Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2026年7月号

骨経時差分処理による骨転移や骨折の見逃しリスク低減に加えた新しい画像診断の可能性 ~Abierto RSSのTemporal Subtraction For Boneでがん治療患者の骨量変化を画像化してQOLの向上をめざす~

鳥取大学医学部附属病院

藤井進也 教授

藤井進也 教授

 

鳥取大学医学部附属病院では、2025年4月にキヤノンの読影支援ソリューション「Abierto Reading Support Solution(Abierto RSS)」のAI技術を用いた骨経時差分処理「Temporal Subtraction For Bone(以下、TSB)」を導入し、経過観察CTの読影に活用している。TSBは過去画像との経時差分処理によって骨の性状変化を強調表示して読影をサポートするが、同院ではTSBの画像を骨転移や骨折の検索だけでなく、経時的な骨代謝の変化に着目して、がん治療における骨減少症などさまざまな疾患の病態を明らかにするツールとなる可能性について検討を進めている。TSBによる骨画像診断の新たな可能性について、画像診断治療学分野(放射線科)の藤井進也教授にインタビューした。

画像診断とIVRの両輪で放射線医学に取り組む

画像診断治療学分野(放射線科)は、1955年に阿武保郎教授によって開設された。藤井教授は4代目となる。画像診断部門とIVR部門があり、両部門が臨床・研究・教育のすべての面で団結しながら、地域医療のみならず放射線医学の発展に貢献する医師の育成をめざしている。放射線科のスタッフは20名で、診断専門医が11名(うちIVR専門医4名)、専攻医9名となっている。藤井教授は教室の特色について、「大人数の医局ではありませんが、鳥取県と同じように“スモール・イズ・パワフル(平井伸治鳥取県知事)”をモットーに日々の診療に取り組み、楽しく仕事をすることを心掛けています。教室は代々IVRに力を入れてきた背景から、IVRを専門とするスタッフが多いのが特徴です」と話す。IVRの2025年の治療件数は1271件で、全国でも13位、国公立大学の中では4位という実績を誇る。
画像診断では、CT、MRI、核医学について読影しているが、「画像診断の数は年々増えており、件数的には余裕はありませんが、読影に関してもIVRを専門とするスタッフも検査がないときはヘルプに入ってくれて、全員で協力して進めています。診断医には1日35件をノルマとして、週に1日だけは60件の日を設けてメリハリをつけて読影業務を行っています」と話す。

鳥取大学医学部統合内科医学講座画像診断治療学分野のスタッフ

鳥取大学医学部統合内科医学講座画像診断治療学分野のスタッフ

 

医療安全や読影の業務負担軽減をめざしTSBを導入

同院では、2025年4月に画像診断管理加算4の体制の構築をめざして、TSBを導入した。TSBの導入について藤井教授は、「経過観察CTは、読影する範囲が広く集中力が求められ読影医にとっては負担の大きい読影業務です。一方で、見逃しは担がん患者の圧迫骨折などにつながり、患者さんのQOL低下に直結します。以前から経時差分による骨病変の検出技術には注目していて、医療安全の観点でも読影医の負担軽減の面でも、これらを用いたシステムを導入したいと考えていました」と説明する。
TSBは、Abierto RSS上で稼働するアプリケーションで、同院ではほかに肺野の関心領域を抽出するアプリケーション(EIRL Chest CT)が導入されている。CTの画像は、画像解析用サーバ「Automation Platform」に転送され、過去画像の取得から位置合わせ、経時差分処理があらかじめ設定したルールで行われる。同院のPACSはPSP社製が稼働しているが、TSBの画像は読影ビューワ「EV Insite R」上でセカンダリーキャプチャとして、ほかのCTのシリーズと同一画面上で参照できる。CTはキヤノン製を含めてマルチベンダーで3台が稼働するが、異なるベンダーの画像でも問題なく差分画像を作成し運用されている。同院では、担がん患者のフォローアップ症例を含め全例でTSBを作成している。差分画像については、「直近の検査を対象にすることもできますが、当院では2年前までの検査で一番古い画像を差分の対象としています。そうすることで、微妙な変化もとらえることができています」(藤井教授)と説明する。

過去画像との差分で骨の経時的変化を画像化し読影を支援

TSBでは、体幹部のCT画像に対し過去画像との骨差分画像を作成することで、骨の経時的変化を見える化して骨領域の読影業務をサポートする。差分後にCT値が下がった部分を赤色(溶骨性変化)、上がった部分を青色(硬化性変化)としてCT画像上にフュージョンして表示する。表示では、横断像のほか3D画像で全体を俯瞰的に観察することができ、横断像で観察している部分が明示されるようになっている。藤井教授は、「ダブルチェックをしていると、1次読影医が骨折などの複数ある病変を見逃していることが、TSBを使ってみるとわかり、医療安全という観点からもTSBでチェックする有用性を感じています」と言う。実際に骨折では肋骨や椎体など複数ある骨折が見逃されるケースがあり、藤井教授は、「高齢者では必ずしも痛みが強く出ないことがあり、骨折に気づかず生活しているケースもあります。患者のQOLの向上のためにも、病変を確実に拾い上げることが重要です」と述べる。また、骨転移についても腹部から骨盤部に広く点在する多発性骨転移がTSBで描出できる。藤井教授は、「こういった微小な多発性の転移は、時間をかければ拾い上げることは可能ですが、TSBであれば微小な転移を3Dで全体を確認しながら、短時間で確実に拾い上げることが可能です」と評価する。

骨経時差分処理画像が示す経過観察CTの新たな可能性

一方で、藤井教授がTSBの新たなメリットとして挙げるのが、骨折や骨転移の拾い上げにとどまらない、経時差分画像の可能性だ。藤井教授は、「TSBの経過観察CTの画像を見ていく中で、骨転移や骨折だけではなく、経時差分画像が示す骨代謝の変化がさまざまな病態を反映していることがわかってきて、その可能性について検討を進めているところです」と述べる。

〈癌治療関連骨減少症〉
図1は、前立腺がんホルモン療法併用IMRT後の患者だが、骨棘に重なるように骨吸収値の減少を示す赤色が見られる。藤井教授は、「従来、骨棘はTSBでは骨吸収値上昇の青色の変化を示すことが多く、赤色の変化を示していることに違和感を覚えました。ホルモン療法との関連があるのではと思い、文献検索やほかの症例を評価したところ、ある病態に関連があることがわかりました」と述べる。これは、癌治療関連骨減少症(cancer treatment-induced bone loss:CTIBL)と呼ばれる病態で、ホルモン療法、化学療法、分子標的薬や放射線治療によって、骨代謝に影響を与えて骨吸収や骨量減少を惹起する。前立腺がんでは、アンドロゲン除去治療でアンドロゲンが抑制されて骨密度の低下が惹起され、骨粗鬆症患者と同程度の骨折リスクがあるとされている。藤井教授は、「CTIBLによる骨粗鬆化への対応は、がん診療連携拠点病院でも十分に行われていないのが現状です。TSBによる解析で骨粗鬆化の状態が把握できれば、臨床医に対して適切な情報を提供し、がん患者のQOL向上に役立てられるのではと考えています」と述べる。

〈医原性早発閉経〉
同様の骨代謝の変化は、藤井教授の専門である産婦人科領域でも認められた。図2は、30歳代、子宮体がんに対して両側付属器摘出術(BSO)が施行された患者のTSBだが、全身の骨にびまん性の骨粗鬆化が見られる。これは医原性早発閉経と考えられ、BSOによる外科的閉経、化学療法、放射線治療などで低エストロゲン状態が生じ、骨粗鬆症や骨折のリスクが上昇するとされている。また、BSO後に化学療法・放射線治療同時併用療法(Concurrent Chemo-radiotherapy:CCRT)が施行された患者では、直接照射範囲に含まれない上部椎体も骨密度が低下していることがTSBでわかる(図3)。藤井教授は、「こういった病態は従来CTではわからなかったもので、TSBによって初めて明らかになった病態だと思います。45歳未満でBSOを受けた患者さんの骨折リスクはそれ以降に比べて高く、がん治療中のAYA世代のQOLの向上にも貢献できるのではと期待しています」と述べる。

■Abierto RSS  Temporal Subtraction For Boneの臨床画像

図1 70歳代、前立腺がんホルモン療法併用IMRT後、フォロー目的 骨棘の硬化性変化(青色)に重なるように赤色(骨吸収値減少)が認められる。

図1 70歳代、前立腺がんホルモン療法併用IMRT後、フォロー目的
骨棘の硬化性変化(青色)に重なるように赤色(骨吸収値減少)が認められる。

 

図2 30歳代、子宮体がんに対して準広汎子宮全摘術+両側付属器摘出術(BSO)+骨盤リンパ節郭清術後1年 全身の骨にびまん性の骨粗鬆化が見られる。

図2 30歳代、子宮体がんに対して準広汎子宮全摘術+両側付属器摘出術(BSO)+骨盤リンパ節郭清術後1年
全身の骨にびまん性の骨粗鬆化が見られる。

 

図3 30歳代、子宮頸がんⅢC1r期、CCRT後1年 照射範囲に含まれない上部椎体も骨密度が低下している。

図3 30歳代、子宮頸がんⅢC1r期、CCRT後1年
照射範囲に含まれない上部椎体も骨密度が低下している。

 

TSBがもたらす画像診断の新たな可能性に期待

藤井教授はTSB導入の効果について、「病変の見逃しリスクは確実に低減しており、読影医にとってTSBがあるという心理的な安心感は確実に上がっています。さらに、TSBの解析結果をフルに活用することで、これまで負担だった経過観察のCTの読影業務が、新たな発見や病態生理を考えるきっかけになるツールとなっていることが大きなメリットだと言えますね」と語る。TSBのこれからの可能性については、「MRIではDWIBSが日本発の新しい撮像法として広がったように、TSBがCTの新たなコントラストとなって、これを生かしたさまざまな研究が日本から広がっていくことを期待しています」(藤井教授)と述べる。
読影支援ソリューション活用の方向性と今後の期待について藤井教授は、「良いものであれば積極的に取り入れたいと考えています。もちろん費用対効果という課題はありますが、TSBはそれが十分見込めるソフトウエアだと感じています。AIには人間の能力を超えたところ、例えばリンパ節の腫大が転移かどうかの鑑別など、人の眼だけでは判断がつかない部分の支援を期待しています」と評価する。
TSBの骨差分画像がもたらす画像診断の新たなフロンティアの可能性に期待が高まる。

(2026年5月19日取材)

*本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり、本システムが自己学習することはありません。
※本システムによる検出結果のみで病変のスクリーニングや確定診断を行うことは目的としておりません。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

●Abierto Reading Support Solution は、Automation Platform(SCAI-1PF)、汎用画像診断ワークステーション用プログラム Abierto SCAI‐1AP、及びパートナー企業から提供される解析アプリケーションなどによって構成されるソリューションの名称です。

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名:汎用画像診断ワークステーション用プログラム Abierto SCAI-1AP
認証番号:302ABBZX00004000
製造販売元:キヤノン株式会社

EIRL Chest CTはエルピクセル株式会社の医療機器です。
販売業者はキヤノンメディカルシステムズ株式会社です。

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名:医用画像解析ソフトウェア  EIRL Chest CT
製造販売認証番号:304AGBZX00037Z00

 

鳥取大学医学部附属病院

 

鳥取大学医学部附属病院
鳥取県米子市西町36-1
TEL 0859-33-1111
https://www2.hosp.med.tottori-u.ac.jp

 

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