セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

2019年11月号

第58回日本消化器がん検診学会総会ランチョンセミナー3 ここを見ている─最新装置の線量における透視観察と読影診断─

上部消化管検査における被ばく線量管理と画質追求

鈴木  孝(埼玉県済生会栗橋病院放射線技術科)

鈴木  孝(埼玉県済生会栗橋病院放射線技術科)

当院健診センターでは2016年、「Raffine-i」を導入した。本装置に搭載された“Dose-Manager”は、X線照射線量レポートによる「消化管検査の見える化」ができる。そこで、本講演では、X線照射線量レポートの線量計算値の精度について、線量計と比較検討した結果を概説する。さらに、X線照射線量レポートを用いた撮影技術の向上の取り組みを報告する。

はじめに

当院は、329床(一般325床・感染4床)の地域医療支援病院で、2016年3月に公益社団法人日本診療放射線技師会により、全国で59番目、埼玉県では8番目の「医療被ばく低減施設」として認定された。当院健診センターでは、キヤノンメディカルシステムズのデジタルX線TVシステム「Raffine-i」が稼働している(図1)。Raffine-iは検診に特化しており、“自動肩当て機能”により逆傾斜撮影時にも安心して検査を進めることが可能である。さらに、Raffine-iは、被ばく線量管理が可能な“Dose-Manager”を標準で搭載している。Dose-Managerは、non dosimeter dosimetry(NDD)法による線量計算を行い、1検査ごとにX線照射線量レポートとして、線量情報を確認することができる。

図1 当院健診センターが導入したRaffine-i(左)とDose-Manager(右)

図1 当院健診センターが導入したRaffine-i(左)とDose-Manager(右)

 

当院健診センターにおける過去5年間の上部消化管検査件数は、胃バリウム検査が2016年度の4591件をピークに、2018年は3844件となり、減少傾向にある(図2)。

図2 当院健診センターの上部消化管検査件数

図2 当院健診センターの上部消化管検査件数

 

一方で、上部内視鏡検査は、2014年度の992件から2018年度は1769件と、ほぼ倍増している。
当院の読影フローは、一次読影を撮影担当技師が行い、必ず前回検査画像との比較読影を行った上で、その結果を健診用胃部所見用紙に記入し、サインする。その後の二次読影は、日本消化器がん検診精度管理評価機構(精管構)の胃がんX線検診技術部門B資格者または胃がんX線検診読影部門B資格者が行う。一次読影と同様に、前回検査画像との比較読影をした上で、所見の追加や訂正、一次読影担当者へのアドバイスなどをして、二次読影終了後、読影所見にサインする。さらに、三次読影として、放射線科医が最終読影を行う。
これらの当院健診センターにおける上部消化管検査を踏まえた上で、本講演では、X線照射線量レポート、NDD法による線量計算値と線量計との線量比較、X線照射線量レポートを用いた撮影技術の向上について述べる。

X線照射線量レポートについて

厚生労働省では、2019年3月11日に「医療法施行規則の一部を改正する省令」(平成31年厚生労働省令第21号)を公布し、翌12日に厚生労働省医政局長通知「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行等について」(医政発 0312第7号)を発出した。本省令では、2020年4月1日から、診療用放射線に係る安全管理体制に関する規定が施行される。これにより、「エックス線装置又は新規則第24条第1号から第8号の2までのいずれかに掲げるものを備えている病院又は診療所」は、放射線を用いた医療の提供に際しての体制を確保しなければならなくなった。
具体的には、次の4項目が挙げられる。

(1) 診療用放射線に係る安全管理のための責任者の配置
(2) 診療用放射線の安全利用のための指針策定
(3) 放射線診療に従事する者に対する診療用放射線の安全利用のための研修
(4) 放射線診療を受ける者の被ばく線量の管理および記録、その他の診療用放射線の安全利用を目的とした改善のための方策

このうち特に重要となるのが、被ばく線量の管理・記録である。Raffine-iの標準機能の一つである、被ばく線量の管理・記録を行うためのX線照射線量レポートは、図3の上部消化管検査のデータのように、横軸がショット数、縦軸が面積線量となっており、棒グラフの青色が透視の面積線量、黄色が撮影の面積線量、折れ線グラフが積算の面積線量として表示される。さらに、積算X線線量データとして、積算線量(参照点)や透視積算時間など、詳細なデータも計測が可能である。しかし、図3の透視積算時間は14.8890秒となっており、上部消化管検査としては少なすぎるように思われ、導入当初、データの精度、信頼性に疑問が生じた。しかしこれは、例えば透視条件がフレームレート15fpsのパルス透視の場合、パルスを15回照射するため透視時間は1秒となるが、透視積算時間はパルス間の間隔を除した時間となるので、その分短縮されるためである。透視積算時間は「パルスレート×パルス幅×透視時間」で算出できることから、透視積算時間14.8890秒から透視時間を逆算すると、次のとおりとなる。

 透視時間=
  透視積算時間÷パルスレート÷パルス幅
  =14.8890秒÷15パルス÷0.005秒
  =198.52秒
  =3分18秒
 この3分18秒が、実際に透視スイッチを踏んだ総時間ということになる。

図3 Dose-ManagerのX線照射線量レポート

図3 Dose-ManagerのX線照射線量レポート

 

NDD法による線量計算値と線量計との線量比較

われわれは、Dose-ManagerのNDD法での線量計算による線量計算値と、線量計の線量比較実験を行った。使用装置はRaffine-iで、使用物品は線量計が「Cobia」(RTI Electronics社製)、ほかに20cmのアクリルファントムである。方法は、アクリルファントムを被写体として、上部消化管検査で用いる条件下において、各FPDサイズの透視線量と撮影線量を測定し、NDD法での線量計算値と線量計の測定値を比較した。パルス透視のフレームレートは15fps、FPDの視野サイズはノーマル(34cm)、M1モード(28cm)、M2モード(22cm)、M3モード(15cm)とし、図4のように測定の幾何学的配置を行った。

図4 X線照射線量レポートの線量計算値と線量計の線量比較実験の方法

図4 X線照射線量レポートの線量計算値と線量計の線量比較実験の方法

 

撮影線量の測定結果とその比較を図5に示す。青色の棒グラフが線量計の測定値で、赤色の棒グラフがNDD法の線量計算値である。各視野サイズにおいて、線量計の測定値とNDD法の線量計算値はいずれも同等の値を示し、NDD法の線量計算値と線量計で測定した入射線量との差はいずれも5%以内であった。これらの結果から、Dose-ManagerのX線照射線量レポートの信頼性は非常に高いと言える。

図5 撮影線量の測定結果比較

図5 撮影線量の測定結果比較

 

X線照射線量レポートを用いた撮影技術の向上

図6は、当院健診センターにおける基準撮影法と検診種である。当院では、基準撮影法2に、任意撮影として立位充盈像を追加し、13枚法、総曝射数17回としている。

図6 当院健診センターの基準撮影法と検診種

図6 当院健診センターの基準撮影法と検診種

 

図7は、胃がんX線検診技術部門B資格者である経験豊富な診療放射線技師(ベテラン技師)が撮影した、基準撮影法2と任意撮影の画像、およびそのX線照射線量レポートである。積算X線線量データを見ると、積算線量(参照点)は21.6733mGyで、透視積算時間は14.8890秒(=透視時間 3分18秒)であった。日本診療放射線技師会の「医療被ばくガイドライン2006」において、上部消化管(直接撮影)の1検査あたりの総線量の低減目標値は100mGyである。つまり、当院健診センターでは、大幅に低い線量による検査を行うことができていると言える。

図7 ベテラン技師による基準撮影法2と任意撮影の画像(左)とX線照射線量レポート(右)

図7 ベテラン技師による基準撮影法2と任意撮影の画像(左)とX線照射線量レポート(右)

 

一方、上部消化管検査を担当して1週間程度の経験の浅い診療放射線技師(新人技師)が撮影した、基準撮影法2と任意撮影の画像、およびそのX線照射線量レポートを図8に示す。積算X線線量データは、積算線量(参照点)が59.1980mGyで、透視積算時間は34.0060秒(=透視時間 7分33秒)であった。

図8 新人技師による基準撮影法2と任意撮影の画像(左)とX線照射線量レポート(右)

図8 新人技師による基準撮影法2と任意撮影の画像(左)とX線照射線量レポート(右)

 

新人技師の結果も、低減目標値に比べ低い線量ではあったが、両者を比較すると、明らかに新人技師の方が撮影と透視の両方でショット数が多い(図9)。また、ベテラン技師が最も多く透視を行っている時間を、新人技師のX線照射線量レポートのグラフ上に赤線で示すと、新人技師の透視時間が非常に長いことが明らかになった。

図9 ベテラン技師(上)と新人技師(下)のX線照射線量レポートの比較

図9 ベテラン技師(上)と新人技師(下)のX線照射線量レポートの比較

 

X線照射線量レポートのグラフから読み取ることのできる両者の透視および撮影の傾向として、ベテラン技師は、体位変換から撮影するまでの透視回数が必要最低限であり、撮影直前まで透視を行っていることがわかる。また、適正な曝射回数に近く、再撮影が少ない。そのため、被ばく線量も少なく、検査時間が短い傾向がある。一方、新人技師の場合は、体位変換から撮影までの透視回数が多く、透視時間が長い。また、撮影直前の透視時間が少ないため、透視の観察がしっかりできていないと言える。さらに、曝射回数が多く、再撮影も多くなっている。このようなことから、被ばく線量も多く、検査時間も長くなる傾向にある。
これらを踏まえると、上部消化管の撮影技術の向上には、次の4点が重要となる。

(1) X線照射線量レポートから、透視・撮影の傾向を把握する。
(2) 体位変換から撮影までを手際良く行い、撮影サイクルを素早くすることで造影効果の高い画像を得る。
(3) 撮影直前まで透視を行い、溜まり像、はじき像、粘膜ヒダの走行を観察する。
(4) すべての曝射を大切にする。

さらに、当院健診センターでは、X線照射線量レポートを基に、新人技師に対する指導方針を検討した。これまでは、すべての体位変換中透視していたが、バリウムがしっかり付着したところで透視観察を行うようにした。そして、素早く撮影をするように指導した。
指導から3か月後のX線照射線量レポートでは、手技が改善され、撮影直前で透視観察ができるようになった(図10)。積算X線線量データは、積算線量(参照点)が40.9127mGy、透視積算時間が18.5640秒(=透視時間4分7秒)となり、大幅な透視時間の短縮が図れた。被ばく線量の低減のみならず、スループットが向上し、検査効率も改善した。

図10 指導3か月後の新人技師のX線照射線量レポート

図10 指導3か月後の新人技師のX線照射線量レポート

 

まとめ

Raffine-iは、低被ばくで放射線防護の最適化を図れる。また、Dose-ManagerのX線照射レポートは、被ばく線量の記録が可能である。さらに、X線照射レポートでは、検査開始から終了までの透視・撮影の線量情報をグラフ表示でき、「消化管検査の見える化」を実現する。これにより、診療放射線技師ごとの撮影状況を明らかにでき、撮影技術の向上の一助となった。

 

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