Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2021年11月号

Respiratory Solution No.2[CT]

高精細画像や面検出器CTを駆使してCOVID-19肺炎や間質性肺炎の総合的診療を展開 〜0.25mm・1024マトリックスの高精細画像や面検出器による4D-CTが呼吸器疾患の診断に貢献〜

神奈川県立循環器呼吸器病センター

神奈川県立循環器呼吸器病センター

 

横浜市金沢区の神奈川県立循環器呼吸器病センター(病床数239床)は、循環器・呼吸器疾患の専門病院として高度医療を提供している。同センターでは、キヤノンメディカルシステムズの高精細CT「Aquilion Precision」と320列Area Detector CT「Aquilion ONE / GENESIS Edition」を導入し、びまん性肺疾患や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの呼吸器疾患、循環器疾患の診断を行っている。高精細画像やディープラーニング技術を応用した画像再構成技術“Advanced Intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”、面検出器による動態撮影などを用いた呼吸器画像診断の現況について、放射線科の岩澤多恵部長(副院長兼務)に取材した。

岩澤多恵 副院長兼放射線科部長

岩澤多恵 副院長兼放射線科部長

 

間質性肺炎の治療では全国1位の治療実績

同センターは1954年に結核療養所「県立長浜療養所」として開設、現在は7診療科で呼吸器・循環器疾患に対する高度医療を提供する専門病院である。中でも間質性肺炎については、年間908件の治療実績があり全国1位となっている(2019年度のDPCを基にした集計)。また、地域医療支援病院として、地域の医療機関からのCT、MRIの依頼検査に対応し、2020年度で約900件行っている。さらに、同センターは、神奈川県の“重点医療機関”の一つとして中等症を対象にCOVID-19の患者を受け入れている。結核病床を40床転用して、2021年6月末までに671人の患者を受け入れた。放射線科は、放射線診断専門医3名(ほかに非常勤10名)、診療放射線技師17名の体制で、CT2台のほか、MRI(1.5T)、RI、血管撮影装置2台、放射線治療装置などが導入されている。
同センターでは間質性肺炎について、放射線科、病理診断科、呼吸器内科によるMDD(multidisciplinary discussion:集学的検討)を行っている。また、間質性肺炎に対する外科的肺生検や経気管支クライオ肺生検(TBLC)を積極的に行っているのも特徴で、身体所見や検査データに加え、画像情報や病理画像などを総合的に検討して治療方針を決定している。岩澤部長はMDDについて、「間質性肺炎は、病気の種類を見極めて適切な治療法を選択することが必要です。当センターでは、生検による病理診断に加えて、Aquilion Precisionの高精細画像を含めて検討し、治療方針を決定する体制を取っています」と述べる。

高精細CTなど2台で呼吸器・循環器疾患の診断を展開

同センターのCTは、2017年にリプレイスでAquilion ONE / GENESIS Editionを導入、Aquilion Precisionは2018年に2台目として導入された。岩澤部長は、「長くCTは1台で運用してきましたが、心臓CTを含めて1日70件まで検査が増加したことから2台体制となりました。Aquilion Precisionは単純CTを中心に、Aquilion ONE / GENESIS Editionでは造影と心臓を撮影しています。また、設置場所の関係からCOVID-19患者の撮影もAquilion Precisionで行っています」と言う。
Aquilion Precisionは、0.25mmスライス厚の検出器を搭載し、従来より焦点サイズを小さくしたX線管球や高剛性寝台を組み合わせて高精細画像データが取得できる。同センターでは、基本的にすべての検査でSHRモード(0.25mm×1792ch)での撮影を行っている。画像については、512マトリックス・0.5mm厚再構成画像をPACSに保存し、0.25mm厚・1024マトリックスで再構成した画像は、高精細CTデータに対応した「Ziostation2」(ザイオソフト社製)で管理している。Ziostation2の端末は、Aquilion Precisionの操作室のほか、読影室、医局、病理科などに設置されている。MDDのカンファレンスでは、高精細画像をワークステーション(WS)で表示し、病理画像と対比してディスカッションを行っている。岩澤部長は、「間質性肺炎の治療では病理学的分類によって、抗線維化薬か抗炎症治療を行うかに分かれます。CTなどの画像情報だけでなく、病理なども含めて集学的な検討によって病態をできるだけ正確に把握することが必要です」と述べる。

高精細画像がもたらす新しい呼吸器診断

Aquilion Precisionでは、高精細画像で肺実質や気管支、血管などの微細な末梢構造の描出が可能になった。岩澤部長はAquilion Precisionでの画像診断について、「0.25mmと1024マトリックスの解像度で、従来のCTでは判定できなかった“Reid”の二次小葉の描出が可能になりました。これによって間質性肺疾患やCOVID-19肺炎などで、肺野内の変化がより理解しやすくなることが期待できます」と評価する。肺の組織はフラクタル(入れ子)構造になっており、小葉は“Miller”の二次小葉、Reidの二次小葉、細葉、亜細葉と小さくなる。従来はMillerの二次小葉より小さい構造は画像では認識できないため考慮されていなかった。Aquilion Precisionでは、約1cmのReidの二次小葉が病理標本との対比でも確認できる1)と岩澤部長は言う。
「日本では伊藤春海先生(福井大学名誉教授)が、びまん性肺疾患の理解には細葉やReidの二次小葉の理解が必要だと提唱されていました。Reidの二次小葉は肺全体でほぼ均一の大きさであり、病変による変化を把握しやすいからです。より微細な構造をとらえることができるAquilion Precisionの有用性は高いと感じています」

〈間質性肺炎〉
特発性間質性肺炎の中でも、特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)は約半数を占め予後も不良である。IPFの特徴的な画像パターンにUIP(usual interstitial pneumonia)がある。UIPは、小葉・細葉辺縁の肺胞が虚脱を伴う線維化を示す。Aquilion Precisionでは、線維化によって顕在化した小葉間隔壁が確認でき、病理組織像とも対応する(図1)。一方で、膠原病に合併して起こる強皮症に伴う間質性肺炎では、NSIP(nonspecific interstitial pneumonia)の画像パターンを呈するが、Aquilion Precisionでは、従来のCTではすりガラス影とされた部分が細かい線からなる網状病変として描出されている(図2)。岩澤部長は、「鑑別するには、小葉辺縁の線維化か、正常肺への移行が急峻かを読み解く必要があります。病理診断が第一ですが、生検が難しい場合もありますので、高精細CTである程度判断できるようになれば、治療方針の決定に寄与できる可能性が広がると考えられます」と述べる。

〈COVID-19肺炎〉
Aquilion Precisionは、COVID-19に伴う肺炎の診断にも有効となる。COVID-19肺炎では、感染による肺胞虚脱がもたらす換気不全と、通常は減少する血流が増加することで起きる換気血流不均等によって低酸素状態を示す。Aquilion Precisionの高精細画像では、局所の肺胞の虚脱や末梢の気管支の拡張、太くなった血管の状態を把握できる(図3)。岩澤部長は、高精細CTによるCOVID-19肺炎の診断について日本医学放射線学会誌(Japanese Journal of Radiology)で報告している2)、3)

〈AiCE Lungによる再構成〉
Aquilion PrecisionのAiCEでは、従来の“Body”に加えて、新たに“Lung”パラメータの利用が可能になった。岩澤部長は肺の画像診断におけるAiCEについて、「AiCEの再構成画像は、従来の逐次近似応用再構成である“Adaptive Iterative Dose Reduction 3D(AIDR 3D)”に比べて、アンダーシュートなどのアーチファクトがなくノイズも抑えられており、胸部の診断で要求される微細な構造の視認性が向上しています。UIPの線維化に対応した胸膜直下の辺縁の描出にも優れていると感じます。AiCE Lungでは、Bodyに比べてさらに画像がシャープになり、組織の微細な構造が認識できるようになりました」と評価する。

■Aquilion Precisionによる呼吸器画像診断

図1 50歳代、男性、特発性肺線維症 a:高精細CTの矢状断再構成像 b:病理組織像(HE染色) 病理組織像では小葉・細葉辺縁の虚脱を伴う線維化が見られる。CTでもこれに対応して、胸膜から立ち上がるような、とげ状の構造が見られる(→)。

図1 50歳代、男性、特発性肺線維症
a:高精細CTの矢状断再構成像
b:病理組織像(HE染色)
病理組織像では小葉・細葉辺縁の虚脱を伴う線維化が見られる。CTでもこれに対応して、胸膜から立ち上がるような、とげ状の構造が見られる()。

 

図2 40歳代、女性、強皮症に伴う非特異性間質性肺炎 a:高精細CTの矢状断再構成像 b:病理組織像(HE染色) 病理組織像では胸膜直下が保たれ、内部に汎小葉性に線維化が広がる。CTではそれに対応してごく細かい網状構造が見られる。

図2 40歳代、女性、強皮症に伴う非特異性間質性肺炎
a:高精細CTの矢状断再構成像
b:病理組織像(HE染色)
病理組織像では胸膜直下が保たれ、内部に汎小葉性に線維化が広がる。CTではそれに対応してごく細かい網状構造が見られる。

 

図3 40歳代、男性、COVID-19肺炎 斜位断像(b)では二次小葉の大きさがふぞろいで、病変部分での肺の容積減少がわかる。含気の少ない部分の血管が太く(c →)、hypoxic  pulmonary  vasoconstriction の破綻と換気血流不均等が示唆される。

図3 40歳代、男性、COVID-19肺炎
斜位断像(b)では二次小葉の大きさがふぞろいで、病変部分での肺の容積減少がわかる。含気の少ない部分の血管が太く(c )、hypoxic pulmonary vasoconstrictionの破綻と換気血流不均等が示唆される。

ADCTの動態撮影を胸腔鏡下手術の術前評価に活用

Aquilion ONE / GENESIS Editionでは、心臓CTのほか肺野領域ではArea Detectorを生かした動態撮影を行っている。肺全体を連続して撮影することで胸膜の癒着などの程度を評価している。同センターでは、肺切除術の9割が胸腔鏡下手術となっているが、術前に胸膜癒着の程度を把握することで、手術のアプローチ方法の検討やリスク回避につながっている。岩澤部長は、「面検出器と高精細CTの特性を生かして使い分けています」と言う。
Aquilion Precisionへの今後の期待として、岩澤部長は2048マトリックスの活用を挙げる。
「まだ、2048マトリックスではMPR処理が可能なWSがなく、AiCEも使用できません。病理標本の切片と合わせるためには、CT画像をMPRで任意の角度で表示することが必須になります。Aquilion Precisionの高い解像度の画像データを生かせる表示システムの開発が望まれます」
最新のCT技術が呼吸器疾患のさまざまな病態の描出を可能にして、呼吸器疾患の診療に貢献していく。

(2021年7月27日取材)

[参考文献]
1) 岩澤多恵, 他, 画像診断増刊号, 40(11):A140-153, 2020.
2) Iwasawa, T., et al., Jpn. J. Radiol., 38(5):394-398, 2020.
3) Aoki, R., et al., Jpn. J. Radiol., 39(5):451-458, 2021.

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Precision TSX-304A
認証番号:228ACBZX00019000
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-305A
認証番号:227ADBZX00178000

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神奈川県立循環器呼吸器病センター

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TEL 045-701-9581
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