セミナーレポート(ザイオソフト)

2019年4月11日(木)〜14日(日)の4日間,パシフィコ横浜で第78回日本医学放射線学会総会が開催された。14日に行われたザイオソフト株式会社/アミン株式会社共催のランチョンセミナー28「Ziostation2のECV解析による組織性状診断の確立」では,粟井和夫氏(広島大学大学院医歯薬保健学研究科放射線診断学研究室教授)が座長を務め,尾田済太郎氏(熊本大学大学院生命科学研究部画像診断解析学講座講師)と福倉良彦氏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科放射線診断治療学分野准教授)が講演した。

2019年8月号

JRC 2019 Ziosoft / Amin Seminar Report Ziostation2のECV解析による組織性状診断の確立

肝臓・膵臓

福倉 良彦(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 放射線診断治療学分野)

CTによる細胞外容積分画(extracellular volume fraction : ECV)解析は,これまで,主に心筋に用いられてきたが,腹部への応用について現在,ザイオソフト社との共同研究を行っている。本講演では,心筋のECV解析を腹部に応用する理由と経緯,そして,「Ziostation2」を用いた肝臓と膵臓のECV解析のこれまでの研究成果について報告する。

ECV解析の腹部への応用に至る理由と経緯

1.造影CTによる膵臓がんの予後予測の検討
膵臓がんの約5%は造影CTの膵実質相~門脈相で正常膵と等吸収(isovascular)に描出され,術後の予後が良好であるという論文が2010年に発表され1),膵臓がんの造影パターンが治療効果や予後予測の画像的バイオマーカーとなりうる可能性が示唆された。切除不能の進行膵臓がんに関して,同様の傾向があるのか不明であったため,128例の遠隔転移を有するステージIV膵臓がんを対象に造影CT所見を検討した結果,膵実質相~門脈相で等吸収だった膵臓がんは2例のみであった。後期相では,高吸収13例,等吸収26例,低吸収89例であった。これらの造影後期相での造影パターンと化学療法後の予後との関連を検討したところ,年齢や性別,化学療法の種類,腫瘍マーカー,腫瘍サイズ,部位,TNMなどは予後に寄与せず,遠隔転移臓器の数と後期相の造影パターンが独立した予後因子であった。

2.DECTによる膵臓がんの予後予測の検討
dual energy CT(DECT)の導入に伴い,膵臓がんの造影パターンとX線エネルギーとの関連を検討した。120kVpの膵実質相CTにて等吸収の膵臓がんは120例中10例,後期相での等吸収は48例であった。40keV画像では,これら等吸収を呈した膵臓がんの約6割が低もしくは高吸収域として描出された。このことから,腫瘍の造影パターンはX線エネルギーなどの撮影条件に影響されるため,画像的バイオマーカーとしては使用し難いと思われた。

3.CT値による膵臓がんの予後予測の検討
次に,CT値を用いた画像的バイオマーカーの可能性を検討した。遠隔転移のあるステージⅣ膵臓がん92例を対象に,腫瘍のCT値と予後との関連を多変量解析した結果,造影CTの膵実質相・門脈相・後期相のいずれにおいても,CT値が高いほど予後が良好であった。しかしながら,前述したDECTを施行した膵臓がん120例の検討において,腫瘍のCT値は造影後いずれの相においても,40keVでは120kVpより約3.5倍の造影効果を示していた。したがって,CT値も撮影条件に左右されるという問題点があり,再現性の高い指標とはなり得ないと考えられた。

4.Perfusion CTによる膵臓がんの予後予測の検討
再現性の高い画像定量法として,これまでperfusion CTやダイナミック造影(DCE)MRIの有用性が報告されている。いわゆるToft血行動態モデルでは,造影剤が血管から細胞外腔の間質に漏れ出す移行定数(Ktrans),細胞間隙から血管に戻る速度定数(Kep),血管外細胞外腔の容積率(Ve),血漿の容積率(Cp)などが算出可能である。これらのパラメータのうち,膵腫瘍の鑑別や膵臓がん放射線化学療法の効果予測にKtransが有用であると報告されている2)。また,直腸がんでは,DCE MRIのVeが放射線化学療法の効果予測に有効という論文が報告されている3)。しかしながら,perfusion CTやDCE MRIは,造影剤静注後に同一部位の連続撮影を必要とするため,通常の日常診療検査としては適さない。

CTによるECV解析の腹部への応用

日常診療検査で算出可能かつ,再現性の高い定量値であるECV値は,2013年以降,腹部においても肝の線維化をテーマに10件程度,その有用性が報告されている。ECVは,VeとCpを合わせた値であり,膵臓がんのような乏血性腫瘍ではCpは無視できるレベルと考えられ,ECVはVeと相関する。したがって,膵臓がんにおいてもECV値は画像的バイオマーカーになりうる可能性を秘めている。
当院における,膵臓がんにおける予後予測因子としてECV解析の方法を図1に示す。基本的には,造影CTの平衡相と単純CTの腫瘍と血管にROIを置き,腫瘍の造影効果から血管の造影効果を除した値をヘマトクリット値で補正する。しかしながら,この手法は煩雑であり,測定誤差が非常に大きいという問題点がある。そこで,Ziostation2の“CT心筋ECV解析”を腹部に応用することを考えた。Ziostation2では造影CTの平衡相から単純CTのサブトラクション時に非剛体位置合わせを行うことで,位置ズレの少ない高精度の差分画像が瞬時に得られる。次に,差分画像上の血管にROIを設定し,ヘマトクリット値を入力するだけでECVマップが簡単に作成できる(図2)。

図1 膵臓がんにおけるCTのECV解析方法

図1 膵臓がんにおけるCTのECV解析方法

 

図2 Ziostation2による腹部のECV解析(W.I.P.)

図2 Ziostation2による腹部のECV解析(W.I.P.)

 

1.肝臓のECV解析
通常,正常肝のECV値は脾臓より低いが,症例1〔50歳,男性,原発性胆汁性肝硬変(F4)〕では脾臓よりも肝臓のECV値が高くなっている(図3)。ECV値は44.7%で,肝臓の線維化が非常に進行していることがわかる。

図3 症例1:50歳,男性,原発性胆汁性肝硬変(F4)

図3 症例1:50歳,男性,原発性胆汁性肝硬変(F4)

 

症例2〔77歳,男性,正常肝機能(F0)〕は息止め困難であったため,単純CTは呼気で撮影後,造影CTは吸気で撮影せざるを得なかった。両画像の位置ズレが顕著であったが,Ziostation2の非剛体位置合わせによるサブトラクションを行い,精度の高いECVマップを作成することができた(図4)。

図4 症例2:77歳,男性,正常肝機能(F0)

図4 症例2:77歳,男性,正常肝機能(F0)

 

2.膵臓のECV解析
膵臓がんの予後予測がECV解析で可能か否かについて,遠隔転移を有するステージⅣ膵臓がん128例を対象に検討した。その結果,化学療法前の膵臓がんのECV値が高い症例ほど予後が良好であり,治療前に予後の予測が可能なことがわかった。
前述のとおり,CT値は撮影条件に影響されるという問題があったが,ECV値に関しても同様の検証を試みた。膵臓がん60例において,120kVp CTと40kVp CTにてECV解析を行ったところ,両者の一致率(ICC)は0.988,Bland-Altman分析でも95% limitが−6.0〜−6.3%であり,撮影条件(X線エネルギー)による変化は無視できるものと考えられた。
心臓においては,MRIとDECTを用いたECV解析はほぼ同等の結果が得られるとの報告4)がある。そこで,造影平衡相DECTのヨード密度画像を用いたECV解析を行い,通常の単純CTと造影平衡相のサブトラクション法とを比較した。その結果,膵臓がんのECV値の一致率(ICC)は0.984,Bland-Altman分析では95% limitが−6.7〜−+7.4と,高い相関性が得られた。また,DECTのECV解析におけるステージⅣ膵臓がん66例の化学療法後の予後予測への有用性を検討した結果,良好な成績が得られた。
症例3(78歳,男性,浸潤性膵管がん)における通常のサブトラクション法(図5上段)のECV値は34.6%,DECT(図5下段)のヨード密度画像を用いたECV値は36.4%と,ほぼ誤差範囲内の値を示した。ただし,サブトラクション法では,膵頭部の膵管付近に消化管の動きによるミスレジストレーションが見られるが,DECTでは造影平衡相のヨード密度画像のみからのECVマップが得られるため,ミスレジストレーションのない非常に明瞭なECVマップが得られる。

図5 症例3:78歳,男性,浸潤性膵管がん

図5 症例3:78歳,男性,浸潤性膵管がん

 

3.ECV解析による膵病変の鑑別診断
自己免疫性膵炎と膵臓がんとの鑑別診断にECV解析が有用か否か検討した。
膵臓がん91例と自己免疫性膵炎31例のECV解析を行った。診断能(AUC)は0.740で一応の有用性は認められたが,両疾患のECV値のオーバーラップは大きく,実際の臨床の場でどの程度有用かは疑問が残る結果となった。
症例4(73歳,女性,自己免疫性膵炎)における通常のサブトラクション法(図6上段)のECV値は39.1%,DECT(図6下段)のECV値は37.5%であった。

図6 症例4:73歳,女性,自己免疫性膵炎

図6 症例4:73歳,女性,自己免疫性膵炎

 

まとめ

腹部診療におけるCTを用いたECV解析は,肝の線維化やアミロイドーシスをはじめ,がんに対する治療効果判定や予後予測のバイオマーカーとなりうる可能性がある。

●参考文献
1)Kim, J.H., et al. : Radiology, 257, 87〜96, 2010.
2)Park, M.S., et al. : Radiology, 250, 110〜117, 2009.
3)Tong, T., et al. : J. Magn. Reson. Imaging., 42, 673〜680, 2015.
4)Lee, H.J, et al. : Radiology, 280, 49〜57, 2016.

 

福倉 良彦(Fukukura Yoshihiko)
1992年 鹿児島大学医学部卒業後,同大学関連病院勤務。1995年から8年間久留米大学医学部第一病理学教室で研究。1998年 鹿児島大学医学部放射線医学講座助手。2003〜2004年 バンクーバー総合病院フェロー。2005年 鹿児島大学大学院放射線診断治療学助手。2006年 同放射線部講師。2014年 同放射線部准教授。2016年〜同大学院放射線診断治療学分野准教授。

 

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