被ばく低減を可能にする新技術を用いたPhilips MicroDose Mammography
聖路加国際病院附属クリニック 聖路加メディローカス
新技術フォトンカウンティングを用いたデジタルマンモグラフィ「Philips MicroDose Mammography」を導入し,低被ばくで高画質の乳がん検診を開始

2013-2-1


放射線科スタッフ。左から,松迫正樹副医長,沼口所長,角田医長, 菊池真理医師,刈田技師

放射線科スタッフ。
左から,松迫正樹副医長,沼口所長,角田医長,
菊池真理医師,刈田技師

聖路加国際病院附属クリニック 聖路加メディローカスは,2012年10月29日,国際金融街として発展が期待される東京・大手町に開院した。会員制の予防医療と一般外来診療を提供する同クリニックは,CT,MRI,PET/CT,マンモグラフィなど最先端の画像診断装置をそろえ,質の高い検査環境を整備している。なかでもマンモグラフィは,FFDM(full field digital mammography)の新技術フォトンカウンティングを用いた「Philips MicroDose Mammography(以下,MicroDose)」 (フィリップス社)を導入した。MicroDoseを導入した理由や初期使用経験について取材した。

沼口雄治 所長

沼口雄治 所長

角田博子 医長

角田博子 医長

刈田映子 技師

刈田映子 技師

 

●“低被ばく”にこだわり,安心して受けられる検査を提供

Philips MicroDose Mammographyと,角田博子医長(左),刈田映子技師(右)

Philips MicroDose Mammographyと,角田博子医長(左),刈田映子技師(右)

聖路加メディローカスは,聖路加国際病院と緊密な連携を取りながら,会員制健康サポート(人間ドック,身体機能の確認・評価プログラム)と,一般の外来診療(一般内科,婦人科,放射線科)を提供している。
母体である聖路加国際病院(以下,本院)は,日本で最初に人間ドックを開始するなど,わが国の予防医療の先駆けと言える。その伝統を受け継ぐクリニックとして,検診に使用する検査機器の選定には,“低被ばく”を最優先するという強い信念があったと,沼口雄治所長は話す。
「諸外国に比べて日本の医療被ばく量は非常に多く,また,東日本大震災以降,国民は放射線被ばくに対して大変敏感になっています。安心して受診していただくために,できるだけ少ない被ばくで,高い診断能を得られることを,装置選定の最大条件としました」
MicroDoseの選定について沼口所長は,「聖路加の放射線科には,マンモグラフィのエキスパートがそろっています。専門の医師と診療放射線技師の意見を反映させて,目的に適う装置選定を行いました。MicroDoseの新技術の特長である低被ばくには非常に期待が持てますので,メーカーと協力しながら,当クリニックからのエビデンスを世界に発信していきたいと考えています」と述べる。

●低被ばくと高画質を両立する新技術フォトンカウンティング

MicroDoseに用いられているフォトンカウンティング技術は,単結晶シリコン(Si)を検出素材とした検出器を用いて,フォトン(光子)が入射すると発生するパルス信号をカウントし,ピクセルあたりの光子の数の差を濃度差として画像化するFFDMの新技術である。検出器の画素サイズは50μm。A/D変換がないため,その過程で発生するノイズがなく,低線量で高画質の画像を得ることができる。また,従来のマンモグラフィは1回の曝射で撮影するのに対し,MicroDoseはコリメータと検出器が直線を保って動くマルチスリットスキャン方式のため,散乱線の大幅な除去を可能とした。
スウェーデンで開発されたMicroDoseは,世界では約300台が稼働しており,車載での納入実績も多い。

●MicroDose導入の経緯 決め手は“低被ばく・高画質”

同クリニックの開設にあたり,マンモグラフィ装置を医師の立場で選定した,聖路加国際病院放射線科の角田博子医長は,MicroDoseについて次のように話す。
「MicroDoseは,2年程前にデンマークで行われた研究会に参加した際,施設や車載などで広く普及していることを知りました。フォトンカウンティングという新しい技術で被ばくが少ないこと,また,実際に見学して画像も非常にきれいであることで興味を持ちました」
角田医長はMicroDoseの画像について,脂肪の豊かな欧米女性の乳房の画像は実際に見て画質に納得していたが,日本人に多い高濃度乳房の撮影に適しているかについては未知数な部分があったという。MicroDoseは,従来のデジタルマンモグラフィの半分程度の線量で撮影可能だが,画質とのバランスが重要となる。画像を確認した角田医長は,辺縁の描写やコントラスト,腫瘍や石灰化の描出も含めて納得できる画質だったと評価する。日本でも導入が決まったことから,クリニックの開設にあたり,MicroDoseが選定の俎上に上った。
また,MicroDoseは,X線管焦点を軸として,コリメータと検出器が移動しながらスキャンするため,検出器面が緩く彎曲しており,従来のマンモグラフィとは装置の形状や動作が少し異なる。この点については,実際に撮影を担当する診療放射線技師の意見が重要となる。そこで,担当技師たちが実際に装置を見学して,検査手技や操作性について確認し,納得が得られたことから,臨床の立場からはMicroDoseの導入を進言し,導入が決定した。

MicroDoseのユニークな形状と動作 a:検出面と圧迫板 b:撮影ではコリメータが下降し,スキャンを行う。

MicroDoseのユニークな形状と動作
a:検出面と圧迫板 b:撮影ではコリメータが下降し,スキャンを行う。

 

●圧迫板の使い分けで,良好なポジショニングを実現

角田医長とともに装置の選定に加わった刈田映子技師は,MicroDoseについて,「50μmの高精度で低被ばく」という,常識を覆すようなデータを見て,非常に魅力を感じたと言う。角田医長には,画質について確認し,評価が高いことを聞いていたものの,従来装置と少し異なる形状に不安もあったため,実機稼働中の病院に装置の見学に訪れた。
その結果,「ポジショニングなども試したところ,弧を描く検出器の形状は,問題はないだろうと評価しました。実際にクリニックで撮影を始めてからも,FPDと同様のポジショニングを行うことが可能で,FPDと比べて検出器の角や圧迫が痛いという声も聞きません」と,心配は払拭されたと語った。
逆に,CC方向の撮影では,X線管の受診者の顔が当たる位置の突出が少ないため,装置に体を近づけやすく,より胸壁側を含めた撮影がしやすい。また,検出器の彎曲の影響が懸念されるMLO方向は,小乳房用や中乳房用などの圧迫板が用意されているため,受診者に合わせて使い分けることができる。
MicroDoseの圧迫板は,スタンダードとハイエッジに加えて,ポジショニング時に手を抜きやすい小乳房用,中乳房用とスポット用の5種類がある。現在,同クリニックでは検診のみを行っているため,小乳房用,中乳房用と,体側の縁が高くなったハイエッジの3種類で対応できているという。これまで各社の装置を扱ってきた刈田技師は,撮影時にコリメータを下げるという動作以外は,通常操作と同様であると話す。

X線管両側のボタンとフットスイッチでポジショニング操作を行う。

X線管両側のボタンとフットスイッチでポジショニング操作を行う。

 

圧迫板とキャリブレーション用ファントムは,壁に設置したシェルフに省スペース収納

圧迫板とキャリブレーション用ファントムは,壁に設置したシェルフに省スペース収納

 

●技師の負担,ストレスを軽減する高スループットと容易な精度管理

MicroDoseの特長の1つに,高スループットが挙げられる。検出方式がフォトンカウンティングのため,FPDのような残像消去が不要で,撮影間の待機時間を短縮できる。また,撮影後10秒以内で確認画像がモニタに表示される。刈田技師によれば,実際には数秒で表示されるため,技師にとって最もストレスとなる画像確認までの時間も気にならないという。
コンソールには専用キーパッドを装備し,各種撮影やアングル操作,画像転送などがボタン1つで可能となっている。
デリケートな検査であるマンモグラフィで重要な精度管理は,付属の日常管理用と定期管理用のキャリブレーションファントムを用いて,キーパッドの操作のみで容易に行うことができる。
さらに,管理のしやすさという点でも,他の装置と比べ,温度変化の影響を受けにくいというメリットがある。そのため,欧州などにおいては,車載装置として多く採用されている実績がある。

操作は,わかりやすいキーパッドでも可能

操作は,わかりやすいキーパッドでも可能

 

●データの流れとワークフロー

症例画像(乳房厚32mm,平均乳腺線量0.50mGy)

症例画像(乳房厚32mm,平均乳腺線量0.50mGy)

FFDMの画素サイズは,各社から50,70,85,100μmと,さまざまなタイプが発売されている。角田医長は,本院では異なる画素サイズの画像が混在している環境で読影を行っている。角田医長は,「マンモグラフィ検診精度管理中央委員会は5MPのモニタで読影することを推奨しています。100μmと50μmではピクセル等倍表示は違ってくるので,画素サイズに適した拡大率には注意が必要ですが,読影の手順や方法の基本は同じです。画素サイズだけに気を取られずに,装置とビューワをどのように組み合わせるかが重要です」と話す。
MicroDoseで撮影した画像は,コンソールのモニタ(1MP)で確認後,検像端末とクリニック内のマンモグラフィ専用ビューワに送られ,検像画像を本院,予防医療センター,クリニックの統合サーバに送信している。
読影は,角田医長をはじめ,本院の専門医が担当する。本院とデータを共有しているため,同クリニックではもちろん,本院でも遠隔読影が可能なシステムが構築されている。

●今後の展望:新技術のアドバンテージを最大限に生かしたい

刈田技師は,実際に検査を行って感じたMicroDoseの技術的なアドバンテージとして,ダイナミックレンジの広さを挙げる。「これまで,装置によっては濃度差が大きい部分のデータが取得できないことを経験していましたが,そこを確実に拾えているのがうれしい驚きでした」
また,近隣の企業から婦人科検診についての打診も多いことから,今後,クリニックでの検査件数増加が見込まれる。刈田技師は,「低被ばくで検査ができることをきちんとアピールして,安心してスクリーニングを受けていただきたいです。高濃度乳房の若い方も多く受診されると思うので,低被ばくであっても,クオリティを保った画像の提供に努めていきます」と述べた。
角田医長は,MicroDoseを用いた検査の今後の展望について,次のように語る。
「現在,高濃度乳房における画像については,満足していない点もまだ見られます。これから,日本人女性により適した画質に改良していくことが,1号機導入施設の役割だと思います。また,読影をする立場からすると,最初に上がってくる初期表示をより良くし,読影医の負担を軽減できるようにしたいですね。メーカーとも協力し,被ばくが少ないメリットを生かしながら,より高い画質を求めていきます」
MicroDoseの持つ"低被ばく,かつ高画質"という特長が,繰り返し実施する検診にとって,何よりも重要なメリットであることは言うまでもない。MicroDoseが日本人女性の乳がんの早期発見,早期治療に大きく貢献することが期待される。

(2012年12月14日取材)

 

聖路加国際病院附属クリニック 聖路加メディローカス
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大手町フィナンシャルシティ サウスタワー2階
TEL:03-3527-9520
http://medilocus.luke.ac.jp/


(インナービジョン2012年12月号より転載・2012年11月26日公開)
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