔内全面癒着症例である。胸部CTでは,左肺上葉に有意な気管支拡張症と器質化肺炎を認めた。動態撮影では,呼吸に伴う肺野内の各領域の移動量をベクトルおよびカラーで表示するLM-MODEにて,左側胸郭の狭小化と横隔膜運動の低下などが一目瞭然であった(図1)。
胸腔内全面癒着の手術では,癒着剥離を要することから,手術時間の延長や術中出血量の増加を認めるため,動態撮影により術前から胸腔内癒着を予測することは有用である。実際に,動態撮影による胸腔内癒着予測の報告もある1)

図1 症例1:胸腔内全面癒着

図1 症例1:胸腔内全面癒着

 

2.腫瘍浸潤の質的評価
症例2は胸壁浸潤性肺がん症例で,CTにて左肺上葉の第2,3,4肋骨に直接浸潤する最大径80mmの充実性腫瘤を認めた。術前動態撮影のLM-MODEでは,腫瘤と一致した部位のベクトルがまったく動いておらず,周囲組織への癒着あるいは浸潤が示唆された(図2)。手術でも肋骨への浸潤を認め,肋骨合併切除を施行した。動態撮影は胸壁浸潤の評価においても有用である。

図2 症例2:胸壁浸潤性肺がん

図2 症例2:胸壁浸潤性肺がん

 

3.手術前後の横隔膜運動の定量化および経時的な変化の評価
症例3は,横隔膜弛緩症の症例である。前縦隔腫瘍の術後に左横隔神経麻痺を認め,長期の経過で腹部症状が増悪したため,手術適応となった。CTでの経過観察では,左横隔膜が挙上しており,横隔膜の弛緩を認めた。術前動態撮影のLM-MODEでは,吸気時に左横隔膜の奇異性運動を認めた。横隔膜縫縮術が施行され,手術前後の動態画像および構造物の動きなどを数値化したグラフを比較したところ,術後には横隔膜の変位の抑制,肺野の面積変化率の減少,最大・最小肺野面積の増加を認め,手術の有効性が確認できた(図3)。

図3 症例3:横隔膜弛緩症

図3 症例3:横隔膜弛緩症

 

4.術後肺血管血流の描出による肺塞栓の検証
症例4は,術後肺塞栓症例である。肺がんのため左肺下葉切除と縦隔リンパ節郭清を行ったところ,術後1日目に冷感と呼吸困難感,低酸素血症を認めた。造影CTでは肺の両側に多発する散在性肺塞栓を認め,抗凝固療法を開始し,発症直後,2日目,7日目に動態撮影を行ったところ,PH2-MODEにて肺野内血流を見ると,血流低下を示す黒い抜けは時間とともに改善していた(図4)。7日目に撮影した造影CTでも,血栓はほぼ消失していた。
慢性期肺高血圧症例において,肺血流シンチグラフィと心臓カテーテル検査,動態撮影による血流評価画像が一致しているとの報告2)もあり,肺塞栓の評価に動態撮影が有用である可能性が示唆された。

図4 症例4:術後肺塞栓症

図4 症例4:術後肺塞栓症

 

まとめ

動態撮影は,被ばく量が少なく低侵襲であるほか,従来法と比較して得られる情報量が多いため,胸部外科領域において有用であると考える。動的な評価に加え,血流評価が可能なため,肺塞栓などの低侵襲な評価法の一つとして期待できる。

●参考文献
1)Tanaka, R., et al., J. Appl. Clin. Med. Phys., 24(7) : e14036, 2023.
2)Yamazaki, Y., et al., Eur. Heart J., 41(26) : 2506, 2020.

 

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