セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
2025年12月号
第41回日本診療放射線技師学術大会ランチョンセミナー15 Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)がもたらす画像診断の進化 一般撮影・マンモグラフィの診療放射線技師が担う次世代の臨床現場
〈講演2〉マンモグラフィにおけるノイズ低減処理「AiCE」が拓く,画質向上と臨床価値
古谷 悠子(聖マリアンナ医科大学附属研究所ブレスト&イメージング先端医療センター附属クリニック)
当院は,大学病院附属の乳腺疾患専門クリニックにイメージングセンターを併設しており,2台のキヤノンメディカルシステムズ社製マンモグラフィ装置を使用している。そのうちの1台には,Deep Learningを用いたノイズ低減処理「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」が搭載されている。本講演では,AiCEの基礎的画質特性と臨床価値について,症例を踏まえて報告する。
AiCEの概要と基礎的画像特性
1.AiCEの概要
AiCEは,Deep Learningを用いて開発されたノイズ低減処理技術で,一般撮影用の画像処理である「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE),Intelligent NR inside」を応用し,新たにマンモグラフィ用として開発された。従来マンモグラフィ画像においては,微細石灰化などの信号成分を消してしまう恐れがあるため,ノイズ低減処理を行うことが難しいとされてきた。そのため,キヤノンメディカルシステムズ社のマンモグラフィにおいても,独立したノイズ低減処理は搭載されていなかった。AiCEでは,X線ノイズの特徴を学習することで,細かな信号成分を損失することなく,従来画像と比較して最大50%のノイズ低減を実現している。また,AiCEに合わせて画像処理を最適化することで,粒状性を向上しつつ,鮮鋭度とコントラストの高い画像の取得を可能としている。
2.AiCEの基礎的画像特性の検討
1)検討項目
検討項目は,contrast to noise ratio(CNR)によるコントラストの評価,normalized noise power spectrum(NNPS)によるノイズ特性の評価,system contrast transfer function(SCTF)による鮮鋭度の評価,contrast detail(C-D)curveによる低コントラストと微細信号の検出能の評価の4項目である。これらについて,ファントム厚を20,40,60mm,線量を標準(100%),75%,50%として,従来処理(Conv)とAiCEを比較した。
2)結 果
CNRは,ファントム厚と線量のすべての組み合わせにおいて,AiCEでは従来処理の1.6〜2.6倍改善していた。さらに,この結果をコントラスト成分とノイズ成分に分けて比較したところ,従来処理とAiCEでコントラスト成分に差はないが,AiCEではノイズ成分のみが大幅に低減しており,CNRの向上に寄与していることが確認できた(図1)。
NNPSも,ファントム厚と線量のすべての組み合わせにおいて,AiCEでは広範囲の周波数帯域でノイズが低減されており,特定の周波数における変化は認めなかった。
SCTFは,SCTFチャートを用いて2lp/mmと4lp/mmについて測定したところ,すべてのファントム厚と線量において従来処理,AiCEともに同等の性能を示し,AiCEによる鮮鋭度の低下は認めなかった。
C-D curveの評価には,「CDMAM 3.4ファントム」(Artinis Medical Systems社製)を用いた。撮影した画像から自動解析ソフトウエアを用いてC-D curveを算出したところ,従来処理とAiCEの検出能はほぼ同等であり,AiCEによる信号損失はないことが確認できた。ただし,実際の画像を比較すると,従来処理とAiCEでは信号の検出という点では同等であるが,AiCEの方が粒状性が改善し,視認性が向上していた(図2○)。また,AiCEで強力にノイズを除去しても,識別不可能な信号(図2○)は視認できず,信号を復元する特性はないことがわかった。
さらに,検出能から見る線量低減の可能性について検討した。ファントム厚と線量の組み合わせごとにC-D curveを作成し比較したところ,ファントム厚が20mmの場合,従来処理の100%線量と比較して,AiCEの75%線量でも同等の結果が得られた。同様に,ファントム厚が40mmの場合も同等の結果であった(図3 a,b)。さらに,ファントム厚が60mmの場合は,AiCEの90%線量で同等の結果が得られた(図3 c)。以上より,線量低減率は厚みによって異なるものの,すべての厚みで線量を低減できる可能性があることが示唆された。
図1 コントラスト(CNR)の検討
図2 検出能と視認性の評価
図3 検出能から見る線量低減の可能性
臨床画像における病変視認性へのAiCEの効果の検討
1.対象,観察者
2024年5〜11月に当施設にてマンモグラフィを撮影した症例のうち,石灰化および腫瘤(C-3以上)の所見を認めた92症例を対象に,AiCEによる病変視認性の影響を評価した。石灰化は,密着撮影と拡大撮影の両方で評価を行った。観察者は,経験年数15年以上の医師5名,診療放射線技師4名の計9名である。
2.石灰化の評価結果と症例提示
石灰化の評価においては,AiCEを適用することで,密着撮影では全体の60%,拡大撮影では全体の84%の症例で視認性が向上した。視認性の向上の程度は石灰化の形状によって異なるが,密着撮影,拡大撮影ともに淡く不明瞭な石灰化において視認性の向上が顕著であった(密着84%,拡大94%)。
次に,視認可能な石灰化の数は,AiCEを適用することで,密着撮影では全体の23%,拡大撮影では全体の42%の症例で増加した。視認性と同様に,石灰化の数も密着撮影,拡大撮影ともに淡く不明瞭な石灰化において特に増加の割合が高かった(密着41%,拡大48%)。
症例1は非常に淡い石灰化の集簇を認める症例で,AiCEによって石灰化がきわめて明瞭化している(図4)。本症例は9名全員が視認性の向上を認め,視認できる石灰化の数も8名が増加と評価した。
症例2は拡大撮影の画像である。従来処理(図5 a)ではほとんど認識できない石灰化が,AiCEを適用することで明らかに石灰化と認識することができる(b○)。本症例は9名全員が視認性の向上と視認できる石灰化の数が増加を認めた。
図4 症例1:密着撮影における石灰化の評価
図5 症例2:拡大撮影における石灰化の評価
3.腫瘤の評価結果と症例提示
腫瘤の評価においては,AiCEを適用することで,全体の29%の症例で視認性が向上した。境界および辺縁の視認性は27%,コントラストは26%の症例で向上したとの結果であった。
症例3は,背景乳腺は多くないが,乳房厚が84mmと非常に厚いこともあり,従来処理では画像が全体に不明瞭で腫瘤の辺縁の評価が難しい(図6 a)。AiCEを適用することで,粒状性やコントラストが向上し,腫瘤の辺縁の視認性が明らかに良くなっている(図6 b)。視認性は6名,境界・辺縁は7名,コントラストは5名が向上したと評価した。
図6 症例3:腫瘤の評価
4.小 括
マンモグラフィ検査においては,微小かつ淡い病変の評価が求められるため,AiCEによってノイズが低減し,視認性が向上することは,確信度の向上や,見落とし防止を含めた診断精度の向上,読影効率の向上につながり,有用であると考える。
まとめ
AiCEは,必要な信号を維持しつつ,不必要なノイズのみを低減する技術で,AiCEによるノイズ低減効果を活用した画像処理によって病変の視認性が向上する。マンモグラフィにおいて,AiCEによるノイズ低減で得られるメリットを適切に活用するためには,画質の最適化(適切な視認性が得られる画像処理)と線量の最適化(線量低減)が重要となる。画質と線量のバランスを最適化し,ノイズ低減の効果を画質向上にとどまらず線量低減につなげることが,臨床的価値をさらに高める有用な活用方法であると考える。
*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
*本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり,本システムが自己学習することはありません。
*本技術はキヤノン株式会社に帰属するIntelligent NRの技術を採用しています。
*Intelligent NR Technologyはキヤノン株式会社に帰属します。
一般的名称:据置型デジタル式乳房用X線診断装置
販売名:乳房X線撮影装置MGU-1000D MAMMOREX Pe·ru·ru DIGITAL
認証番号:224ADBZX00109000
古谷 悠子(Furuya Yuko)
2008年 東京電子専門学校医療専門課程診療放射線学科卒業。同年 聖マリアンナ医科大学病院画像センター入職。現在,聖マリアンナ医科大学附属研究所ブレスト&イメージセンター附属クリニック勤務。
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