Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2022年2月号

面検出器による高速撮影と高画質・低被ばくの小児心臓CTを術前形態評価に活用 〜1beat・ボリュームスキャンによる鎮静・息止めなしの心臓検査と低被ばくでこどもに優しい検査を実現〜

長野県立こども病院

長野県立こども病院

 

1993年に開院した長野県立こども病院(病床数200床)は、循環器疾患から救急医療・集中治療まで高度医療を提供して、長野県の小児・周産期医療の中核を担っている。同院では2021年3月にCTを更新し、キヤノンメディカルシステムズの320列Area Detector CT(ADCT)「Aquilion ONE / PRISM Edition」を導入した。面検出器の特長を生かした心臓検査や、ディープラーニング技術を応用した画像再構成技術“Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”による低被ばく検査など、小児専門施設でのCT検査の取り組みを取材した。

循環器小児科・瀧聞浄宏 部長

循環器小児科・
瀧聞浄宏 部長

放射線科・松下 剛 部長

放射線科・
松下 剛 部長

放射線技術科・青木宏志 科長

放射線技術科・
青木宏志 科長

長岡重之 科長補佐

長岡重之
科長補佐

 

周産期から小児を対象とした専門施設として高度医療を提供

同院は、総合周産期母子医療センターやNICU、PICUを開設し、3次救急医療を提供するなど、周産期から小児まで高度医療を提供する体制を充実させている。2010年には地方独立行政法人化して病院運営の基盤を強化し、2021年には成人先天性心疾患センター、移行期医療支援センターを整備するなど“未来を担う子どもたちとその家族のため”の医療を展開している。
放射線科は常勤医師が1名、そのほか非常勤で診断医2名、放射線治療医1名の体制で診療を行っている。放射線技術科の診療放射線技師は9名。画像診断機器としては、CTのほかMRI(1.5T)、心血管撮影装置、核医学(SPECT)、超音波診断装置を導入している。同院は地域医療支援病院として医療機器の共同利用にも取り組んでおり、放射線治療や核医学検査では地域の医療機関と連携して成人の検査や治療も行う。また、超音波検査については、心臓領域を循環器小児科医師と臨床検査技師が、それ以外の領域を放射線科医師と診療放射線技師で行う体制をとっている。そのほか、3Dプリンタを用いてCTデータから臓器モデルを作成する3Dモデル造形を2012年に開始して、院内・院外からの依頼を受けて作成しているのも特徴だ。

小児の心臓CT検査を目的としてADCTを導入

放射線科の検査件数は、月間でCT130件、MRI180件、核医学30件、超音波(心臓以外)70件などである。放射線科の松下 剛部長は小児領域の画像診断について、「小児の場合は、被ばくを考慮してMRIや超音波を選択することが多く、CTの件数はそれほど多くありません。CTでは、術前シミュレーションのための形態評価、緊急疾患の血流評価、外傷での広範囲撮影などの検査を行っています」と述べる。循環器小児科の瀧聞浄宏部長は循環器領域の小児画像診断について、「CTの撮影は、手術やカテーテル治療の術前の治療計画、術後の治療効果判定などが目的です。小児では被ばく低減の観点から、心機能の観察はMRIや超音波で行い、CTは心外構造の把握など形態に特化した検査を行っています」と述べる。
今回のCTの更新では、小児の心臓検査を主なターゲットにして機種選定を行った。放射線技術科の青木宏志科長は、「小児の心臓は大人より心拍が速いこと、また、体動の抑制が難しいことから空間分解能だけでなく、高い時間分解能が求められます。小児の心臓をとらえられるスピードと、同時に被ばくを低減した検査が可能なことを条件として仕様書を作成し、機種を選定しました」と説明する。具体的には面検出器と2管球のCTを候補としたが、16cmの範囲を1回転0.275sでカバーし、AiCEなどを活用した低被ばく検査が可能なAquilion ONE / PRISM Editionが導入された。

AiCEで高画質かつ低被ばくの小児CT検査を実現

同院では、心臓CTについては64列の時から、他施設より被ばく線量を抑えながら、全身麻酔による鎮静と心電図同期撮影を行うことで質の高い画像を作成してきた。瀧聞部長は、「Aquilion ONE / PRISM Editionでは、64列の画像と比較して画質が格段に向上し、小児の小さい心臓でも細かい血管までクリアに把握できるようになりました」と評価する。CT検査を担当する長岡重之科長補佐は、「心臓検査に関しては、現在は64列の時と同じ線量(CTDIvol)で撮影していますが、今後は線量を下げながら画質を調整する予定です。64列では通常より線量を抑えていたため、末梢構造の描出不良や全体的な画像のざらつきなどがありましたが、Aquilion ONE / PRISM Editionでは高速撮影とAiCEによる画像再構成によって画質が向上して、手術支援につながっています」と述べる。松下部長はAquilion ONE / PRISM Editionでの検査について、「撮影時間が短くなったことで、造影のタイミングを逃さずに最適な検査ができている印象です」と評価する。
Aquilion ONE / PRISM Edition導入後、AiCEの適用で心臓領域以外の検査でも被ばくを低減した撮影が可能になっている。長岡科長補佐は、「胸部の漏斗胸の撮影は骨の形態を見るために従来から線量を落として撮影していましたが、AiCEの適用でさらに1/6〜1/7の線量で検査が可能になりました。低線量でもノイズが抑えられて従来と変わらない画質が得られています」と述べる。Aquilion ONE / PRISM Editionでの漏斗胸術前検査(図1)では、64列と比べてCTDIvol=10.9→1.7mGy、DLP=536→83.25mGy・cmとなっている。

ボリュームスキャンで麻酔による鎮静検査が減少

Aquilion ONE / PRISM Editionでは、高速のボリュームスキャンを生かした短時間撮影で鎮静の方法が変わったと瀧聞部長は次のように言う。
「16cmの範囲を0.275sの高速で撮影できるので、従来のように麻酔による鎮静や息止めが必要なくなりました。患者さんにとってやさしい検査が可能になっています」
同院では、息止めや体動抑制が難しい患児の検査のため、週1回、麻酔科医が放射線科に常駐して呼吸管理下での鎮静検査を行っている。青木科長は、「経口薬などによる鎮静検査は通常の検査の中で行いますが、深い麻酔が必要な検査については曜日を決めて麻酔科医の呼吸管理の下でMRIや核医学などの検査を行っています」と述べる。以前はCTも麻酔の鎮静による検査を週4件前後行っていたが、Aquilion ONE / PRISM Edition導入後はほとんどなくなった。長岡科長補佐は、「以前は、心電図同期を行う心臓CT検査はヘリカル撮影で息止めが必要で、そのために全身麻酔をかけて検査を行っていました。Aquilion ONE / PRISM Editionは、心臓を1ボリュームでカバーできれば1beatで撮影できるので、麻酔による鎮静や呼吸管理なしで検査が可能になりました(図2)」と語る。
また、長岡科長補佐は、面検出器の広範囲撮影でベッドを動かさずに撮影ができることも小児の検査ではメリットだと言い、「当院では重篤な症例が多く、挿管チューブや点滴ルートが10本以上入った状態で検査することがあります。スタッフが監視していますが、やはりベッドの移動はリスクになりますので、ベッドを動かさずに撮影できるADCTは安全面でもメリットは大きいと感じています」と述べる。実際に、新生児を寝台に寝かせてボリュームスキャンを行うことで、入眠を待ったり鎮静することなく胸部撮影が可能で、長岡科長補佐は、「簡単な固定で撮影でき、一般撮影に近い感覚で検査が可能になっています」と言う。さらにAquilion ONE / PRISM Editionでは、コンソールから寝台の上下左右の位置調整が可能な“SUREPosition”を利用できる。
長岡科長補佐は、「撮影のポジショニングのためにせっかく寝た子を起こしたくありませんので、寝台に寝かせたまま天板だけを移動してアイソセンターに合わせられるSUREPositionは助かっています」と述べる。

■Aquilion ONE / PRISM Editionによる臨床画像

図1 ‌低線量にて撮影した漏斗胸術前画像 CTDIvol:1.70、DLP=83.25

図1 ‌低線量にて撮影した漏斗胸術前画像
CTDIvol:1.70、DLP=83.25

 

図2 小児心臓CT心電図同期検査 a:息止め指示なしにて1beat撮影 b:呼吸や心拍の影響がなく正しく、血管計測が可能

図2 小児心臓CT心電図同期検査
a:息止め指示なしにて1beat撮影 b:呼吸や心拍の影響がなく正しく、血管計測が可能

 

小児心臓CTでの超解像技術への期待

キヤノンメディカルシステムズは、2021年11月にディープラーニングを応用した超解像画像再構成技術“Precise IQ Engine(PIQE)”などを搭載したAquilion ONE / PRISM Editionを新たに発売した。PIQEは、高精細CT「Aquilion Precision」のSHRモードで撮影した教師データを用いて、Model Based Iterative Reconstruction(MBIR)やAiCEを適用してdeep convolutional neural network(DCNN)を構築、これを装置に搭載することでADCTで撮影したNormal Resolution(NR)画像の高精細化と優れたノイズ低減効果の両立を実現した技術だ。瀧聞部長はPIQEへの期待について、「PIQEを適用した画像は、AiCEと比べても明らかに空間分解能が向上していると感じました。現在のADCTとAiCEの画像でも描出能は向上しており、おおよその形態であればCT画像のみで診断が可能です。しかし、本当にクリティカルな1mm以下の血管の内腔評価や形態の把握のためには、まだカテーテル検査が必要です。PIQEの超解像技術では、さらに細かい血管や形態までを描出することでCT画像のみで手術が可能になることが期待されます。低線量でベストの画像を得ることが診断や治療のレベルを向上することにつながりますので、超解像技術でどこまで可能か今後の検討に期待しています」と述べる。
さらなる高画質と低被ばくをめざすCTの進化が、小児医療の最前線を支えることが期待される。

(2022年1月7日、11日取材)

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000

※AiCE、PIQEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており、本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

 

長野県立こども病院

地方独立行政法人長野県立病院機構 長野県立こども病院
長野県安曇野市豊科3100
TEL 0263-73-6700
http://nagano-child.jp/

 

  モダリティEXPO

 

●そのほかの施設取材報告はこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP