技術解説(フィリップス・ジャパン)

2023年9月号

MRI技術開発の最前線

次世代SmartSpeedが可能にするMR検査の新展開─「Dual AIエンジン」ストラテジー─

権  池勲[(株)フィリップス・ジャパンMRクリニカルサイエンス]

近年,MR検査の効率化や画質向上の目的で,人工知能(AI)を応用する取り組みが活発に行われている。フィリップスはAIを取り入れた画像再構成技術「SmartSpeed」を発表したが,さらなる高速化と高画質化を追求した技術革新を進めている。本稿では,SmartSpeedのAI技術を発展させた「次世代SmartSpeed」を解説し,この技術がもたらすインパクトについて述べる。

■Dual AIエンジン

近年,人工知能(AI)を応用したMR検査の効率化や画質向上へのたゆまぬ取り組みが続けられる中,AIモデルは,目的とするタスクに応じて設計・訓練されるのが通常の開発手法である。例えば,画像のノイズ除去を目的に作成されたAIモデルを別のタスクに使用したとしても,当然ながら高い性能は期待できない。つまり,各タスク向けに最適化されたAIモデルを適切な位置に配置する「適材適所」なAIの活用が,パフォーマンスを最大化する鍵であると言える。
次世代SmartSpeedでは,画像再構成に2種類のAIモデルを使用する「Dual AIエンジン」ストラテジーを採用している。再構成プロセスの中で,Adaptive-CS-NetとSuper Resolution Netという2つのAIをまさに「適材適所」に組み込むことで(図1),MR撮像の高速化と高画質化の双方を同時に実現することをめざしている。

図1 次世代SmartSpeedにおけるDual AIエンジンの概念図

図1 次世代SmartSpeedにおけるDual AIエンジンの概念図

 

■撮像を高速化するAdaptive-CS-Net

まず1つ目のAIはAdaptive-CS-Netである。Adaptive-CS-Netは,再構成プロセスの最も上流に位置するk空間でのデータ収集から各コイルのチャネル統合までの過程で使用される。このステップは,豊富なデータから,コイル感度マップをはじめとするさまざまな物理学的な情報を活用し,再構成の精度を向上させることができる。Adaptive-CS-Netでは,従来の高速撮像技術「Compressed SENSE」のOne-Goフレームワークを踏襲しつつ,Wavelet変換を深層学習モデルで置き換えている1),2)。コイル感度マップなどの物理学的な情報を繰り返し再構成に組み込むこのような手法は,physics-driven (model-based) type AIと呼ばれ,高速撮像に最も適した手法であることが報告されている3)。また,Adaptive-CS-Net は,国際的な画像再構成のコンペティションである「fastMRI Challenge」で優勝したAIモデルであり4),5),physics-driven type AIの中でもベストインクラスの撮像高速化を可能とする。
さらに,フィリップスでは,k空間のデータ収集において中心が密で周辺が疎となる,最適化されたvariable densityアンダーサンプリングを採用している点も強みである。Compressed SENSEから採用されたこのサンプリングパターンは,高倍速撮像であっても効果的なノイズ除去を可能にする6)。フィリップスは,Adaptive-CS-Netを採用したMR撮像高速化ソリューションとして,2021年に「SmartSpeed AI」を発表したが,次世代SmartSpeedはSmartSpeed AIの機能を内包することになる。

■画質を向上させるSuper Resolution Net

2つ目のAIはSuper Resolution Netである。Super Resolution Netは,チャネル結合後の複素数データに対して使用され,リンギングアーチファクト除去と超解像化を行うことで画質を飛躍的に向上させる。
リンギングアーチファクトは,画像再構成におけるZero-filling Interpolation Processing(ZIP)処理において発生する。通常,リンギングアーチファクトを抑制するためにk空間上でAnti-ringingフィルタが適用されるが,これは画像のボケにつながり,必ずしも空間分解能が視覚的に改善しないという問題がある。次世代SmartSpeedでは,Anti-ringingフィルタの働きを弱め,かつZIP処理をSuper Resolution Netで置き換えている。これにより,高周波数成分を保持しながらリンギングアーチファクトを低減させ,空間分解能を大幅に向上させる効果が得られる。
Super Resolution Netのもう一つの特徴的な機能は,解剖学的構造を損なうことなく低分解能画像から高分解能画像を生成する,超解像化である(図2)。収集されたk空間データ(図2 a)を画像データへ再構成した後(図2 b),Super Resolution Netを使用して画像を超解像化する(図2 c)。ここで,超解像化された画像に対応するk空間(図2 d)と,従来どおりZIP処理とAnti-ringingフィルタを適用されたk空間(図2 e)を比較してみる。両者とも低周波数領域には実収集データ(図2 a)が保持されている一方,超解像化された画像のk空間の高周波数領域には,AIによって推定された値が埋められていることがわかる(図2 d:黄色部分)。すなわち,Super Resolution Netで得られる画像は,実収集データと同様のコントラストでありながら,高周波数成分が加わることで微細な構造の鮮鋭度が増した,まさに精密(Precise)な画像ということができる。

図2 次世代SmartSpeedにおける超解像化の概略図

図2 次世代SmartSpeedにおける超解像化の概略図

 

■臨床応用例

Dual AIエンジンを使用する次世代SmartSpeedは,従来に比べて大幅な撮像の高速化と画質改善を同時に実現する。脳T2強調画像の比較(図3)では,Compressed SENSEと比べて高いアクセラレーションファクタと低い撮像マトリックスサイズを利用することで,撮像時間を33%短縮している。通常,このような高倍速撮像はgファクタノイズの上昇をもたらすが,次世代SmartSpeedでは良好な画質が得られており,側頭部の血管()や病変部()の形態が高精細に描出されていることがわかる(図3:各左)。これは,AIの効果にとどまらない,前述のvariable densityアンダーサンプリングやコイル感度マップの活用など,フィリップスが長年開発してきたさまざまな技術が相互作用したものである。また,大脳縦裂(図3:各右)はリンギングアーチファクトが特に目立ちやすい領域であるが,Compressed SENSEと比べて次世代SmartSpeedではアーチファクトが効果的に低減されていることがわかる。
腰椎T2強調矢状断像(図4)において,次世代SmartSpeedでは撮像時間を27 %短縮しながらも,解剖学的構造の辺縁をシャープに描出し,正常構造や椎体内の高信号領域はCompressed SENSEと同等のコントラストを保っていることがわかる。また,膝関節のプロトン密度強調画像(図5)では,Compressed SENSEと比べ撮像時間を39%短縮している。Compressed SENSEでは,全体的にノイズが目立ち,高いマトリックスサイズで撮像をしても辺縁が不明瞭である一方,次世代SmartSpeedでは,撮像時間を大幅に短縮しながらも,微細構造を精細に描出した画質が得られている。

図3 脳T2強調画像における臨床応用例 (画像ご提供:東京警察病院様)

図3 脳T2強調画像における臨床応用例
(画像ご提供:東京警察病院様)

 

図4 腰椎T2強調画像における臨床応用例 (画像ご提供:東京警察病院様)

図4 腰椎T2強調画像における臨床応用例
(画像ご提供:東京警察病院様)

 

図5 膝関節プロトン密度強調画像における臨床応用例 (画像ご提供:東京警察病院様)

図5 膝関節プロトン密度強調画像における臨床応用例
(画像ご提供:東京警察病院様)

 

本稿では,撮像高速化と高画質化を両立させる次世代AIソリューションとして,次世代SmartSpeedを紹介した。Adaptive-CS-NetとSuper Resolution Netという2つのAIを「適材適所」に使用する次世代SmartSpeedは,大幅な撮像時間短縮と画質改善を同時に実現し,検査のスループット向上,患者様の負担軽減,より確信の持てる画像診断に貢献すると期待する。

●参考文献
1) Pezzotti, N., et al. : An Adaptive Intelligence Algorithm for Undersampled Knee MRI Reconstruction : Application to the 2019 fastMRI Challenge. arXiv:2004. 07339, 2020.
2) Pezzotti, N., et al. : An adaptive intelligence algorithm for undersampled knee MRI reconstruction. IEEE Access, 8 : 204825-204838, 2020.
3) Hammernik, K., et al. : Systematic evaluation of iterative deep neural networks for fast parallel MRI reconstruction with sensitivity-weighted coil combination. Magn. Reson. Med., 86(4): 1859-1872, 2021.
4) Knoll, F., et al. : fastMRI : A Publicly Available Raw k-Space and DICOM Dataset of Knee Images for Accelerated MR Image Reconstruction Using Machine Learning. Radiol. Artif. Intell., 2(1): e190007, 2020.
5) Knoll, F., et al. : Advancing machine learning for MR image reconstruction with an open competition : Overview of the 2019 fastMRI challenge. Magn. Reson. Med., 84(6): 3054-3070, 2020.
6) Geerts-Ossevoort, L., et al. : Compressed SENSE Speed done right. Every time. Philips FieldStrength Mag., 1-6, 2018.

 

●問い合わせ先
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