技術解説(ザイオソフト)

2020年5月号

腹部領域におけるWS技術の最新動向

腹部領域における「Ziostation2」の最新アプリケーション

下宮 大和[ザイオソフト(株)マーケティング部臨床応用開発グループ]

近年の医用画像ワークステーションの役割は,診断の補助にとどまらず,手術前のシミュレーションやナビゲーション,手術後のがん転移のフォローアップなどに広く臨床利用されている。なかでも腹部領域における医用画像ワークステーションの有用性は高く,大腸がんの早期発見に寄与するCT colonography(以下,CTC)の解析,MRIを用いて広範囲に悪性腫瘍の原発巣診断および転移検索を可能とするDiffusion weighted imaging with background signal suppression(以下,DWIBS)法で撮像された画像を用いた解析,術前CT画像から臓器・脈管を抽出し,術前のシミュレーションを行うための画像解析など,多岐にわたって広く用いられている。本稿では,「Ziostation2」に搭載している“CT大腸解析”“マルチステーション結合”の技術紹介と,ザイオソフトが独自に開発し,さらに応用範囲を広げた三次元医用画像認識技術“RealiZe”の最新の情報を紹介する。

●CT大腸解析

大腸がんの罹患率は高く,早期発見および早期治療が求められるがんの一つでもある。CTを用いた大腸検査は,大腸内視鏡検査や注腸検査に比べ非侵襲的な検査として注目されており,日本国内でも多施設共同臨床試験(JANCT)による大腸内の腫瘍検出の精度検証が行われ,有用な検査法として認知されている1)。CTを用いた大腸検査の有用性が報告された当初より,ザイオソフトでは,初期の研究段階から開発に携わり,仮想内視鏡画像(Virtual endoscopy:VE)や独自に開発した仮想切除標本展開画像(Virtual gross pathology:VGP)を用いた大腸解析は,多くの施設で用いられている。近年では,経口造影剤を用いて残渣を標識するタギング法により,少量の下剤での前処置でCTCが施行されるようになり,残渣を高吸収に標識することで病変との判別が容易になった。
CT大腸解析では,この残渣を取り除く機能であるデジタルクレンジング処理の精度向上に注力し,最新バージョンでは全周性タギングや,不均一な斑状の液面を有したタギング例など,従来よりも複雑な残渣に対しても高い精度でのクレンジングを実現させた(図1)。また,残存タギング表示機能を搭載し,残存タギング部に対し色を付けて表示することで,病変部と残存タギング部が識別できるようになった。図2の症例では,病変に見える隆起物を確認できたが,残存タギング表示を用いることでタギング部と判断でき,残渣であることが確認できた。Prone(腹臥位)で確認しても同位置に病変はなく,残渣であると診断された一例である。残存タギング表示は,今後VGPやVEのみでの残渣の識別判断に有用なツールになることが期待される。

図1 デジタルクレンジング処理 a:クレンジングなし b:旧クレンジング c:新クレンジング

図1 デジタルクレンジング処理
a:クレンジングなし b:旧クレンジング c:新クレンジング

 

図2 残存タギング表示(○)

図2 残存タギング表示(

 

●DWIBS法とマルチステーション結合

DWIBS法は,2004年にTakaharaらが考案したMRIの撮像手法であり,拡散強調画像(DWI)で全身を分割撮像し,各画像を結合し観察する手法で,主に全身のがん転移の観察に応用されている2)。DWIBS 法は,腫瘍や転移巣に対する感度が高く,PET検査と比較しても医療コストが安価であることから,多くの施設に普及している。また,2020年に中央社会保険医療協議会において,全身MRIを用いた骨転移検索の保険収載が承認されたことから,今後はがん拠点病院を含め,DWIBS法を用いた全身検査は増えてくることが予想される。
一方,DWIBS法で撮像された画像は,それぞれの画像を結合する処理と結合時に画像コントラストを合わせる処理が必要であり,時間を要することが懸念されている。Ziostation2に搭載しているマルチステーション結合は,この結合とコントラストの調整をすべて自動で行うことができる。加えて,自動前処理機能とマクロ機能を使用することで,コントラストの調整,結合,画像出力までを一括で実施することができるため,画像処理の時間を大幅に短縮し,検査スループットの向上が期待できる(図3)。多くの施設でMRI検査の検査枠確保が問題視されていることから,ワークステーションを用いたポストプロセッシングでの時間短縮は,検査の効率化に大幅に貢献できると考えている。また,マルチステーション結合で結合したデータは,T1強調画像などのほかの画像と重ね合わせて表示することができるため,腫瘍と臓器の形態的な位置関係が観察しやすい画像も作成できる(図4)。ワークステーションを用いることで,いままで以上に簡便かつ質の高い画像の提供が実現可能である。

図3 マルチステーション結合 a:WL/WW調整なし b:WL/WW自動調整 c:自動前処理一括実施後画像

図3 マルチステーション結合
a:WL/WW調整なし b:WL/WW自動調整 c:自動前処理一括実施後画像

 

図4 DWIBS法で撮像された画像とT1強調画像の重ね合わせ表示

図4 DWIBS法で撮像された画像とT1強調画像の重ね合わせ表示

 

●RealiZeの進歩

2017年に発表した三次元医用画像認識技術RealiZeは,年々進化を遂げており,造影剤を用いない血管の抽出や,MRIでの臓器抽出など,幅広い領域での抽出を実現している。腹部領域においては,手術前のシミュレーションに応用され,高精度な骨抽出,血管抽出,胃や大腸などの空気を多く含む領域の抽出など,目的に合わせた抽出が行える(図5)。また,近年,サルコペニア要因の有無が,手術後の合併症発症率や術後のQOLに影響することが注目されていることから,大腰筋の筋量を評価することが増えてきたが3),多くの施設では,腹部CTから大腰筋断面積で計測している。しかし,CTのボリュームデータを最大限に生かすためには,体積として検討していくことも重要であるとわれわれは考えている。筋肉の抽出も行えるRealiZeでは,ワンクリックで大腰筋の自動抽出が行え,簡便に筋量の体積測定ができる(図6)。いままでは二次元で評価していたものを,三次元画像として立体的に評価していくことで新たな知見につながることも期待している。

図5 直腸がん術前CTより作成された術前3D画像

図5 直腸がん術前CTより作成された術前3D画像

 

図6 RealiZeを用いた大腰筋抽出

図6 RealiZeを用いた大腰筋抽出

 

腹部領域におけるZiostation2の有用性について,本稿では述べさせていただいた。早期発見,早期診断をはじめ,転移検索,術前画像や術後の経過観察など,総括的な画像診断が今後は必要になってくることが予想される。ザイオソフトは,これからも独自の技術で診断に役立つ製品を開発し続け,医療に貢献していきたいと考えている。

●参考文献
1) Nagata, K., et al. : Accuracy of CT Colonography for Detection of Polypoid and Nonpolypoid Neoplasia by Gastroenterologists and Radiologists : A Nationwide Multicenter Study in Japan. Am. J. Gastroenterol., 112(1): 163-171, 2017.
2) Takahara, T., et al. : Diffusion weighted whole body imaging with background body signal suppression(DWIBS): Technical improvement using free breathing, STIR and high resolution 3D display. Radiat. Med., 22(4): 275-282, 2004.
3) Hirayama, K. : The measurement of the psoas major muscle volume by 3 dimensional-CT for assessment of nutritional state. Journal of Japanese Society for Parenteral and Enteral Nutrition, 32 : 871-877, 2017.

 

●問い合わせ先
ザイオソフト株式会社
マーケティング部
〒108-0073
東京都港区三田1-4-28
TEL:03-5427-1921
http://www.zio.co.jp

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