Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2019年12月号

Cardiac Solution No.3[WS]

“MR Wall Motion Tracking”による先天性心疾患の心筋ストレイン解析 〜シネMRIからの心筋の自動抽出、トレースによりストレインやdyssynchronyを高精度に解析〜

東京女子医科大学病院

Vitrea × 東京女子医科大学病院

 

心臓MRIは、高い空間分解能による機能診断や組織性状評価に優れる。MRI装置の進化とともに、得られたデータの解析処理を行うワークステーションの役割も大きくなっている。キヤノンメディカルシステムズのクロスモダリティ対応医用画像処理ワークステーション「Vitrea」では、“MR Wall Motion Tracking(以下、WMT)”を用いて心筋ストレイン解析による精度の高い心機能評価が可能である。東京女子医科大学病院の画像診断学・核医学講座の長尾充展准教授に、心臓MRIにおけるWMTの有用性を取材した。

大学病院として先天性心疾患など重症疾患に対応

東京女子医科大学病院の画像診断学・核医学講座には、坂井修二教授以下21名の放射線科医が所属する。専門領域ごとのグループに分かれて診療や研究を行っているが、読影については基本的に全員がCT、MRI、超音波、血管撮影についてレポートを作成している。また、女子医科大学として女性医師の働き方に配慮しているのも特徴で、ライフステージに合わせた多様性のある勤務体制を構築している。画像診断機器は、MRIは3T装置2台を含めて6台、CTは320列のADCT「Aquilion ONE」2台をはじめ6台が稼働するなど、大学病院としての高度な医療を提供する体制を整えている。
循環器領域については、循環器内科、循環器小児・成人先天性心疾患科とチームを組んで、CT、MRI、核医学の検査と読影に当たっている。長尾准教授は心臓MRIの取り組みについて、「心臓MRIの機能的解析は、循環器内科など臨床科の医師が読影を含めて直接行い、最終的には放射線科医がチェックして確定する体制を取っています」と説明する。
心臓MRIは、主に3T装置を使用し週5、6件、年間で350件前後行っている。同院は、心臓移植や心筋の再生医療の紹介患者が多く、非虚血性心筋症、アミロイドーシス、サルコイドーシス、拡張型心筋症や肥大型心筋症などの疾患が中心となる。長尾准教授は、「MRIは術前の精査目的やフォローアップの撮像が中心で、疾患についても非虚血性心筋症やそのほか二次性心筋症の患者さんが多いですね」と状況を説明する。

クロスモダリティ対応WSの「Vitrea」を導入

Vitreaは、クロスモダリティ対応のワークステーション(WS)としてCT、MRI、核医学(PET-CT、SPECT)、血管撮影装置などのデータを統合的に解析できる。臨床現場のニーズに対応したアプリケーションをそろえており、高度な機能を使いやすいインターフェイスで提供するのが特徴だ。同院では、2017年からVitreaを使用してCT、MRIの画像解析を行っている。解析には複数のWSを使用し目的に応じて使い分けているが、MRIの心機能評価については全例でWMTを使用している。WMTは、feature trackingを採用してシネMRIから心筋の輪郭の自動抽出やトレースを可能にし、左室駆出率(EF)などの心機能解析のほか、心筋のストレイン解析や心臓の同期不全評価(dyssynchrony imaging:DI)ができる。
Vitrea導入のねらいについて長尾准教授は、「MRIでの心筋ストレインや心機能解析のために導入しました。Vitreaは、精度の高い心筋の自動認識やトラッキングによる自動解析が可能で、マニュアルによる操作が必要なく解析時間の短縮が期待できます。また、特別な撮像を必要とせず、ルーチンで撮像するシネ画像から解析できるため、過去のデータについてもレトロスペクティブな解析ができることもポイントでした」と述べる。

WMTを心機能解析に活用

心筋ストレインは、心筋の歪みを定量的に観察する手法であり、心室短軸の円周方向の伸縮(circumferential strain)、長軸方向の伸縮(longitudinal strain)の解析によって、心機能の評価やイベントリスクの予測因子となる。心筋ストレインについては超音波診断装置でも解析できるが、MRIは空間分解能に優れているだけでなく、視野の制限がなく心臓全体をカバーできること、再現性の高い解析が可能なことなどがアドバンテージとなる。
MRIでは従来、撮像時に心筋に標識(tag)を付加するtagging法を用いてストレイン解析が行われているが、さまざまなシーケンスを加えるために撮像時間や処理に時間がかかるのが課題だった。キヤノンメディカルシステムズでは、ジョンズ・ホプキンス大学との共同研究で、シネMRIから心筋ストレインの解析を行うソフトウエアとしてWMTを開発した。WMTでは、心筋の内壁と外壁を自動認識し、feature trackingによる高精度なトレースにより壁の動きを評価する。長尾准教授は、「tagging法を用いたストレイン解析では、前処理や追加の処理が必要で手間や時間がかかり、操作も煩雑でした。WMTでは、基本的に自動で壁の輪郭の抽出やトレースができますし、複雑な心形態であっても数か所の修正で簡単に解析することができます。自動抽出の精度は高く、正常な心臓の形状であればもちろんですが、単心室や大血管転位といった複雑心奇形の症例でも精度の高いトラッキングが可能です」と述べる。同院では、循環器領域の冠動脈CTなどの画像解析は診療放射線技師が行っているが、心臓MRIの機能解析は医師が直接行う。長尾准教授は、「それだけに、WMTで心筋ストレイン解析の手間と時間が短縮できるメリットを実感しています」と評価する。
同院では、現在、tagging法についても、5mmの格子と1心拍50フレームで空間分解能と時間分解能を上げた高分解能撮像を行っている。長尾准教授は、「例えば、肥大型心筋症の線維化評価などでは、高分解能のtagging法の方がセンシティビティが高い部分があります。疾患や条件で使い分けていますが、tagging法は基本的に左室短軸像に限られることから、長軸シネ画像から2chamber viewや4chamber viewなど、任意の断面で評価できるWMTの有用性は大きいですね」と述べる。

WMTによる心筋ストレイン解析を行う長尾准教授

WMTによる心筋ストレイン解析を行う長尾准教授

 

心筋ストレインとdyssynchronyを定量評価

WMTでは、特別なシーケンスの撮像が必要なく、シネMRIからの心筋ストレイン解析が行えることも特徴の一つだ。同院の豊富な症例データから、心臓MRIを施行した過去の患者をさかのぼって解析することも可能になった。
長尾准教授は、先天性単心室に対するフォンタン(fontan)術後の患者に対して、過去に撮像した心臓MRIの画像からWMTによる心機能解析を行った。フォンタン手術は複雑心奇形に対して行われる機能的修復術だが、単心室や心室が入れ替わる大血管転位の症例では、術後遠隔期(成人後)において心不全や心室性の不整脈など心血管イベントが発生することがわかっている。どういう症例で合併症が発生するかはまだ明確ではないが、シネMRIをレトロスペクティブに解析した結果、単心室のグローバルストレイン(global longitudinal strain:GLS)の低下、あるいはdyssynchronyが陽性の場合に心不全になりやすいことがわかってきた1)。長尾准教授は、フォンタン術後のWMTによる評価について、「feature tracking法を使ったVitreaで単心室の100症例以上をレトロスペクティブに解析して、ストレイン解析を予後予測の一つの指標として層別化することができました。WMTでは、10年以上前に撮像した1.5Tのデータでも解析できたのは大きなメリットでした」と述べる。

■“MR Wall Motion Tracking”を用いた心筋ストレイン解析

図1 フォンタン術後単心室の解析例(ストレイン) 単心室のように正常解剖と異なる心臓においても、精度の良いトラッキングが可能となっている。

図1 フォンタン術後単心室の解析例(ストレイン)
単心室のように正常解剖と異なる心臓においても、精度の良いトラッキングが可能となっている。

 

図2 フォンタン術後単心室の解析例(dyssynchrony imaging) aは各セグメントが同じタイミングで収縮しているのに対し、bでは収縮タイミングのずれ(dyssynchrony:同期不全)が見られる。

図2 フォンタン術後単心室の解析例(dyssynchrony imaging)
aは各セグメントが同じタイミングで収縮しているのに対し、bでは収縮タイミングのずれ(dyssynchrony:同期不全)が見られる。

 

WMTでの右室や心房のストレイン解析に期待

長尾准教授は、WMTを心臓以外の肺や肝臓などの領域に適用し、feature trackingの汎用性ならびに臨床的有用性を北米放射線学会(RSNA2018)でも報告している。心臓領域では、左心室だけでなく心房や右室などへの解析が期待されている。長尾准教授は、「循環器内科のPCIやアブレーション治療が増えており、治療方針や術後のフォローアップなどで心房のストレインや右室の解析が求められています。Vitreaでは、単心室など正常の心形態でなくても高い精度でトレースできますので、右室や心房のストレイン解析によって心イベントリスクの評価も可能になると期待しています」と述べる2)
心臓MRIは、撮像法の進化による撮像時間の短縮によって、優れた空間分解能を生かしたさらなる発展が期待される。豊富なアプリケーションで高度な解析を可能にするVitreaへの期待は大きい。

(2019年9月24日取材)

[参考文献]
1)Ishizaki, U., Nagao, M., et al. J. Cardiol ., 73, 163~170, 2019.
2)Shiina, Y., Nagao, M., et al. Heart Vessels ., 33, 1086~1093, 2018.2

 

東京女子医科大学病院

東京女子医科大学病院
東京都新宿区河田町8-1
TEL 03-3353-8111
http://www.twmu.ac.jp/info-twmu/

 

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