救急領域への応用 〜バリアブルヘリカルピッチスキャンの外傷Panscanへの臨床応用 
森原宗憲(大阪府三島救命救急センター 放射線科)
<Technology of Aquilion PRIME>

2013-12-25


森原宗憲

大阪府三島救命救急センターは,1985年にオープンした三次救急に特化した救命救急センターである。一般病床を持たず,ICU8床,ACU33床の救急単体で運営されている。2012年の救急搬入件数は1221件,うち内因性疾患が約74%を占めており,外来死が211人,入院後の死亡をあわせると329人が亡くなっている。来院時心肺停止(CPA)からの社会復帰率の向上が課題であり,高槻市消防本部と連携して,医師が同乗して出場する救急ワークステーション方式による特別救急隊(ドクターカー)の運用を行い,全国平均の6.9%に比べ15.8%と,高い社会復帰率を実現している。
当センターでは,2012年3月に「Aquilion PRIME」を導入し救命救急領域に活用してきたが(Aquilion PRIMEシンポジウム2012で報告 ),本講演ではバリアブルヘリカルピッチを使った外傷Panscanを中心に報告する。

外傷Panscan

以前の16列CTでは,全身撮影には頭部,頸椎,体幹部の3回のポジショニングが必要だったが,Aquilion PRIMEでは頭部の単純CT撮影後に頸部から骨盤までの造影CTを一気に撮影するPanscanが可能になった。Aquilion PRIMEによる外傷Panscanでは,ポジショニングを含めたCT室滞在時間が10分以内に短縮され,現在は外傷のルーチン検査となっている。

バリアブルヘリカルピッチスキャンによる全身外傷Panscan

頸部以下の外傷全身CT Panscanが可能になったことで,次に頭部を含めたPanscanの要望が出てきた。頸部以下のPanscan造影プロトコルは,1mm×40スライス,SD9,ヘリカルピッチ(HP)33を使用しているが,同一プロトコルでは線量不足により頭頸部CTAの画質が低下し,頭蓋内の脳血管の描出が不十分となる。そこで,Aquilion PRIMEに搭載されているバリアブルヘリカルピッチスキャン(vHP)の使用を検討した。
vHPは,スキャン中に天板を停止することなくヘリカルピッチを変更できる機能で,一般的には心電図同期の冠動脈CTAと大動脈を1回のスキャンで撮影する際などに使われている(図1)。このvHP機能を応用して,頭部は低ヘリカルピッチで撮影し,体幹部を高ヘリカルピッチで撮影する方法で,脳血管の描出能の向上が可能かどうか検討した。
まず,撮影スライス厚とヘリカルピッチの組み合わせによる,アーチファクトの影響を検証した(図2)。体幹部で使用している1mm×40スライス,HP33では強いアーチファクトが認められたため,アーチファクト抑制と画質向上の臨床的なメリットの方が上回る0.5mm×80を選択し,vHP使用時の造影CT Panscanプロトコルを図3のように決定した。

図1 バリアブルヘリカルピッチスキャン(vHP)

図1 バリアブルヘリカルピッチスキャン(vHP)

 

図2 撮影スライス厚とヘリカルピッチによるアーチファクトの検証

図2 撮影スライス厚とヘリカルピッチによるアーチファクトの検証

 

図3 vHPによる外傷CTプロトコル:全身造影CT

図3 vHPによる外傷CTプロトコル:全身造影CT

 

■症例1:交通外傷患者の全身外傷Panscan(vHP)

60歳,女性。原付バイクでの交通外傷で救急搬送された。救急外来搬入時,JCS(意識レベル)300,瞳孔散大にて,気管挿管後,生命を脅かす中枢神経障害(切迫するD)があり,Secondary Surveyの最初に頭部CTを施行した。頭部のコンベンショナルCT(図4左上)では,左急性硬膜下血腫,外傷性SAH,脳挫傷,頭蓋底骨折を認めた。続いて,頭頂から骨盤まで,新しい外傷CTプロトコルを適用したvHPによるPanscanを行った(図4)。体幹部では,大動脈損傷の好発部位である大動脈峡部に膨らみを認め損傷を疑ったが,MPR像で周囲に血腫がないことが確認でき,大動脈損傷を否定することができた。脳血管については,以前の1mm×40の画像(図4右上)に比べて画質が改善されている(図4中上)。右側は末梢血管まで描出されているが,左側は血腫があり,脳圧が高く,末梢血管が圧迫されていることが確認できた。

図4 症例1:交通外傷患者の全身外傷Panscan(vHP)

図4 症例1:交通外傷患者の全身外傷Panscan(vHP)

 

上肢のポジショニング

次に,Panscan施行時のアーチファクトの原因となる上肢の位置について検討した。われわれは,救急のCT撮影では,できる限り上肢挙上にて撮影を行っている。その理由としては,Aquilion PRIMEでは,挙上でも頭頸部へのアーチファクトが許容レベルであること,体幹部撮影の目的は胸部大血管や腹部実質臓器の損傷の確認であるため,アーチファクトの少ない画像が求められるからである。しかし,Primary Surveyで撮影した胸部写真から,鎖骨骨折や肩甲骨骨折があらかじめ判明し,上肢を挙上できない症例もしばしば経験する。
その解決策として,CT寝台のバックボードの高さを利用して腕を下ろすことで,アーチファクトを抑える方法を実施している。Aquilion PRIMEはフラット天板ではなくバックボードが沈み込んでしまうため,市販のスタイロフォームを成形したスペーサーによって腕を下ろす段差をつくり,肘を肩の方に引くことで脊椎と上肢が直線状に並ぶことを避け,アーチファクトを軽減している(図5)。

図5 バックボードのスペーサーによる上肢ポジショニング

図5 バックボードのスペーサーによる上肢ポジショニング

 

頭部単純CT撮影におけるバリアブルヘリカルピッチスキャン

救急の頭部単純CTの撮影を,コンベンショナルで行うか,ヘリカルスキャンを選択するかについてはさまざまな見解があるが,当センターでは基本的にコンベンショナルスキャンを行っている。しかし,最近では,顔面外傷や頭部外傷がある場合には,vHPを使った頭頸部のヘリカルスキャンを始めている。プロトコルは,頭部をSD3,HP51,頸部をSD18,HP65で撮影し,AIDR 3DはWeakを使用する(図6)。

図6 vHPによる外傷CTプロトコル:頭頸部単純CT

図6 vHPによる外傷CTプロトコル:頭頸部単純CT

 

■症例2:頭頸部のヘリカルスキャン(vHP)

頭頸部でvHPによるヘリカルスキャンを行った症例を提示する(図7)。バイクの単独事故で搬入された患者で,搬入時,見当識のあるJCS2で耳出血があった。搬入時のヘリカルCT(図7左上)と,翌日に撮影したコンベンショナルCT(図7右上)では,画質だけを比較するとコンベンショナルCTが優れているが,外傷患者の搬入時検査においてはヘリカルスキャンでも十分な診断能力があると考える。外傷CTの読影方法である“FACT(Focused Assessment with CT for Trauma)”においても,頭部の評価のポイントは緊急開頭が必要な血腫などの有無であり,そのためにはモーションアーチファクトに強く,多断面から総合的に判断できるヘリカルスキャンが有益と考える。
2013年春に外傷初期診療ガイドラインが改訂され,画像検査の項目も更新された。従来の頸椎X線読影に代わって,trauma Panscanの読影方法であるFACTが導入された。今後ますます,外傷Panscanが注目され,適正な画像をスピーディに提供することが,われわれ診療放射線技師に求められるのではないかと考える。

図7 症例2:頭頸部CT(P)+体部造影Panscan(vHP)

図7 症例2:頭頸部CT(P)+体部造影Panscan(vHP)

 

まとめ

高度化,多機能化するCTをいかに使いこなすかが診療放射線技師の役割として重要になる。すべての技師が質の高いCT検査を常に提供できるように,施設全体のレベルアップを図ることが求められると考える。


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