Area Detector CTがもたらしたもの(胸部領域):ACTIve Study Group の8年間の成果から 
山城 恒雄(琉球大学大学院医学研究科 放射線診断治療学講座)
Session 2

2017-12-25


世界初の320列Area Detector CT(ADCT)として開発された,東芝メディカルシステムズの「Aquilion ONE」は,胸部のCT診断においても種々の革新をもたらした。本講演では,琉球大学をはじめ国内10施設で約8年間にわたって展開している研究グループ「ACTIve Study Group」の成果をもとに,Aquilion ONEが打ち立てた胸部CT診断の新技術について概説する。

はじめに ACTIve Study Groupとは

2009年,Aquilion ONEを初期に導入した7施設(現10施設)が合同して,胸部CT診断におけるADCTの有用性・先進性を研究するResearch Allianceが東芝メディカルシステムズの支援の下に立ち上がった(図1)。ACTIveとは,「Area-Detector Computed Tomography for the Investigation of Thoracic Diseases」の頭文字からの略称であり,ACTIve Study Groupは前向きの多施設共同研究を含め,種々の研究成果を英文論文として発表している1)〜11)。われわれACTIve Groupは,年に5回程度の定例的な会議を開いており,そこでの意見交換・成果報告を研究グループ内で共有できるため,効率的に研究の分担・協力を行えることが大きな強みとなっている。

図1 ACTIve Study Groupの概要

図1 ACTIve Study Groupの概要

 

ACTIve Study Groupのこれまでの研究成果

約8年間の研究の成果は,Aquilion ONE本体およびアプリケーションの技術革新とともに,おおまかにいくつかの段階・時期に分けることができる。当初は,Aquilion ONEの最大の特徴である,「16cmのスキャン長(頭尾方向)をガントリ1回転で撮影できる」ことを生かして,ヘリカルスキャニングではなく,step and shootスキャニング(16cm×上・中・下の3回転)で胸部CTを撮影する研究を行った1)〜3)。その結果,「Aquilion ONEを用いてstep and shoot法で撮影すると,画質はヘリカルスキャニングと何ら遜色はない」「さらに心電同期(triggering)を使用すれば,同一の被ばく線量で心拍動アーチファクトがない画像を提供でき,心臓近傍の肺結節影の評価等に有用である」などの研究成果を得た。
次に,2012年頃よりAquilion ONEに搭載されるようになった逐次近似応用再構成法“AIDR 3D”を用いた,胸部CTの低被ばく化の研究を行う時期に移った。この時期には,「AIDR 3Dを用いることで胸部CTの被ばく線量は50%以上削減できる」「AIDR 3Dを使用すれば,20mA (7mAs)の超低線量CTでも肺癌スクリーニングを行える」などの研究成果を得ることができた4)〜7)
さらにこの2年ほど,「16cmのスキャン長」と「AIDR 3Dによる大幅な線量削減効果」を利用して,「被検者の自由呼吸下で透視的に連続CT撮影を行う」呼吸ダイナミックCTの研究に精力的に取り組んでいる。次項で,この「呼吸ダイナミックCT」のもたらした革新について述べる。

自由呼吸下での呼吸ダイナミックCTの登場

通常は“吸気息止め”または“呼気息止め”でヘリカルスキャニングにて撮影される胸部CTであるが,Aquilion ONEの16cmのスキャン長を用いることで,16cmの範囲内であれば,寝台を動かすことなく患者の自由呼吸下に胸部の呼吸運動を動態撮影することが可能である。このような,4次元CTとして呼吸運動を観察する手法を呼吸ダイナミックCTと呼称している。呼吸ダイナミックCTでは,呼吸運動により肺や気道などは全方位的に位置を変化させる可能性があるので,通常の2D-viewingでは対象物の観察が難しい場合もあるが,3D-viewingや各種ワークステーション・ソフトウエアを駆使することで,従来の静止画的な胸部CTでは観察できなかったさまざまな呼吸運動を解明することが精力的に進められている。
この呼吸ダイナミックCTの臨床応用であるが,(1) 小児の先天性気道狭窄などの中枢気道疾患の観察や,(2) 胸膜下肺腫瘍の壁側胸膜癒着・浸潤の判定などにおける有用性が,海外の研究機関・医療機関からも速やかに報告された12),13)図2)。これら比較的初期の報告では,観察対象の気道狭窄・肺腫瘍などは,動画としての呼吸ダイナミックCT上で目視にて定性的な観察・評価を行っているが,われわれACTIve Study Groupでは,世界的に進む定量的評価の流れを見据えて,東芝メディカルシステムズの協力を得て早くから呼吸ダイナミックCTの定量的な解析に乗り出すことになった。

図2 呼吸ダイナミックCTによる胸膜下肺腫瘍の観察 呼吸により背側の肺腫瘍が胸壁下を滑るように移動しており,壁側胸膜への癒着や浸潤が存在しないことがわかる(琉球大学医学部附属病院にて撮影)。

図2 呼吸ダイナミックCTによる胸膜下肺腫瘍の観察
呼吸により背側の肺腫瘍が胸壁下を滑るように移動しており,壁側胸膜への癒着や浸潤が存在しないことがわかる(琉球大学医学部附属病院にて撮影)。

 

【図2の動画】

 

 

呼吸ダイナミックCTによる胸膜下肺腫瘍の胸膜癒着やCOPDの定量的解析

東芝メディカルシステムズは,呼吸ダイナミックCTの定量的解析のため,早い段階から自社製品として「4DCTの全時相で,範囲内のすべてのボクセルの位置移動をregistrationする」技術・ソフトウエアを実用化した(4D Airways Analysis)。同ソフトウエアおよびその拡張機能を活用することで,ACTIve Study Groupは,いくつかの肺疾患で呼吸運動の定量化による生理学的な解析・評価を研究成果としてまとめている。まず,胸膜下肺腫瘍の壁側胸膜癒着・浸潤の判定だが,腫瘍の中心点と,腫瘍近傍の肺外構造物(肋骨など)に置いた1点の,呼吸ダイナミックCT上での運動を追跡することで,「壁側胸膜癒着・浸潤がなければ,2つの追跡点の軌跡は独立しており,逆に癒着・浸潤があれば2つの軌跡は相似する」ことがわかる。この3次元空間上の軌跡を,各種定量的パラメータを用いて解析することで,壁側胸膜への癒着・浸潤はかなり正確に判定できることがわかった10)。また,喫煙者・慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の呼吸ダイナミックCTを定量的解析することで,「COPD患者では,中枢気道の呼吸運動において病的な虚脱・拡張が生じている」「COPD患者では,左右肺や各肺葉の間に呼吸運動時の異常な時相不一致が存在している」ことが証明された9),11)。このような従来の静的なCTでは予想できないような新発見は,呼吸ダイナミックCTの独壇場であると考えている。

呼吸ダイナミックCTを用いた炎症性胸膜癒着の術前評価

われわれACTIve Study Groupが満を持して現在取り組んでいるテーマが,胸部外科の術前評価として,炎症性胸膜癒着(壁側胸膜-臓側胸膜間の癒着)を,呼吸ダイナミックCTを用いて判定することである。まもなく,琉球大学をはじめ4施設での多施設共同研究として症例の収集が開始されるが,これは「胸膜癒着があると,肺の表面と肺外構造物との間の呼吸運動の差異がなくなる」点に着目し,ソフトウエアで肺表面の運動性を可視化しようとする試みである(図3)。何のためにこの「胸膜癒着の有無」を評価するのかというと,このような強固な胸膜癒着が存在すると,手術の際に「手術肺を壁側胸膜から剥離できない」「胸腔鏡を胸腔内に挿入できない」といった手技上の問題が発生するためである。われわれは今回の多施設共同研究の成果を待って,「壁側-臓側胸膜間の癒着は,呼吸ダイナミックCTで可視化・判定できる」ことを示し,今後の胸部手術のルーチン検査の一つとして,胸部外科医や心臓血管外科医にアピールしていきたいと考えている。

図3 炎症性胸膜癒着のカラーマッピング 青く表示されている部分で強い胸膜癒着を表している。

図3 炎症性胸膜癒着のカラーマッピング
青く表示されている部分で強い胸膜癒着を表している。

 

おわりに

主に呼吸ダイナミックCTの研究成果や今後の活用に関して紹介したが,このような撮影法はAquilion ONEの登場前にはまったく存在せず,まさしくAquilion ONEが「新たにもたらした」画像診断における福音であろうと確信している。今後もACTIve Study Groupは,Aquilion ONEの機能を最大限活用して,東芝メディカルシステムズと連携しながら未知の呼吸生理・病態生理の解明を引き続き行っていくつもりである。

●参考文献
1)Yamashiro, T., et al.:Lung image quality with 320-row wide volume CT scans. Acad. Radiol., 19・4, 380〜388, 2012.
2)Honda, O., et al.:Image quality of 320-detector row wide-volume computed tomography with diffuse lung diseases. J. Comput. Assist. Tomogr., 36・5, 505〜511, 2012.
3)Yamashiro, T., et al.:320-row wide volume CT significantly reduces density heterogeneity observed in the descending aorta. Comput. Med. Imaging Graph., 38・1, 15〜21, 2014.
4)Yamashiro, T., et al.:Adaptive Iterative Dose Reduction Using Three Dimensional Processing(AIDR 3D)improves chest CT image quality and reduces radiation exposure. PLOS ONE, 9・8, e105735, 2014.
5)Yamashiro, T., et al.:Iterative reconstruction for quantitative computed tomography analysis of emphysema. Int. J. Chron. Obstruct. Pulmon. Dis., 10・1, 321〜327, 2015.
6)Nagatani, Y., et al.:Lung nodule detection performance in five observers on computed tomography(CT)with Adaptive Iterative Dose Reduction using Three-Dimensional Processing(AIDR 3D)in a Japanese multicenter study. Eur. J. Radiol., 84・7, 1401〜1412, 2015.
7)Nagatani, Y., et al.:Sub-solid nodule detection performance on reduced-dose computed tomography with iterative reduction. Acad. Radiol., 24・8, 995〜1007, 2017.
8)Yamashiro, T., et al.:Automated continuous quantitative measurement of proximal airways on dynamic ventilation CT. Int. J. Chron. Obstruct. Pulmon. Dis., 10・1, 2045〜2054, 2015.
9)Yamashiro, T., et al.:Continuous quantitative measurement of the proximal airway dimensions and lung density on four-dimensional dynamic-ventilation CT in smokers. Int. J. Chron. Obstruct. Pulmon. Dis., 11・1, 755〜764, 2016.
10)Sakuma, K., et al.:Parietal pleural invasion/adhesion of subpleural lung cancer. Eur. J. Radiol., 86・2, 36〜44, 2017.
11)Yamashiro, T., et al.:Asynchrony in respiratory movements between the pulmonary lobes in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Int. J. Chron. Obstruct. Pulmon. Dis., 12・1, 2101〜2109, 2017.
12)Greenberg, S.B.:Dynamic pulmonary CT of children. Am. J. Roentgenol., 199・2, 435〜440, 2012.
13)Choong, C.K., et al.:Dynamic four-dimensional computed tomography for preoperative assessment of lung cancer invasion into adjacent structures. Eur. J. Cardiothorac. Surg., 47・2, 239〜243, 2015.

 

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