技術解説(シーメンスヘルスケア)

2017年9月号

Step up MRI 2017 MRI技術開発の最前線

MRIの定量化とそれを支える技術

井村 千明(シーメンスヘルスケア(株)ダイアグノスティックイメージング事業本部MR事業部)

MRI装置の発展において,最も注目されるのは高速撮像技術であろう。代表的な技術としては,傾斜磁場のパワーアップ,高速撮像シーケンスの発展,受信コイルの高密度化とパラレルイメージングがある1)
高速撮像技術が進歩する一方で,相対的な信号値である収集したMRIデータから,組織の性状を定量的に評価するための手法が開発されている。基本的な定量値としては,T1値,T2値,T2値といった,緩和時間をピクセル値にして画像上にマッピングする方法が広く知られているが,撮像時間が長かったり,動きのある部位には適用が困難であった。近年は,動きの影響を補正した上で,定量マップを作成する方法が製品化されている。また,whole-body DWIのADC値から,骨転移部分の治療効果を数値化するという試みも行われている。
本稿では,シーメンス製MRI装置,またワークステーション「syngo.via」において開発されている定量化の機能について紹介する。

■心筋:MyoMaps

心筋におけるT1値,T2値,T2値の評価は,心筋症や浮腫,炎症,鉄沈着,心筋梗塞,線維化に伴う重症度などの心疾患の診断において有用とされている。“MyoMaps”は,これらの心筋の性状を評価するために開発されたアプリケーションである。T1値の測定には,MOLLI(modified look-locker inversion recovery)2)法を採用している。MyoMapsの機能には,T2プリパレーションパルスシーケンスを用いたT2値の測定,またマルチエコーのグラディエントエコーシーケンスを用いたT2値測定も可能となっている(図1)。
各値の計算はピクセルごとに行われるため,呼吸などの動きがあると値が正しく計算されない。そこで,MyoMapsには,独自のアルゴリズムによる動き補正機能である“HeartFreeze”機能を搭載している。HeartFreezeは非剛体の動き補正技術で,呼吸による心筋の位置ズレを補正して,精度の高い定量値マップを得ることができる。T1値,T2値,T2値のほかには,心筋パーフュージョンによる信号変化曲線の傾きをピクセル値にしたマップを作成する際にもMyoMapsを適用できる。心筋パーフュージョンにおいては,撮像開始直後は息止めをするが,ファーストパス以降では静かな呼吸をするために心臓の位置が動いてしまう。HeartFreezeを適用すると,撮像の後半の画像まで位置ズレを補正するので,精度の高いパーフュージョンマップが得られる。

図1 MyoMapsによる各種パラメータマップ T1値,T2値,T2*値が画像のピクセル値となって表示される。

図1 MyoMapsによる各種パラメータマップ
T1値,T2値,T2値が画像のピクセル値となって表示される。

 

■肝臓:LiverLAB

肝臓がん発症の原因として,B型・C型肝炎ウイルスのほかに,アルコール性肝障害や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)がリスク要因として注目されている。肝臓脂肪を非侵襲に評価する方法として,MRIが期待されている。従来は,グラディエントエコー法のin-phase, opposed-phaseの画像を用いるのが一般的であったが,より定量性を持たせるために開発されたのが“LiverLAB”である。
LiverLABは,3種類の撮像法と,それらに基づく計算を含む一連の肝臓脂肪および鉄含有量の予測のためのアプリケーションである。

1.Double-echo DIXON VIBE(First Look DIXON)による撮像
DIXON法に基づいた撮像でin-phase,opposed-phase,water,fat画像が作成される。この画像に基づいて,肝臓の3Dセグメンテーションが行われる(図2 a)。このセグメンテーション領域が,この後に行われるデータ収集による詳細なパラメータ計算において肝臓領域として使われるだけでなく,4種類の画像の信号比から脂肪または鉄が多い領域の目安を提示する。

2.HISTO3)
high-speed T2-corrected multi-echo(以下,HISTO)は,stimulated echo acquisition mode(以下,STEAM)法を基にした評価方法であるが,スポイラーグラディエントの強度を上げることによって,従来のSTEAM法よりも最短TEを短縮している(図2 b)。これにより,マルチエコーにおけるTEの間隔が短くなり,鉄沈着による速いT2減衰の信号をより詳しくとらえられる。また,水と脂肪のT2値の違いによる減衰の補正を行う必要がある。HISTOでは,5つの異なるTEでシングルボクセルスペクトロスコピーを測定し,得られた一連のスペクトルからT2減衰の影響を除いた水と脂肪に含まれるプロトンの量を求める(図2 c)。これらから,脂肪含有率を高精度で得られる。一連のデータは,15秒程度の息止めで収集することができるため,1.のDIXON画像との位置ズレを防ぐことができる。
得られた複数のデータから,関心領域内の脂肪含有率とR2値のカラーバーが作成される(図2 d)。R2値は鉄の含有量と相関することから,鉄含有量の予測に用いることができる。

図2 LiverLABによる肝臓脂肪定量化(b,cは参照文献3)から引用改変)

図2 LiverLABによる肝臓脂肪定量化
(b,cは参照文献3)から引用改変)

 

3.Multi-echo DIXON VIBEによる撮像
マルチエコーのDIXON VIBEシーケンスによって,一度の息止めでin-phaseとopposed-phaseの画像を合計6ポイントで収集する。また,それらの画像の信号強度から,水と脂肪のT2値だけでなく,プロトン量を得ることができる。HISTOと同様に,水と脂肪のプロトン量から脂肪含有率が求められ,脂肪含有率マップ,R2マップ,T2マップに加えて,1.で行われた肝臓のセグメンテーション情報に基づいて,肝臓全体の脂肪含有率とR2値のカラーバーとヒストグラムが得られる。

■全身:OncoCare

拡散強調画像(以下,DWI)を含む全身MRIは,骨転移や軟部組織の性状,治療の効果判定などのために使われることが増えてきており4),CTやシンチグラフィによる評価よりも,全身MRIによる評価の方が望ましいとする報告も出てきている5)。しかしながら,全身MRIは撮像に手間と時間がかかるだけでなく,大量に作成される画像データの読影方法が煩雑であることなどから,まだ一部の施設での実施にとどまっている。
シーメンス製MRIにおいては,「Tim(Total imaging matrix)コイル」を2004年から取り入れて全身MRIに早くから対応しているが,得られる画像の評価方法についても,syngo.viaワークステーションの最新バージョンにおいて,治療効果の判定を定量的に行うアプリケーションが搭載できるようになった。複数のb値から得られるADC値は,定量的な値として,組織性状を判断する情報の一つとして取り扱われることがあり,syngo.viaの“OncoCare”は,これをより視覚的にし,治療効果が判断しやすいインターフェイスになっている(図3)。腫瘍の細胞活動が盛んで密度が高い部分においてはADC値が低く,治療によって細胞密度が低くなるとADC値が高くなる。ROI内のADC値そのものを測定して組織性状を評価することもできるが,腫瘍のサイズが大きくなると部位によって測定しなければならない。OncoCareでは,治療前後の画像で同じ位置のROIにおけるADC値のヒストグラムを表示することができる(図3 a)。ヒストグラムが緑色(ADC値の高い方)へシフトしていれば,効果があったという目安にすることができる。whole-body DWIでは,全身をつなげた画像において椎体全体をROIとすると,椎体への骨転移に対する治療効果の判断の材料にすることができる(図3 b)。

図3 OncoCareによる治療効果のヒストグラム表示の例

図3 OncoCareによる治療効果のヒストグラム表示の例
a:ヒストグラムが治療後の方がADC値が高い方(緑色)へシフトしていると,治療の効果があったと考えることができる。
b:ヒストグラムが治療後の方がADC値が高い方(右側)へシフトしていると,治療の効果があったと考えることができる。

 

本稿では,シーメンス製装置で可能になっている定量評価の方法の例を紹介した。

●参考文献
1)Sodikson, D.K., et al. : The rapid imaging renaissance ; Sparser samples, denser dimensions, and glimmerings of a grand unified tomography. Proc. SPIE, 9417, 94170G,  2015.
2)Messroghli, D.R., et al. : Modified Look-Locker inversion recovery(MOLLI)for high-resolution T1 mapping of the heart. Magn. Reson. Med., 52・1, 141〜146, 2004.
3)Pineda, N., et al. : Measurement of hepatic lipid ; High-speed T2-corrected multiecho acquisition at 1H MR Spectroscopy─A rapid and accurate Technique. Radiology, 252, 568〜576, 2009.
4)Lecouvet, F.E. : Whole-Body MR Imaging ; Musculoskeletal Applications. Radiology, 279, 345〜365, 2016.
5)Lecouvet, F.E., et al. : Monitoring the response of bone metastases to treatment with Magnetic Resonance Imaging and nuclear medicine techniques ; A review and position statement by the European Organisation for Research and Treatment of Cancer imaging group. Eur. J. Cancer, 50, 2519〜2531, 2014.

 

●問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
コミュニケーション部
〒141-8644
東京都品川区大崎1-11-1
ゲートシティ大崎ウエストタワー
TEL:0120-041-387
https://www.healthcare.siemens.co.jp/

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