Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2019年6月号

SIGRTを用いた深吸気息止め法(DIBH)で高精度の乳がんの放射線治療を展開〜可視光による体表面スキャンでリアルタイムモニタリング、ポジショニング、呼吸管理を提供〜

帝京大学医学部附属病院

Versa HD+Catalyst HD × 帝京大学医学部附属病院

 

乳がん診療における放射線治療は、手術、薬物療法に並ぶ治療の3本柱の一つとして重要な役割を担っている。帝京大学医学部附属病院(東京都板橋区)では、放射線治療部門に放射線治療システム(リニアック)の「Versa HD」と体表面光学式トラッキングシステム「Catalyst HD」を導入して、高精度かつ患者のQOLを考慮した放射線治療を提供している。Breast Solution第3回目は、乳がんの放射線治療における体表面情報による画像誘導放射線治療(Surface Image Guided Radiotherapy:SIGRT)を用いた深吸気息止め法(Deep Inspiration Breath Hold:DIBH)の運用について、放射線科学講座の白石憲史郎病院教授とスタッフに取材した。

白石憲史郎 病院教授

白石憲史郎 病院教授

新井範一 係長

新井範一 係長

 
     
今 大輔 物理士

今 大輔 物理士

熊谷 仁 物理士

熊谷 仁 物理士

 

 

乳腺キャンサーボードで各科が連携して診療を提供

同院での乳がんに対する放射線治療の現況を、白石教授は次のように説明する。
「乳がんの術後照射が基本です。当院の乳腺外科で手術した患者がほとんどですが、院外からの紹介患者にも対応しています。乳がん患者については、毎週行われる乳腺キャンサーボードで外科、内科、形成外科、放射線科、病理科などが参加してカンファレンスを行い、術前術後の治療方針の確認や問題症例などについて検討して診療に当たっています」
放射線治療部門は、白石教授の下、常勤医師3名(うち放射線治療専門医2名)、医学物理士(常勤)2名、品質管理士1名、治療専門技師2名を含め診療放射線技師は7名が所属する。同院の放射線治療件数は年間約600件だが、乳腺領域は2〜3割を占める。照射対象は乳房温存療法の術後が7割、切除術後が3割で、術後照射では温存した乳房全体に照射する全乳房照射を行っている。全乳房照射では、「乳癌診療ガイドライン」で1回2Gy、25回が標準とされているが、同院では寡分割照射を採用し、1回2.66Gy、16回を基本としている。白石教授は、「海外のガイドラインでは寡分割照射が標準になっており、日本においても今後同様になることは間違いありません。患者さんのQOLの向上にもつながり、有害事象も減るという報告もあり、治療効果が同じであれば当院では積極的に導入する方針です」と説明する。

Versa HDなどリニアック2台で治療を展開

放射線治療部門ではリニアック2台(ほかに密封小線源治療装置1台)で治療を行っているが、2018年7月にリニアックの1台を高精度の放射線治療を可能にするVersa HD(エレクタ社製、キヤノンメディカルシステムズ販売)へ更新した。さらに、今回の導入では体表面光学式トラッキングシステムであるCatalyst HDを同時に導入し、SIGRTを用いた深吸気息止め法(DIBH)による照射を開始した。白石教授はCatalyst HDの導入について、「DIBHを精度高く行うためには、体表面の情報を基にしたIGRT(SIGRT)が必要だと考え、Catalyst HDを導入しました」と述べる。中央放射線部(核医学・放射線治療室)の新井範一係長は、「従来のIGRTや呼吸管理の仕組みでもDIBHは可能ですが、患者にやさしく精度の高い治療を提供するため、被ばくのないSIGRTが可能なシステムを導入しました」と述べる。

Catalyst HDの“構造化光スキャナ”。プロジェクタとカメラで体表面を三次元で観察。

Catalyst HDの“構造化光スキャナ”。
プロジェクタとカメラで体表面を三次元で観察。

 

可視光を用いて無被ばくで正確なSIGRTを提供

Catalyst HDは、体表面に投影された可視光を利用したイメージガイドによってSIGRTを行うシステムである。プロジェクタとカメラを搭載した“構造化光スキャナ”を天井に設置し、プロジェクタから可視光(近紫外LED)による連続したパターンを寝台上の患者の体表面に照射、これをカメラで計測・解析して距離や身体の移動、変形などを把握する。機能としては、三次元の体表面ガイドによる位置決め(cPosition)、リファレンス画像を基にした治療中のリアルタイムのモニタリング(cMotion)、呼吸信号を用いたゲーティング(cRespiration)が利用できる。放射線治療品質管理室の今大輔物理士はCatalyst HDについて、「被ばくのない可視光を使って、位置決めから動きの管理まで、患者の状態を継続的に観察できることが大きなメリットです。また、マーカーなどの点ではなく6軸の情報による三次元での位置合わせが可能で、体表の広範囲(約1.3m)をカバーできます。Catalyst HDでは、非剛体位置合わせ(Non-Rigid Registration)を採用しており、局所的な動きの影響を可及的に回避して、より精度の高い体表面の観察が可能です」と説明する。
cPositionによる位置決めでは、治療計画のCTデータから作成した体表面のストラクチャデータを基準画像(Reference Image:緑)として、ライブ画像(青)と重ね合わせて空間的な差異(ズレ)を画面上と実際の患者の体表にカラーで投影する(図1a、b)。これによって正確な位置合わせが可能になる。Catalyst HDでのSIGRTについて新井係長は、「体位のズレが色で視覚化されるので修正も容易です。また、アイソセンターからの距離など座標軸が数値で表示され、正確な位置合わせが可能です」と評価する。
cMotionでは、照射中に体表面のリアルタイムモニタリングを行い、咳など突発的な体動があった場合には照射を中止する機能を搭載する。今物理士は、「患者さんの状態を常に把握して、基準画像とのズレを計測しながら精度の高い治療を保証し、そのデータを記録できます。体動があった場合に、マーカーの位置といった見た目ではなく、データとしてモニタリングできるメリットは大きいです」と述べる。

Catalyst HDによる高精度で再現性の高いDIBHを実施

DIBHは、左乳房の照射時に心臓への線量低減を目的に用いられる照射方法である。深吸気位(深く息を吸った状態)で息止めをして、乳房の照射領域から心臓を遠ざけた状態で照射する。DIBHのメリットについて白石教授は、「心臓への被ばくをできるだけ低減することが目的です。乳がんは若年の患者さんが多く、治療後の長期生存が期待されますので十数年後の心血管イベントの発生確率を抑制できる可能性があります。また、近年標準的に用いられている抗がん剤や分子標的薬では心毒性の問題が指摘されており、治療後副作用の可能性をできるだけ低減するためにも、ターゲット以外への線量を下げる意味は大きいと考えています」と述べる。
DIBHでは、心臓などの臓器を避けた深吸気位での治療計画と、照射時の適切な呼吸管理が必要となる。Catalyst HDでは、cMotionによるモニタリングとcRespirationで取得した呼吸信号による呼吸同期を行うことができる。また、呼吸管理については、ゴーグルを使った“ビジュアルコーチング”を行っている。患者がかけたゴーグル内に表示される吸気のレベルを示す棒線を見ながら、適切な範囲に棒線がとどまるように息止めをすることで、最適なDIBHが可能になる(図1c 右下)。リニアックと連動して、息止めの位置が設定範囲からはずれた場合には、ビームが停止する。新井係長は呼吸同期のメリットについて、「患者の体位を三次元的に常に観察できること、呼吸の状態についてもリアルタイムで管理できることで再現性の高い治療が可能です。視覚的なサポートがあるメリットは患者さんにとっても大きいと思います」と述べる。

■Catalyst HDを用いたSIGRT(図1)

Catalyst HDを用いたSIGRT(図1)

 

マーカーレス化など精度の向上とQOLに配慮した治療をめざす

新井係長はCatalyst HDを用いた放射線治療のメリットについて、「リニアック1台あたり1日30人近くの治療を行いますが、人間の集中力には限界があります。その中でCatalyst HDの、患者さんの状態をずっと監視している“もう一つの目”がある安心感は大きいですね」と述べる。
2018年度の診療報酬改定では、“体表面の位置情報”を用いたIGRTの加算(150点)が認められ、DIBHについても左乳がんが新たに追加された。白石教授は、「DIBHが拡大するきっかけになる」と期待するが、一方でDIBHは治療時間がかかることが課題で、今後、精度の向上と同時に効率化が求められる。放射線治療品質管理室の熊谷 仁物理士は今後について、「DIBHは患者さんの負担が大きいので、治療計画を含めてできるだけ治療時間を短縮できるように精度の検証などに取り組んでいきたい」と述べる。現在、位置合わせは、皮膚マーカーとリニアックグラフィも併用しているが、精度保証や技術の向上が進めば、マーカーレスでCatalyst HDのみのセッティングも可能になると新井係長は言う。「現状でもマーカーの数は確実に減っていますが、Catalyst HDのみで位置合わせができれば、時間短縮も期待でき、患者さんの負担軽減にもつながります」
白石教授は今後の方向性について、「SIGRTを用いた照射は始まったばかりで、今後、乳がんだけでなく体表面の情報収集というメリットを生かして適応を広げられるように検討を進めます。乳腺の放射線治療については、IMRTを含めてさまざまな照射方法を取り入れて高精度で信頼性の高い治療を提供するべく、全体のレベルアップを続けていきます」と展望した。

(2019年3月15日取材)

 

帝京大学医学部附属病院

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