技術解説(フィリップス・ジャパン)

2022年9月号

MRI技術開発の最前線

次世代Compressed SENSE “SmartSpeed AI”による高速化,高画質化の実現

上田  優/小原  真/権  池勲/米山 正己/ヴァンカウテレンマルク[(株)フィリップス・ジャパン MRクリニカルサイエンス]

ハードウエアの進歩と撮像シーケンスおよび画像再構成技術の開発に伴い,MRIの高速化は目覚ましい進歩を遂げ,その潮流とともにMRIの有用性が確立されてきた。しかしながら,ほかの画像診断モダリティと比較すると,MRIの検査時間は依然として長く,さらなる検査時間短縮にかかる期待は大きい。Philipsは,1999年に発表した“SENSE(Sensitivity Encoding)”1),そして2017年に発表した“Compressed SENSE(C-SENSE)”2)に代表される独自の高速化ソリューションを提供してきたが,これらは一貫性のある高速化プラットフォームをベースに開発されている。そして今回,Non-Cartesianサンプリングへの対応や人工知能(AI)の実装など,さらなる機能拡張を行った次世代高速化プラットフォーム“SmartSpeed”を発表した。本稿では,高速化と高画質化という2つの課題を妥協なく追究して開発されたAIソリューション“SmartSpeed AI”について解説する。

■高速化を学習したAIイメージング

近年,高速化や高画質化を目的として,画像再構成にAIを応用したDeep Learning Reconstruction(DLR)に注目が集まっている。DLRは,再構成スキームによっていくつかに分類されるが,その中でより実践的とされているのがpost-processingタイプとphysics-drivenタイプの2つである3)図1 aに示すpost-processingタイプは,逆フーリエ変換あるいはparallel imaging(PI)など従来の技術を用いてk空間データから再構成された画像に対し,AIを用いて後処理的にノイズの低減や高マトリックス化の処理を行う。通常の画像再構成プロセスが終了した後に施行されることから,高速化というよりも高画質化を意図したAIとなる。一方,図1 bに示すphysics-drivenタイプは,逐次再構成ループの中にAIとフーリエ変換あるいはPIなどの画像再構成技術を組み込み(One-Go),そのバランスを取りながら処理を進めていく。例えばPIを用いる場合,アンダーサンプリングされたデータに対して,整合性(data consistency)をチェックしながらPIとAIによってノイズおよび折り返しアーチファクトの除去を繰り返し行うので,高画質化だけでなく高速化も実現可能なAIとなる。
SmartSpeed AIは,SENSEとAIをOne-Go方式で融合した,physic-drivenタイプの革新的高速化プラットフォームである(図1 c)。これはC-SENSEプラットフォームの発展形で,SENSEとCompressed Sensing双方の特徴を考慮し最適化されたランダムアンダーサンプリングを用いて収集した生データを入力し,SENSEとAIによって折り返しアーチファクトおよびノイズを繰り返し除去していく。C-SENSEプラットフォームでは,waveletを用いたスパース変換によりノイズ(およびノイズ状の折り返しアーチファクト)除去を行っていたが,そのプロセスに適合するようにDeep Learningで学習されたAI(Adaptive-CS-NET)4)が用いられている。情報劣化が存在しない生データに対して,SENSEとAI処理が繰り返し行われることになるため,より効率的,効果的なノイズ除去や折り返しアーチファクトの展開,そして情報劣化の最小化を実現する。この繰り返しループで用いられるSENSEは,コイル感度分布,g-factorの空間分布そして密度不均一なランダムk空間サンプリングを考慮したSNRの最大化,高速フーリエ変換をプロセスの中に適切に配置した処理フローの効率化,繰り返しループごとの解探索の方向とステップサイズの最適化など,PIを繰り返し計算に適合させるための改良,工夫が施されている(iterative SENSE)5)。Adaptive-CS-Netをphysics-drivenの中でiterative SENSEと融合させたことがSmartSpeed AI最大の特徴となる。
physics-drivenタイプのポテンシャルの高さは,2019年にニューヨーク大学とFacebook AI Researchの主催で開催された“FastMRI Challenge”で示された6)。これは,アンダーサンプリングされた共通のk空間データが全チームに配布され,それを各々開発したAIで画像再構成を行い,そのクオリティを競うコンペティションである。この大会において上位入賞したグループの手法を見ると,すべてのチームがphysics-drivenタイプを採用しており,高速化AIとしての妥当性を示唆する結果となっていた。この大会においてSmartSpeed AIアルゴリズムは,マルチコイルの2部門で1位となっており,iterative SENSEとAIのOne-Go physics-drivenタイプのポテンシャルの高さを証明する結果となった。

図1 画像再構成フローに基づいたDeep Learning Reconstruction(DLR)の分類

図1 画像再構成フローに基づいたDeep Learning Reconstruction(DLR)の分類
a:post-processingタイプ。後処理としてAIを用いる画像再構成法
b:physics-drivenタイプ。MR physicsや再構成の知見に基づき,逐次再構成ループの中にAIが組み込まれている画像再構成法
c:SmartSpeed AI(One-Go physics-drivenタイプ)。bのphysics-drivenタイプをベースに,C-SENSEにおける逐次再構成ループの中でAIにSENSEを統合した画像再構成法

 

図2に,脳腫瘍における臨床応用例を示す。SENSE,C-SENSE,SmartSpeed AIを用いていずれも4倍速,撮像時間は1分42秒である。SmartSpeed AIでは,SENSEと比較して特に画像中心部のノイズが低減され,C-SENSEと比較して右深部高信号領域()境界部のブラーリングが改善している。図3に,心臓における脂肪抑制併用black-blood T2強調像を示す。SENSE,C-SENSE,SmartSpeed AI,いずれも6.3倍速で撮像し,撮像時間は約6秒である。このような高倍速撮像では,SENSEやC-SENSEでノイズが目立っている。しかしSmartSpeed AIでは,ノイズの上昇を最小限に抑えることができ,左室壁の描出が改善していることが確認できる。図4に,頭部における超高速撮像への応用例を示す。代表的な頭部ルーチン撮像(T2強調像,T1強調像,FLAIR,拡散強調像,T2*強調像,MRA)が2分31秒で完結する。いずれも高倍速設定でありながら,アーチファクト,ノイズ共に最小限に抑えた画像が取得できている。そして2D,3D関係なく,TSEまたはGREに併用でき,非常に汎用性が高いこともSmartSpeed AIの特徴の一つである。

図2 SmartSpeed AIの臨床応用例(脳腫瘍)

図2 SmartSpeed AIの臨床応用例(脳腫瘍)
2D T2強調像をボクセルサイズ0.45×0.54×5.00mm3,4倍速,1分42秒で撮像したSENSE(a),Compressed SENSE(C-SENSE)(b),SmartSpeed AI(c)の画像を示す。SmartSpeed AIではSENSEと比較して特に画像中心部のノイズが低減され,C-SENSEと比較して右深部高信号領域()境界部のブラーリングが改善している。
(画像ご提供:東京警察病院様)

 

図3 SmartSpeed AIの臨床応用例(心臓)

図3 SmartSpeed AIの臨床応用例(心臓)
脂肪抑制併用black-blood T2強調像をボクセルサイズ1.00×1.30×8.00mm3,6.3倍速,6秒で撮像したSENSE(a),Compressed SENSE(C-SENSE)(b),SmartSpeed AI(c)の画像を示す。6.3倍速では,SENSEやC-SENSEでノイズが目立っている。しかしSmartSpeed AIでは,ノイズの上昇を最小限に抑え,左室壁の描出が改善していることが確認できる。
(画像ご提供:東京警察病院様)

 

図4 SmartSpeed AIの臨床応用例(頭部ルーチン検査の超高速撮像)

図4 SmartSpeed AIの臨床応用例(頭部ルーチン検査の超高速撮像)
頭部における超高速撮像例を示す。代表的な頭部ルーチン(T2強調像,T1強調像,FLAIR,拡散強調像,T2強調像,MRA)が2分31秒で撮像可能である。いずれも高倍速設定でありながら,アーチファクトとノイズを最小限に抑えた画像が取得できている。
(画像ご提供:東京警察病院様)

 

本稿では,高速化技術開発で培った豊富なノウハウを結集して開発されたSmartSpeed AIを紹介した。検査時間短縮による患者負担の軽減,検査スループットの向上,新しいアプリケーションの開拓など今後の臨床応用に期待したい。

●参考文献
1)Pruessmann, K.P., et al. : SENSE: Sensitivity encoding for fast MRI. Magn. Reson. Med., 42(5): 952-962, 1999.
2)Geerts-Ossevoort, L., et al. : Compressed SENSE Speed done right. Every time. Philips FieldStrength Mag. Published online : 1-6, 2018.
https://philipsproductcontent.blob.core.windows.net/assets/20180109/619119731f2a42c4ac-d4a863008a46c7.pdf
3)Han, Y., Sunwoo, L., Ye, J.C. : k-Space Deep Learning for Accelerated MRI. IEEE Trans. Med. Imaging, 39(2): 377-386, 2020.
4)Pezzotti, N., et al. : An Adaptive Intelligence Algorithm for Undersampled Knee MRI Reconstruction. IEEE Access, 8 : 204825-204838, 2020.
5)Pruessmann, K.P., et al. : Advances in sensitivity encoding with arbitrary k-space trajectories. Magn. Reson Med., 46(4): 638-651, 2001.
6)Knoll, F., et al. : Advancing machine learning for MR image reconstruction with an open competition : Overview of the 2019 fastMRI challenge. Magn. Reson. Med., 84(6): 3054-3070, 2020.

 

●問い合わせ先
株式会社フィリップス・ジャパン
〒108-8507
東京都港区港南2-13-37 フィリップスビル
フリーダイアル:0120-556-494
【フィリップスお客様窓口】
土日祝休日を除く9:00~18:00
www.philips.co.jp/healthcare

TOP