セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

2020年12月号

第99回日本消化器内視鏡学会総会ランチョンセミナー21 胆管結石治療困難例に対する工夫

胆管結石治療困難例に対する工夫

土屋 貴愛(東京医科大学 臨床医学系消化器内科学分野)

土屋 貴愛(東京医科大学 臨床医学系消化器内科学分野)

胆管結石の治療は、内視鏡下結石除去術が第一選択であり、ほとんどの症例は治療可能であるが、治療困難症例においては確実に結石を除去するための追加治療が必要となる。本講演では、治療困難症例に対する治療の工夫について報告する。

胆管結石治療困難例の背景

胆管結石の治療は、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)、特に内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)や内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)を行い、その後、バスケットカテーテルもしくはバルーンカテーテルで結石除去を行う。ただし、治療困難例は、さまざまな要因により追加治療が必要となる。

解剖学的要因に対する工夫

解剖学的要因としては、傍乳頭憩室や術後再建腸管があるが、このような症例では内視鏡を乳頭に到達させることやカニュレーションが難しいことがある。憩室内乳頭もしくは傍乳頭憩室がある場合は、胆管走行が通常と異なることもあるため、多方向を向くESTナイフ(sphincterotome)による胆管挿管や、乳頭を生検鉗子で引き出しERCPカテーテルで挿管する2 device in 1 channel法、経皮経肝的胆管ドレナージ術(PTBD)下もしくは超音波内視鏡(EUS)下のrendezvous 法も非常に有用である。それでも治療困難な場合は、外科的治療が考慮される。

1.傍乳頭憩室への対応
症例1は、傍乳頭憩室(開口部位不明)に対してrendezvous法を行った症例である。われわれは、EUS下のrendezvous法では肝内胆管にアプローチするhepaticogastrostomy(HGS)ルートを主に用いるが、本症例は拡張が不十分であったため肝外胆管を19G針で穿刺した。憩室に押されて下部胆管が変形していると、乳頭、そして十二指腸へのガイドワイヤの誘導が難しいが、このような場合は、ガイドワイヤを憩室内で一度巻いてから十二指腸の奥まで十分に進め(図1 a)、EUSスコープをいったん抜去してガイドワイヤのみを残す。十二指腸鏡を挿入し、生検鉗子でガイドワイヤを把持し、内視鏡の鉗子チャネルに引き込み、そのガイドワイヤを通してERCPを挿入し胆管挿管が可能となる。また、10Frの「ダイレーションカテーテル」(Soehendra胆道拡張用カテーテル:クックメディカル社製)を用いると、2本目のガイドワイヤを簡単に胆管に挿入することができる(図1 b)。本症例は、憩室内乳頭で正面視できなかったため、ESTを行うのが困難であり、内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術(EPLBD)にて結石を除去した(図1 c)。

図1 症例1:傍乳頭憩室(開口部位不明)に対するrendezvous法

図1 症例1:傍乳頭憩室(開口部位不明)に対するrendezvous法

 

2.術後胃再建腸管への対応
術後胃再建腸管にはさまざまなものがあるが、最も内視鏡挿入困難例は、胃が残存している胆管空腸吻合術+R-Y再建例であると思われる。われわれの術後胃再建腸管に対する治療ストラテジーは、まず乳頭や胆管空腸吻合部に内視鏡が到達可能であればバルーン内視鏡併用ERCP(BE-ERCP)を試みるが、到達できない場合はPTBDやEUS下治療を考慮する。
症例2は、胃全摘術後(R-Y再建)に対してBE-ERCPを行った症例である。吻合部の癒着がひどく、内視鏡スコープの挿入が困難であるが、このような場合はカテーテルとガイドワイヤを用い、奥に進めたガイドワイヤに沿わせるようにスコープを挿入することで、安全な治療が可能となる(図2 a)。胆管挿管を行い造影すると、結石が描出されたため(図2 b)、ニードルナイフでプレカットを行い、バルーンにて拡張。嵌頓しないよう機械的砕石具で結石を破砕し、結石除去を行った(図2 c)。
上述のとおり、スコープ挿入困難症例に対しては、ガイドワイヤを先進させて、それに沿ってスコープを進めると安全な挿入が可能となる。それでも難しい場合は、十二指腸の奥までガイドワイヤを進めた後にEPLBD用のバルーンを奥で膨らませ、ウェッジするような形でスコープを誘導する(図3)。ただし、癒着が強い場合は穿孔などに注意する必要がある。

図2 症例2:胃全摘術後(R-Y再建)に対するBE-ERCP

図2 症例2:胃全摘術後(R-Y再建)に対するBE-ERCP

 

図3 スコープ挿入困難例への工夫

図3 スコープ挿入困難例への工夫

 

3.乳頭到達困難例への対応
当大学にて、未処置乳頭でR-Y再建された90症例を解析したところ、通常のカニュレーションを行えたのは約70%であった1)。それ以外の症例に対しては、double-guidewire techniqueやプレカット、PTBDあるいはEUS下のrendezvous法などを試みる必要がある。また、乳頭にたどり着けない場合、従来はPTBDを行っていたが、現在はEUS下に順行性に排石する方法もある。
症例3は、乳頭到達困難症例にEUS下順行性結石除去を行った症例である。肝内胆管B3を穿刺するとガイドワイヤがS字に巻き、デバイスの誘導が時に困難であるため食道を避ける必要はあるが、B2を穿刺すると直線的なルートをとることができる(図4 a)。結石が大きく、EPLBD後にバルーンカテーテルで押し出せなかったため、機械的砕石具で結石を破砕し(図4 b)、バルーンカテーテルで繰り返し押し出した(図4 c)。ERCPと同じ機材で順行性の結石除去が可能なため、大変有用な方法である。

図4 症例3:乳頭到達困難症例へのEUS下順行性結石除去

図4 症例3:乳頭到達困難症例へのEUS下順行性結石除去

 

結石の形態に応じた工夫

1.巨大かつ多発結石へのEPLBDの適応とポイント
巨大かつ多発結石に対する治療法として、2003年にEPLBDが初めて報告され2)、現在、日本でも広く行われている。EPLBDにより、大きな結石も破砕せずに除去可能となる。EPLBDについては、国際ガイドライン3)および日本のガイドライン4)を参照していただきたい。
EPLBDは、総胆管が下部胆管まで十分に拡張している症例が良い適応である。一方、下部胆管が細い症例や下部胆管狭窄のある症例については、穿孔やERCP後膵炎(PEP)などの危険があるため、不適応となる。問題は、上部胆管の拡張は十分であるが膵内胆管の拡張が不十分な症例で、このような場合は、バルーンを1気圧(atm)程度まで拡張し、胆管が容易に拡張すれば手技の継続が可能となる。
実際の治療に当たり、われわれは結石よりもやや大きめのバルーンを用いて低圧(2atm以下)で拡張し、無理せず機械的砕石具を使用する。拡張時にバルーンが手前に抜けてきてしまうこともあるが、そのような時は慌てずに、少しずつ繰り返しバルーンを拡張させていくことが重要である。

2.EPLBDの最近の論文
EPLBDの拡張至適時間について、1920人(すべて小切開あり)を無作為化して検討した報告5)では、拡張時間を0、30、60、180、300秒で比較した結果、PEPの頻度は300秒で有意に高く、0秒も30秒と比較して有意に高頻度であり、拡張至適時間は30秒と結論づけられていた。
EPLBD単独と、EPLBDを用いないEST単独での手技の安全性を比較した検討6)では、1セッションでの結石除去率はEPLBDの方が良好であり、偶発症もわずかで、EPLBD単独でも十分安全に施行できると報告されている。ただし、これはESTが不要ということではなく、憩室内や再建腸管などでESTが行えない場合でも、EPLBDは安全に実施可能であることを示していると考える。

3.極小結石における手技のポイント
極小結石も、治療が非常に困難なことがある。
症例4は微小な結石である。造影時に左肝内胆管に結石が上がってしまったため、ESTナイフを結石の上方まで移動させ(図5 a)、先端を曲げて結石を把持し、適切な位置に移動させた上で(図5 b)、バルーンで結石を除去した(図5 c)。このように、ESTナイフを曲げて小結石を把持する方法も有用である。

図5 症例4:左肝内胆管内の微小結石への対応

図5 症例4:左肝内胆管内の微小結石への対応

 

当院における水晶体被ばくの実態

2021年4月に「改正電離放射線障害防止規則」が施行される。その主な改正のポイントは、放射線業務従事者の眼の水晶体における等価線量限度の引き下げで、「5年間につき100mSvおよび1年間につき50mSv」に厳格に制限される。
水晶体被ばくの推定値は通常、ガラスバッジで測定する。そこで、当院にてERCP実施数の多い医師のX線防護メガネの内側と外側にガラスバッジを設置し、2020年4月の1か月間、左眼の線量測定を行った(図6)。ちょうどこの時期は、新型コロナウイルス感染症の影響で検査数が従来の6〜7割程度に減少していたにもかかわらず、被ばく量の最も多い医師の左外側の1か月の被ばく線量は3.8mSvであった。12か月では45.6mSvとなるため、当院の通常の検査数であれば50mSvを超えると思われる。そのため、被ばくへの配慮やX線防護メガネは必要と考える。

図6 当院における眼の水晶体被ばく線量の測定

図6 当院における眼の水晶体被ばく線量の測定

 

結石の局在に応じた工夫

1.バルーン+造影による結石嵌頓解除
結石の上部に狭窄がある、あるいは下部胆管が屈曲していたり、ポケット状になっていると、バスケットカテーテルでの把持が困難なことがある。そのような場合は、バルーンをウェッジさせて造影すると結石が上がっていくため、至適位置に戻してからバスケットカテーテルで把持するという方法が非常に有用である。

2.肝内結石
肝内結石も、除去が非常に難しい。
症例5は、胆管空腸吻合術+R-Y再建後の肝内胆管結石である。2つのうち大きめの結石はBE-ERCPにて除去できたが、肝内胆管B2の結石(図7 a↓)は除去できなかったため、EUS-HGSルートから胆道鏡を用いた結石破砕術〔電気水圧衝撃波結石破砕術(EHL)やYAGレーザー〕を施行した。結石はB2の先にあるため、B2を穿刺し、ガイドワイヤを奥まで進め、ダイレーション後に6mm径の金属ステントを留置し(図7 b)、HGSルートを確保した。1か月後の胆管造影像では、結石がステント内まで移動していたため(図7 c )、ステント内に胆道鏡を挿入して破砕することとした。ガイドワイヤを留置後にバルーン造影にて結石を確認し、胆道鏡をステント内に挿入してYAGレーザーにて破砕し結石除去を行った(図7 d)。YAGレーザーは指向性が高く真っ直ぐに進むため、さまざまな方向から当てて結石を破砕することがポイントである。

図7 症例5:胆管空腸吻合術+R-Y再建後の肝内胆管結石

図7 症例5:胆管空腸吻合術+R-Y再建後の肝内胆管結石

 

3.‌ 嵌頓結石(Mirizzi syndromeを含む)
Mirizzi syndrome(図8)のように胆囊管に嵌頓結石のある症例は、バスケットカテーテルや機械的砕石具を使用できないため、胆道鏡下に結石を破砕する方法が有用である。
症例6は、胆道鏡+YAGレーザーを用いて結石除去を行った症例である。YAGレーザーで多方向から結石に穴を開けて破砕し(図9)、バスケットおよびバルーンカテーテルにて結石除去を行った。

図8 Mirizzi syndromeにおける嵌頓結石

図8 Mirizzi syndromeにおける嵌頓結石

図9 症例6:胆道鏡+YAGレーザーを用いた結石除去

図9 症例6:胆道鏡+YAGレーザーを用いた結石除去

 

 

患者状態に応じた工夫

わが国は超高齢化社会を迎え、最近では90歳以上の高齢者に対する結石除去も行われている。高齢者への結石除去に関する検討7)では、結石が完全に除去できたのは、75〜89歳が94%であったのに対し、90歳以上では81%と若干劣り、ステント留置率も高くなるものの、膵炎、胆管炎、出血などの偶発症に有意差はなく、安全に実施可能であることが報告されている。

まとめ

胆管結石治療困難例に対しては、さまざまなデバイスの特徴に精通し、必要に応じて準備することが重要である。また、1つの治療法にこだわらず、たくさんの引き出しを持って、柔軟に治療法を変更していくことが求められる。

●参考文献
1)Ishii K, Itoi T, Tonozuka R, et al. : Balloon enteroscopy-assisted ERCP in patients with Roux-en-Y gastrectomy and intact papillae (with videos). Gastrointest. Endosc, 83(2) : 377-386, 2016.
2)Ersoz G, Tekesin E, Enya M, et al. : Biliary sphincterotomy plus dilation with a large balloon for bile duct stones that are difficult to extract. Gastrointest. Endosc, 57 : 156-159, 2003.
3)Kim TA, Kim JH, Seo DW, et al. : International consensus guidelines for endoscopic papillary large-balloon dilation. Gastrointest. Endosc, 83(1) : 37-47, 2016.
4)糸井隆夫、良沢昭銘、潟沼朗生・他:EPLD診療ガイドライン. 日本消化器内視鏡学会雑誌、59(3) : 337-365, 2017.
5)Meng W, Leung J W, Zhang K, et al. : Optimal dilation time for combined small endoscopic sphincterotomy and balloon dilation for common bile duct stones : A multicentre, single-blinded, randomised controlled trial. Lancet Gastroenterol. Hepatol, 4(6) : 425-434, 2019.
6)Kogure H, Kiwahata S, Mukai T, et al. : Multicenter randomized trial of endoscopic papillary large balloon dilation without sphincterotomy versus endoscopic sphincterotomy for removal of bile duct stones : MARVELOUS trial. Endoscopy, 52(9) : 736-744, 2020.
7)Saito H, Koga T, Sakaguchi M, et al. : Safety and Efficacy of Endoscopic Removal of Common Bile Duct Stones in Elderly Patients ≥
90 Years of Age.  Intern Med, 58(15) : 2125-2132, 2019.

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