技術解説(フィリップス・ジャパン)

2026年4月号

腹部領域におけるCTの最新技術

フィリップスのCT技術がもたらす腹部画像の革新─「Precise Image」「NanoPanel Precise Detector」 「Precise Position」の臨床価値

川原  拓[(株)フィリップス・ジャパン プレシジョンダイアグノシス事業部]

腹部CT検査は,実質臓器の精査から腫瘍性病変の質的診断,炎症性疾患の評価まで,日常診療の基盤を支える重要な検査手法である。しかし,腹部領域は脂肪量や体格の違いによりX線吸収の変動が大きく,かつ病変部と正常組織の濃度差が小さい「低コントラスト病変」の描出能が問われるため,画質向上と被ばく低減の両立は常にトレードオフの関係に置かれてきた。フィリップスが提供するCT装置「CT 5300」は,この課題を解決すべく,再構成,検出器,ポジショニングのすべてにAIが統合されたCT装置である。本稿では,腹部臨床に付加価値をもたらすことが期待される「Precise Image」「NanoPanel Precise Detector」「Precise Position」の3要素を中心に,その技術的優位性と臨床的意義を詳述する。

■Precise Image:低被ばくと高画質の両立をめざしたAI再構成

Precise Imageは,畳み込みニューラルネットワークを用いたディープラーニング技術である。本技術の最大のブレークスルーは,従来のフィリップス製CTにおいて不可避であった「被ばく線量と画質のトレードオフ」を克服した点にある。従来の逐次近似再構成は,被ばく低減を優先してノイズ抑制強度を高めると,画像が平滑化され,実質のテクスチャが損なわれ,読影者に違和感があると指摘されるケースもあった。Precise Imageでは,通常線量のfiltered back projection(FBP)画像を教師データとして学習することで,従来FBP画像と比べて,被ばく線量を最大80%低減しながらも,ノイズを最大85%低減し,さらに,自然なエッジ特性とテクスチャを保持することに成功した1)。特に,腹部診断のカギとなる低コントラスト検出能は,従来FBP画像比で最大60%向上している1)。これにより,肝実質内の微小な腫瘤や,膵臓がんの周囲組織への浸潤といった,わずかな濃度差に依存する病変の視認性の向上が期待できる(図1)。AIが,単にノイズを消し去るのではなく,診断に必要な情報を再構成する,次世代のスタンダード技術と言える。

図1 従来FBP画像(a),逐次近似応用再構成画像(iDose4:b)とPrecise Image(c)による腹部CT画像比較

図1 従来FBP画像(a),逐次近似応用再構成画像(iDose4:b)とPrecise Image(c)による腹部CT画像比較
Precise Imageでは,実質のノイズが抑制される一方で,肝実質や微細血管の高い鮮鋭度の維持につながる。本膵臓がん症例のように,従来はノイズの増大が避けられなかったthinスライス画像においても,診断に十分な信号強度と低ノイズの両立を図る。微小腫瘍や微細な血管構造の,より明瞭かつ確実な判断を支援するこの特性は,低線量下であっても実質臓器の視認性を損なわない,高い臨床価値を有している。
* 上記症例の結果は,ほかの症例の結果を予測するものではありません。ほかの症例の結果は異なる場合があります。
(画像ご提供:磐田市立総合病院様)

 

■NanoPanel Precise Detector:高純度データが引き出すAIの真価

高品質な再構成画像を得るためには,入力されるraw dataの精度がきわめて重要である。CT 5300に搭載されたNanoPanel Precise Detectorは,AI再構成のポテンシャルを効率的に引き出すために最適化された次世代検出器である(図2)。腹部CTにおいて画質劣化を招く主因は「電気的ノイズ」である。特に,体格の大きな患者や,造影効果を強調するための低管電圧撮影では,検出器に到達するフォトン数が大幅に減少するため,回路由来のノイズが相対的に強まり,画像上にノイズやストリークアーチファクトを発生させていた。NanoPanel Precise Detectorは,回路設計をゼロベースで刷新し,デジタル伝送効率を高めることで,低線量環境においても画質の大幅な改善をサポートする。この「クリーンなraw data」は,Precise Imageにおいて,過度な平滑化に頼らずに真の構造を描出するための土台となる。情報欠損を抑えることで,高い空間分解能と低ノイズの両立を図り,腹部全域にわたって均質な画像を提供することに貢献する。

図2 NanoPanel Precise Detectorの技術的特長

図2 NanoPanel Precise Detectorの技術的特長
検出器の回路デジタル化により,低線量・低信号時でも電気的ノイズに埋もれない純度の高いデータ取得をめざす。これにより,特に体格の大きな症例における腹部ストリークアーチファクトの大幅な低減に寄与している。

 

■Precise Position:AIによるポジショニングの標準化と線量最適化

検査の再現性を担保するためには,ハードウエアとソフトウエアに加え,物理的な撮影精度の標準化が不可欠である。Precise Positionは,天井設置型AIカメラを用いて患者の撮影寝台上での位置を精密に検出し,最適なアイソセンタへの自動ポジショニングを支援する技術である(図3)。腹部CTでは,わずかなポジショニングのズレが,ノイズ増大や不必要な撮影線量の増加を招く。AIカメラは,患者の体形を瞬時に認識し,垂直方向のセンタリング精度を従来FBP画像比で50%向上させる2)。これにより,管電流変調や画像再構成アルゴリズムが設計どおりのパフォーマンスを発揮し,撮影者に依存しない画質の標準化が図られる。

図3 AIカメラによるポジショニング

図3 AIカメラによるポジショニング
Precise Positionは,AIカメラが患者の13点の解剖学的ランドマークを認識し,自動的に最適なアイソセンタに配置する。これにより,撮影者に依存することなく,一貫した画質と適正被ばくを担保でき,病院全体の検査の質の向上支援に直結する。

 

■今後の期待:低管電圧撮影の常用化と造影剤低減への展開

これらの技術基盤を融合させることで,実臨床において「低管電圧撮影(80kV/100kV)」が積極的に活用され始めている。ヨードの特性上,管電圧を下げれば造影効果は増強されるが,従来の画像再構成技術ではノイズの増大が壁となっていた。しかし,CT 5300では,NanoPanel Precise DetectorとPrecise Imageの相乗効果により,この物理的制約を克服している。現在,80kVや100kVを用いた低管電圧撮影によって,診断能を維持したまま検査をルーチン化することに貢献している(図4)
今後は,この高い造影効果を背景として,診断精度を維持しつつ造影剤使用量を低減する,より侵襲度の低いCT検査の確立が強く期待される。腎機能低下患者や高齢者への安全面の配慮と,精緻な診断能の両立をめざすこの手法は,腹部CTのパラダイムを変える可能性を秘めている。

図4 80kVと低造影剤のCT画像(海外症例)

図4 80kVと低造影剤のCT画像(海外症例)
上記は肺塞栓症の症例であるが,高体重の患者にもかかわらず,低管電圧撮影による造影効果を向上させつつ,ごく少量の造影剤で検査を完遂している。
* 上記症例の結果は,ほかの症例の結果を予測するものではありません。ほかの症例の結果は異なる場合があります。

 

フィリップスのCT 5300に搭載された各技術は,独立したスペックの向上にとどまらず,腹部CT画像の質を多角的に底上げする相互補完的なシステムとして機能している。CT検査におけるAI技術の本質は,単なる画像処理ではなく,raw dataの精度向上から撮影プロセスの標準化までを統合し,CT検査全体の信頼性を高めることにある。これらの技術は,日常診療の確度の向上に寄与するとともに,低被ばく,低造影剤といった「患者にやさしい検査」を支える不可欠な基盤として,今後ますます重要性を増していくと期待している。

*AI技術は設計にディープラーニングまたはマシンラーニングを使用しており,実装後に自動的に装置の性能・精度が変化することはありません。

販売名:全身用X線CT装置 CT 5300
医療機器認証番号:306AFBZX00013000
設置管理医療機器/特定保守管理医療機器
管理医療機器

●参考文献
1)Philips Healthcare : AI for significantly lower dose and improved image quality. White paper, 2024. 
2)Philips Healthcare : AI to save time and improve precision in CT patient positioning. White paper, 2021.

 

●問い合わせ先
株式会社フィリップス・ジャパン
TEL:0120-556-494
https://www.philips.co.jp/healthcare

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