セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

2019年11月号

第97回日本消化器内視鏡学会総会ランチョンセミナー27 エキスパートから学ぶERCPベーシックテクニック

胆管挿管の基本

安田 一朗(富山大学大学院医学薬学研究部内科学第三講座)

安田  一朗(富山大学大学院医学薬学研究部内科学第三講座)

近年、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)関連手技は著しい進歩を遂げているが、一方で、ERCPに伴う合併症のリスクは軽視すべきではない。ERCPの成功に重要な胆管挿管の基本を解説する。

挿管には造影法とガイドワイヤ法のハイブリッド法が有用

胆管挿管は、スコープを挿入した後、十二指腸乳頭を正面視し、胆管へ挿管するという手順を踏む。乳頭を正面視するポジションには、Push position、Semi-stretch position、Stretch positionがあるが、Push positionをとることは少なく、乳頭の位置により、Semi-stretch positionかStretch positionをとる(図1)。乳頭との距離は、近景、中間景、遠景があり、当科では近景で行うことが多い。なお近景では、スコープをかなり引いた状態になる(図2)。

図1 乳頭を正面視するポジション

図1 乳頭を正面視するポジション

 

図2 乳頭との距離

図2 乳頭との距離

 

膵管へは乳頭に対し垂直に挿入するのに対し、胆管に対しては通常11時半から12時方向に見上げたポジションで、すくい上げるように挿管する(図3 a、b)。挿入方向の判断は、口側隆起上縁やハチマキひだ、小帯の位置から判断する(図4)。

図3 胆管挿管の角度(a)と方向(b) (参考文献1)より転載)

図3 胆管挿管の角度(a)と方向(b)
(参考文献1)より転載)

 

図4 胆管挿管の角度の判断の基準

図4 胆管挿管の角度の判断の基準

 

胆管挿管は従来、造影チューブを使用する造影法が主だったが、近年、欧米ではパピロトームを使用したWire-guided cannulation(WGC)が多く行われている(図5)。当科では、造影チューブによる造影法を行っているが、最近はガイドワイヤを留置したまま造影可能な造影チューブも発売されており、造影とガイドワイヤ操作をコンビネーションで行う、いわばハイブリッド法が最も効率的と考えている。

図5 胆管挿管法

図5 胆管挿管法

 

膵管・胆管合流形態に合わせた挿管を行う

効率的なカニュレーションを行うには、膵管・胆管合流形態の分類についての理解が不可欠である。図6は大井至先生による合流形態の分類で、分離型、タマネギ型、隔壁型、共通管型に分類される。さらに、乳頭の外観と合流形態を関連づけたのが猪股分類である(図7)。

図6 膵管・胆管合流形態の分類(大井分類) (参考文献2)より転載)

図6 膵管・胆管合流形態の分類(大井分類)
(参考文献2)より転載)

 

図7 乳頭の形態分類(猪股分類) (参考文献3)より転載)

図7 乳頭の形態分類(猪股分類)
(参考文献3)より転載)

 

同分類では、開口部を別開口型、タマネギ型、結節型、絨毛型、平坦型、縦長型の6つの型に分類し、膵管・胆管合流形態を予測している。このうち別開口型は、乳頭をよく観察し、胆管を確実に選べばよく、また、中心から同心円状に溝があるタマネギ型は、真ん中に挿管すれば胆管に挿管できるため、難易度はさほど高くはない。一方、結節型、絨毛型、平坦型、縦長型の大半は隔壁型であり、挿管困難なことが多い。隔壁型をどう攻略するかが、胆管挿管の成功率を上げる上で重要なポイントとなる。隔壁型では、開口部上縁11時半〜12時をめくり上げるようにすると、うまく胆管に挿入できる(図8)。また、胆管開口部が結節(舌状突起)の裏側にある結節型も、難易度が高い(図9)。結節により胆管開口部が塞がれた状態になっており、比較的小さな結節の場合は結節ごと押しつぶして挿管するが、結節が大きい場合は、結節をすくい上げて挿管を行う。

図8 隔壁型における胆管挿管

図8 隔壁型における胆管挿管

 

図9 結節型における胆管挿管

図9 結節型における胆管挿管

 

胆管走行をイメージして深部挿管を行う

深部挿管のコツは、胆管走行をイメージすることである。
口側隆起が大きいと、胆管下端の狭窄部(narrow distal segment:NDS)が長く、胆管軸の変化が顕著な場合が多い。ガイドワイヤの使用が有用だが、いずれにしろ胆管走行がイメージできないと処置は難しい。このような症例では、スコープや造影チューブを引いてスコープのアップアングルを緩め、鉗子起上を緩めて左アングルをかけるといった各動作をほぼ同時に行い、チューブの先端方向と胆管走行軸を合わせる必要がある(図10)。
また、乳頭へのアプローチに際し、各操作によってカテーテル先端がどのような軌道を描くかをイメージすることも重要である。例えば、カテーテルを出していくと、曲がり癖のため先端が右方向に曲がってしまう傾向がある。そのような場合は、カテーテルを出しすぎず、スコープのアップアングルを用いた方が、乳頭に対しまっすぐに進むということは覚えておくべきポイントである。

図10 胆管走行軸にチューブの先端方向を合わせる

図10 胆管走行軸にチューブの先端方向を合わせる

 

胆管挿管困難例には膵管ガイドワイヤ法が有用

胆管挿管困難例の対処法としては、膵管ガイドワイヤ法/Double guidewire法や十二指腸乳頭部の粘膜を切開するプレカット法、超音波内視鏡ガイド下ランデブー法(EUS-rendezvous)などがある。
膵管ガイドワイヤ法は、膵管にガイドワイヤを留置する方法で、乳頭が固定されるため、乳頭の可動性が高い、あるいは呼吸性の動きが大きい症例に対し、非常に有用である。また、胆管の下端が直線化し、胆管開口部が広がるため、胆管カニュレーションが容易になる。
プレカット法には、主に4つの方法がある。このうち、Needle knife(freehand) precut papillotomyが最も一般的な方法で、針状メス(needle knife)で胆管開口部から上方へ切開するか、あるいは、胆管開口部
より上方の乳頭隆起から下方へ切開する(図11)。また、プレカット法はERCP後膵炎(post-ERCP pancreatitis:PEP)のリスクが高いとされるが、開口部の上方で胆管を穿刺するFistulotomy(Infundibulotomy)や、膵管ステントをあらかじめ留置するNeedle knife papillotomy over pancreatic stentは、PEPリスクの低減や膵管・膵管口の損傷を防ぐという点からも有用である。さらに、膵管にパピロトームを挿入し、胆管方向に切開するTranspancreatic sphincterotomyは、プレカット法の中で最も容易な手法である。

図11 Needle knife(freehand) precut papillotomy

図11 Needle knife(freehand) precut papillotomy

 

胆管挿管困難例に対して近年、注目されているのがEUS-rendezvous法である。これは、EUSで胆管を穿刺して、ガイドワイヤを乳頭に出し、そのガイドワイヤを利用してERCPを行う方法である。岐阜大学の岩下拓司先生からご提供いただいた症例を供覧する(図12)。胃がんの十二指腸浸潤で乳頭の正面視がまったくできないため、十二指腸下行部から膵内胆管を穿刺した後、ガイドワイヤを乳頭から出し、ここでスコープを十二指腸鏡に入れ替えて、ガイドワイヤ越しにERCPカニューラを挿入して胆管ステント留置を行っている。なお、本症例では、ガイドワイヤの把持にスネアを用いたが、最近は把持鉗子や生検鉗子を用いることが多い。
しかし、EUS-rendezvous法の適応となる症例は、実際にはさほど多くない。自験例では、先発する若手医師のERCP成功率は約85%で、上級医が膵管ガイドワイヤ法やプレカット法を駆使すると、97%は胆管挿管可能であった。つまり、実際にEUS-rendezvous法を用いる症例は、約3%程度と考えられる。

図12 EUS-rendezvous法を用いた症例 (動画ご提供:岐阜大学・岩下拓司先生) (参考文献4)より引用)

図12 EUS-rendezvous法を用いた症例
(動画ご提供:岐阜大学・岩下拓司先生)
(参考文献4)より引用)

 

●参考文献
1)The Korean Society of Pancreatobiliary Diseases : ERCP Color Illustration. KOONJA PUBLISHING INC., 2009.
2)大井 至 : 十二指腸内視鏡検査と内視鏡的膵胆管造影. Gastroenterol. Endosc., 28 : 2881-2883, 1986.
3)猪股正秋, 照井虎彦, 斉藤慎二・他 : ERCPの基礎とコツ/Pull法によるスコープの挿入, 選択的カニュレーションの基本手技, カニュレーション困難例に対する工夫. 消化器内視鏡. 17 : 1768-1776, 2005.
4)Iwashita T, et al.: EUS-guided rendezvous for difficult biliary cannulation using a standardized algorithm: a multicenter prospective pilot study (with videos). Gastrointest. Endosc., 83 (2) : 394-400, 2016.

 

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