セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

2021年11月号

第60回日本消化器がん検診学会総会ランチョンセミナー4 新しいX線TVシステムAstorex i9の使用経験

新しいX線TVシステムAstorex i9の使用経験 〜多目的検査「これからの可能性」〜

鈴木 達也[慶應義塾大学医学部放射線科学(診断)]

当院では、新しいデジタルX線TVシステム「Astorex i9」を導入した。放射線科だけでなく、泌尿器科や産婦人科などさまざまな診療科で多目的に使用しており、臨床経験を重ねることで、より強力なツールとなることが期待される。本講演では、Astorex i9の初期の使用経験や、その過程で感じた装置の特長や新機能などについて紹介する。

Astorex i9の特長

鈴木 達也[慶應義塾大学医学部放射線科学(診断)]

Astorex i9は、キヤノンメディカルシステムズ社製の新型汎用X線透視診断装置である。当院に導入後、放射線科や泌尿器科、産婦人科、リハビリ科、麻酔科、消化器外科、内科など多くの診療科で、多目的に使用している(図1)。
新型機ということもあり、各診療科と意見を交わしつつ臨床使用を開始したが、現在、装置の特長として感じているのが、(1) 省スペース、(2) 可動域/撮影可能範囲が広く、アプローチ性が良い、(3) 複数の新機能、(4) 被ばく低減、の4点である。
Astorex i9は、装置の奥行きが約173cmと小型な上、壁に密着して設置できる。そのため、手前に広いワークスペースを確保することが可能となり、ストレッチャーの移動も容易になった(図2)。
また、装置の可動域が広がったことで、手技のアプローチ性が向上している(図3)。Astorex i9はほぼ左右対称のデザインで、頭側、足側ともにFPDを天板端から9cmの位置まで移動が可能である。加えて、後半で紹介する“i-fluoro”機能を併用することで、拡大観察でも天板端から9cmの位置まで観察可能となり、各診療科からも好評を得ている。
さらに、Astorex i9はX線管焦点-受像面間距離(SID)を110cmから最長180cmまで変動可能であり(図4)、嚥下造影ではSID延長により圧迫感が軽減し、作業スペースが確保しやすくなっている(図5)。

図1 当院でのAstorex i9の使用用途

図1 当院でのAstorex i9の使用用途

 

図2 省スペース化を実現したAstorex i9

図2 省スペース化を実現したAstorex i9

 

図3 可動域/撮影可能範囲が広く、アプローチ性が向上

図3 可動域/撮影可能範囲が広く、アプローチ性が向上

 

図4 SID変動可能(110〜180cm)

図4 SID変動可能(110〜180cm)

 

図5 SID延長を嚥下造影に活用 造影剤の動きが良好に描出される。 (パルスレート:15fps、線量モード:Normal)

図5 SID延長を嚥下造影に活用
造影剤の動きが良好に描出される。
(パルスレート:15fps、線量モード:Normal)

 

Astorex i9の新機能

Astorex i9には、複数の新機能が搭載されている。導入から間もないため、すべての機能の活用には至っていないが、これまでに使用した機能について紹介する。

1.i-fluoro
i-fluoroは、天板や映像系を動かすことなく視野を移動、観察することを可能にした、Astorex i9の代表的な新機能である(図6)。また、従来装置ではFPDの中心を拡大していたが、i-fluoroではFPDの任意のエリアに視野を移動し、拡大することが可能になった。そのため、腎瘻造設や子宮卵管造影など台の端を使う検査や、末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)留置など視野の移動する検査での拡大観察を、患者や装置を移動することなく行える。手技中の寝台や患者の移動はトラブルの原因となり、術者にとってもストレスとなる。それが解消されるのは非常に重要であり、i-fluoroは、Astorex i9の新機能の中で最も有用な機能であると感じている。実際の様子を図7に示す。図では透視の代わりにライトを当てているが、患者や装置の移動なく、拡大視野の移動が容易になった。
i-fluoroを使用した症例を提示する。
図8は、右腎瘻のカテーテル交換症例である。全体像(図8 a)から患者を移動することなく、右腎の一部を拡大し、カテーテル交換を行った(図8 b)。i-fluoro使用下での造影剤内のワイヤーやカテーテルの視認性も十分であった。図9は膀胱瘻造影症例で、i-fluoroを用いて骨盤部の拡大を行ったが、本症例も同様に必要な情報がきれいに視認できた。当院では、骨盤内の子宮卵管造影も行っているが、一度患者が天板に乗ると患者の移動が困難な検査の一つとして、i-fluoroの有用性を産婦人科とともに評価している。

図6 i-fluoro(天板、映像系を動かすことなく、観たい部位を任意に観察可能)

図6 i-fluoro(天板、映像系を動かすことなく、観たい部位を任意に観察可能)

 

図7 i-fluoroを使用している様子(照射野のみが動き、天板や映像系が動かない)

図7 i-fluoroを使用している様子(照射野のみが動き、天板や映像系が動かない)

 

図8 i-fluoroの使用例:右腎瘻カテーテル交換症例

図8 i-fluoroの使用例:右腎瘻カテーテル交換症例

 

図9 i-fluoroの使用例:膀胱瘻造影症例 (パルスレート:7.5fps、線量モード:Normal)

図9 i-fluoroの使用例:膀胱瘻造影症例
(パルスレート:7.5fps、線量モード:Normal)

 

2.i-stitch
次に、“i-stitch”(長尺撮影)について紹介する。i-stitchは一連の曝射で全長撮影する機能で、主な使用目的は整形分野の全脊椎や下肢全長撮影である。当院では一般撮影室に長尺撮影システムが導入されているため、これらの目的ではなく、昨今必要とされているX線防護具(プロテクター)の管理や点検に使用している。その長尺撮影は、濃度ムラおよびつなぎ目がなくきれいに描出されている。10秒程度で撮影でき、その後すぐに画像を確認できるため、現場では非常に好評である(図10)。

図10 i-stitchによる防護具の撮影

図10 i-stitchによる防護具の撮影

 

3.i-slice
Astorex i9には新たに“i-slice”(トモシンセシス撮影)も搭載された。トモシンセシスは、金属アーチファクトに強く高空間分解能で、通常は胸部や整形分野などで利用される。ストロークが広いので、立位状態で低い位置のトモシンセシス撮影が可能となっている。患者に優しい体位でCTでは得られない重力負荷状態のトモシンセシスに非常に期待を寄せている(図11)。

図11 i-slice(トモシンセシス撮影)

図11 i-slice(トモシンセシス撮影)

 

被ばく低減

X線を使用する上で避けられないのが被ばくの問題である。Astorex i9は、パルスレートの選択肢が広がり、特に低レートの選択肢が増えたことで、画質と被ばくのバランスが取りやすくなった(図12)。また、モニタの明るさを一定にしたまま、線量をNormal(100%)、Mid(50%)、Low(35%)に変更することができ、これらを組み合わせることで、検査ごとに適切な線量設定が可能になった。図13は小児の排尿時膀胱尿道造影検査(VCG)で、低線量モードで画質を維持しつつ、被ばく線量が大幅に低減された。また、麻酔科による神経根ブロック時にも有用である(図14)。
なお、被ばく線量管理が2020年に義務化されたが、Astorex i9は線量レポートの自動作成、保存が可能である(図15)。

図12 パルスレートの選択肢拡大などによる被ばく低減

図12 パルスレートの選択肢拡大などによる被ばく低減

 

図13 小児VCG症例 (パルスレート:3fps、線量モード:Low)

図13 小児VCG症例
(パルスレート:3fps、線量モード:Low)

 

図14 神経根ブロック症例 (パルスレート:7.5fps、線量モード:Mid)

図14 神経根ブロック症例
(パルスレート:7.5fps、線量モード:Mid)

 

図15 Astorex i9の線量レポート機能

図15 Astorex i9の線量レポート機能

 

まとめ

Astorex i9は省スペースで、かつ可動域/撮影可能範囲が拡大し、新機能のうちi-fluoroは特に有用であると感じられた。また、i-stitchやi-sliceなど、1台のAstorex i9で可能な検査が増えており、使用方法や発想次第で、強力なツールになるのではないかと考えている。

* 記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:デジタルX線TVシステム Astorex i9 ASTX-I9000
認証番号:302ADBZX00081000

 

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