Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)
2026年9月号
「医療機関のためのMRIリニューアルWebセミナー〜マグネットは“活かせる資産”です」より
既存マグネットを活かしたリニューアルで最新のDLR-MRIと同等のパフォーマンスを実現
伊藤博敏 氏(医療法人財団康生会 梶井町放射線診断科クリニック 所長)
厳しい医療経営環境が続く中で、医療機関にとってMRIの更新は、診療の質維持のために必要な投資ながら、更新時のイニシャルコストやダウンタイムが大きな課題となる。キヤノンでは、既存MRI装置のマグネットをそのまま活用して、ディープラーニングを用いて設計したSNR向上技術を搭載したDLR-MRI(Deep Learning Reconstruction-MRI)への更新を行う「リニューアルソリューション」を提供している。同社が主催した医療機関のためのMRIリニューアルWebセミナー「マグネットは“活かせる資産”です」では、リニューアルソリューションを利用して「EXCELART Vantage powered by Atlas」から「Vantage Gracian」へ更新した医療法人財団康生会 梶井町放射線診断科クリニック所長の伊藤博敏氏が、臨床面での改善効果について症例を含めて報告した。
施設の概要
梶井町放射線診断科クリニックは、2008年開院の画像診断専門施設であり、3T MRI、1.5T MRI、マルチスライスCT、超音波診断装置などを備えている。MRI は1日約40件の検査を実施し、高稼働率を維持している。乳腺、心臓、胎児といった特殊領域のMRIにも対応可能で、常勤3名と非常勤の放射線診断医による体制で、質の高い画像診断サービスを提供している。
MRIリニューアルの概要
今回、2008年から使用していたEXCELART Vantage powered by Atlas(以下、EXCELART Vantage)をリニューアルした。当院には3T MRIも設置ずみのため、EXCELART Vantageでは頭部や関節、前立腺などを除いた、脊椎、腹部、女性骨盤、乳腺、心臓などを中心に検査を行っていた。2024年8月に1か月強の工期をかけて、既存マグネットを残したまま、そのほかのコンポーネントを入れ替える形でVantage Gracianに更新した。従来の基本性能を生かしつつ、最新のアプリケーションや撮像技術を導入することが可能となった。
リニューアルソリューションは、短工期でダウンタイムが少なく、費用面でも新装置導入よりも低コストに抑えられるという大きな利点がある。さらに、最新機種と同等のアプリケーションが利用でき、画質、スピード、診断能のすべてにおいて高い水準を実現している。特に、「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」は、ディープラーニングを用いて低SNR画像から高SNR画像を作成して高分解能画像を得ることができる。圧縮センシングを用いた「Compressed SPEEDER」などの高速撮像技術と組み合わせることで、さらなる撮像時間の短縮によって検査の効率化を図ることも可能となっている。
臨床面でのメリット
高SNRや高画質と、高速撮像を含めた検査の効率化はいずれもトレードオフとなるが、今回のリニューアルソリューションによる更新で、このバランスを取る範囲を顕著に拡大することができる。SNRの大幅な向上、高分解能化、撮像時間の短縮といった恩恵が同時に得られ、日常診療における画質の安定性と診断能の向上が確実に実感できている。撮像時間の短縮は、検査数増加、効率化といった面もあるが、画質を維持しながら撮像スピードを向上できることから呼吸停止不良、体動制御困難患者や小児の検査において大きなメリットがある。また、時間分解能の向上やシーケンスの追加にそのメリットを利用することも可能である。
症例提示
放射線診断専門医として、日々の診療で装置の性能向上が、どのように診断に寄与しているかを実感しており、画像の変化と診断能への影響を中心に症例を提示する。
1.多発分枝型IPMN患者における2D-MRCP(図1)
多発分枝型IPMN患者における2D-MRCPで、同一症例のリニューアル前後の比較画像を提示する。リニューアル後のVantage Gracianでは、高いSNRにより高分解能化が達成されており、多発する分枝型IPMNの形態評価や分枝膵管との連続性の評価が容易になり、肝内胆管もより描出されていることがわかる。
図1 多発分枝型IPMN患者における2D-MRCP
2.甲状腺眼症の眼窩部MRI(図2)
甲状腺眼症の患者における眼窩部MRIで、同一症例のリニューアル前後の比較画像である。眼窩部MRIはFOVが小さくスライス厚も薄いことから、SNRが厳しく高画質化には比較的長い撮像時間が必要となる。バンド幅の関係や目が動くといった制約から、思ったような画像が得られにくい領域である。リニューアル後のVantage Gracianでは、従来と同等撮像時間あるいはそれ以下で高分解能化を達成し、モーションアーチファクトも減少している。もともとSNRの厳しいSTIR画像での画質向上が顕著であり、外眼筋の腫大や異常信号が明瞭で所見の増悪が詳細に描出されている。
図2 甲状腺眼症の眼窩部MRI
3.左浸潤性乳管癌(図3)
左浸潤性乳管癌の症例で、リニューアル前後の画像を提示する(別症例)。EXCELART Vantageでは左C領域辺縁に乳がんが認められる。一見問題のない画像だが、拡散強調画像(DWI)はノイズに埋もれ何も描出されていない。Vantage Gracianでは左AC領域に乳がんが認められる。従来機種と同程度のサイズの症例をピックアップしているが、拡散強調画像では高信号の腫瘍と歪みの少ない背景乳房がはっきりと描出されている。
リニューアル前後の画像を詳細に比較すると、T2強調画像での脂肪抑制精度の向上、造影後3D T1強調画像のSNRの改善が見られる。それによって造影後の3D T1強調画像をシンスライス化でき、矢状断撮像を2D追加撮像からMPRに変更した。特筆すべきは上述した拡散強調画像の画質改善で、腫瘍および背景乳房が明瞭に描出されている。これは「RDC DWI(Reverse encoding Distortion Correction DWI)」と呼ばれる位相エンコードの方向を順逆の2方向で収集し、歪み量を表すシフトマップを作成して各画像を補正する技術によるものである。このように新しいアプリケーションの導入により、診断能の向上が認められている。
図3 左浸潤性乳管癌
4.胎児MRI:Severe conditionでより威力を発揮(図4)
胎児MRIもSNRやモーションアーチファクトの問題が大きく、撮像が非常に難しい領域である。胎児横隔膜ヘルニアの症例でリニューアル前後の画像を提示する(別症例)。SNRの向上により、胸腔に脱出した腸管や臓器の評価がしやすくなっている。胎児のMRIにおいても顕著なSNR向上が見られる。図4右下の胎児肝門部囊胞性病変の精査では、その形態から胆管囊腫だと確定できた。
図4 胎児MRI:Severe conditionでより威力を発揮
5.追加シーケンスによる診断能向上(bone weighted image)(図5)
撮像時間の短縮によって検査枠内での時間に余裕ができることから、ルーチン撮像に加え追加撮像が可能になり診断能の向上を図ることができる。図5の症例は腰痛の10歳代、男性で、椎間板ヘルニアはなく、椎弓に骨髄浮腫もなく、疲労骨折所見も指摘できない。bone weighted imageを追加したところ、両側椎弓の偽関節が明瞭に描出され脊椎分離症と診断された。従来、bone weighted imageはSNRや撮像時間の問題からなかなか追加撮像ができなかったが、リニューアルによって容易に追加が可能となった。
図5 追加シーケンスによる診断能向上(下段:bone weighted image)
まとめ
既存マグネットを利用したリニューアルソリューションによって短工期での更新が可能となった。装置の性能は最新機種と同等であり、AiCEなどの最新アプリケーションの導入により、高画質・高分解能化・高効率化の落としどころを任意に設定可能となった。診断能の向上や確信度の向上を可能とし、高いコストパフォーマンスで患者・医療従事者の負担軽減と医療の質の向上が可能となっている。当院での事例が、MRI装置選定や更新の参考となれば幸いである。
(2025年8月6日オンラインで開催)
*本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり、本システムが自己学習することはありません。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Elan MRT-2020
認証番号:225ADBZX00170000
類型:Vantage Gracian
製造販売元:キヤノン株式会社

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