Philips MicroDose Mammography開発者
スウェーデン王立工科大学教授 Mats Danielsson 氏に聞く
フォトンカウンティング技術によるマンモグラフィの被ばく低減,高画質化への挑戦

2013-2-1


Mats Danielsson 氏

Mats Danielsson 氏

2011年9月,フィリップスヘルスケアはSectra社のマンモ事業を買収し,Philips Digital Mammography ABとして新技術フォトンカウンティングを用いたデジタルマンモグラフィ「Philips MicroDose Mammography」の展開を始めた(日本ではキヤノンライフケアソリューションズ株式会社が販売)。
Philips MicroDose Mammographyは,従来のデジタルマンモグラフィ(CR,FPD)とは異なる方法で画像形成を行うことで,低線量かつ高画質化を可能にした革新的なマンモグラフィ装置で,日本国内においても導入が始まっている。
Sectra社のマンモグラフィ事業部門であるSectra Mamea社の創始者であり,MicroDose Mammographyの開発者であるスウェーデン王立工科大学教授のMats Danielsson氏に,開発の経緯や,技術・装置の特長についてお話しをうかがった。

●フォトンカウンティング技術によるマンモグラフィ開発への挑戦

私の研究は,物理学からスタートしました。素粒子や宇宙の構造に関して,スイス・ジュネーブにある欧州原子核研究機構(CERN)で5年間,その後,米国・カリフォルニアのバークレー国立研究所で2年間研究を重ねました。その間の研究の成果をX線マンモグラフィの開発に生かせるのではないかと考え,この分野の研究を始めました。世界中で何百万人,何千万人もの女性が繰り返し定期的に受けるスクリーニングは,被ばくによるリスクも高くなります。そのため,低線量のX線マンモグラフィを実現する技術の開発が必要であると考えたのです。
しかし,非常に難しいチャレンジであり,容易なものではありませんでした。まず,1秒間に何千個という超高速で入射するX線フォトン(光子)の検出が難しく,フォトンカウンティング検出器の開発には10年を要しました。初めは,フォトンの入射スピードにまったくついていけなかったのですが,10年間でやっと追いつくことができました。

●スピードと感度を重視した技術開発

Philips MicroDose Mammography(以下,MicroDose)の開発において最も注力したのが,検出器の検出速度と感度を上げることでした。そして,完成したのが,単結晶シリコン(Si)を検出素材に用いた,画素サイズ50μmのSi検出器です。
MicroDoseの特長の1つが,フォトンカウンティング技術です。フォトンが入射すると発生するパルス信号をカウントして画像化するフォトンカウンティング技術は,A/D変換がないため,電気的ノイズをほとんど除去することができます。ノイズがないということは,高画質な画像を生成できることはもちろん,照射線量を下げられることも意味します。従来のFPDによるデジタルマンモグラフィと比べ,同等の画像を1/2程度の線量で生成できることが,臨床試験でも立証されています。
もう1つの重要な新技術として,"マルチスリットスキャニング"があります。乳房を挟んだ2つのコリメータと検出器が直線に並んだ構成となっており,このコリメータと検出器,X線照射口が連動して,CC撮影であれば左右方向に動いてスキャンします。検出器は,21列にわたって並んでいるため,1回のスキャンで21のイメージを収集することができ,これらをすべて合わせたフルイメージで画像を生成します。2つのコリメータにより,散乱線を97%以上カットすることができます。
これら2つの新技術により,低線量撮影でリスクを低減しながら,検出精度を向上させることが可能となります。これは,被検者のメリットであると同時に,医師のメリットでもあります。また,日本人に多い高濃度乳房の撮影は,多くの診療放射線技師の悩みかと思いますが,そのような困難な撮影においても,MicroDoseがお手伝いできるものと思います。

●フォトンカウンティング技術のこれから

EUからの補助金を得て,乳がん撲滅を目的とした大規模プロジェクト「HighReX」が行われました。これは,フォトンカウンティング技術を対象に,X線エネルギーを単純モノクロ画像生成の利用にとどめず,さらなる活用方法を研究したものです。例えば,丸く描出された病変が,良性の腫瘤なのか,腫瘍なのかを,画像で判断できないかといった研究が進められました。画像でしっかりと鑑別できれば,本当に必要な患者にだけ生検を実施できます。この研究では,非常に興味深い結果が得られ,患者や医師の負担軽減や,医療費の軽減につながることが期待されます。今後は,この研究成果を,現在は医師の判断に委ねているような乳腺密度の正確な計測など,装置の開発に生かしていくことができると思います。
また,これからはCT分野でも,フォトンカウンティングの技術が応用されていくと思います。開発にはまだ時間がかかるかもしれませんが,フォトンカウンティングのメリットは,CTにおいても得られるでしょう。

●MicroDoseで世界中の女性のリスクを低減する

Sectra Mamea社は非常に小さい規模からスタートしましたが,フィリップスと一緒になることで規模が大きくなり,世界的な展開が可能となりました。これにより,各国の放射線科医とコラボレーションができるものと期待していますし,世界中のすべての女性のリスク低減のために,フォトンカウンティング技術が貢献することを願っています。

(2012年9月7日取材)

 

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(2013年2月1日公開・インナービジョン2013年2月号掲載)
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