面検出器CTの技術開発 
杉原 直樹(東芝メディカルシステムズ株式会社 技監)

*最後に講演動画を掲載

2017-12-25


面検出器CTのコンセプトと開発経緯

面検出器CTの基本コンセプトは,1990年代の初め頃から議論され始めました。当時は,ようやくシングルスライスのヘリカルCTが登場したばかりでしたが,すでに1回転でアイソトロピックなボリューム撮影を行い,任意の断面で観察するという構想を持っていました。そして,4列CTが登場する前の1997年に,面検出器CTの開発に着手しました。開発に当たり,「人体の動きまでも,自在に観察したい─2次元から3次元,4次元へ」というビジョンを掲げました。コードネームは,新しい世界を開き,“創世”することを強く意識して“Genesis”とし,まったく新しい概念のCTを開発するという極秘プロジェクトが10年以上の期間をかけて進められました。
2002年にはプロトタイプの1号機が完成し,放射線医学総合研究所で臨床研究を開始。2005年には2号機,3号機を開発して,2006年から藤田保健衛生大学,国立がんセンター(現・国立がん研究センター),2007年から米国ジョンズ・ホプキンズ大学でも臨床研究が行われました。
図1に,プロトタイプの面検出器の構成を示します。検出器は500mmのFOVをカバーする912チャンネル,体軸方向に0.5mm×256列となっており,24チャンネル×64列の検出器ブロックをタイルのように配列しています。また,プロトタイプの開発初期には,図2のように,ターンテーブル上に被写体(ファントム)を載せて実験を行っていました。このような研究開発を経て,プロトタイプ1号機では1秒/回転だったスキャン速度が,2号機,3号機では0.5秒/回転まで高速化しました。図3に,プロトタイプ1号機で撮影した画像を示します。
その後,面検出器CTの開発は製品化のフェーズに移行します。製品コンセプトには,「ONE Rotation:1回転で撮影終了,大幅な被ばく低減の実現」「ONE Phase:造影ムラや位相ズレのない高精度診断画像の提供」「ONE Volume:連続撮影により,新たに形態・機能画像診断の融合」を掲げ,開発を進めました。開発において最大の技術的課題は,検出器でした。製品化するには,SNRのさらなる性能向上が求められ,ダウンサイジングした64列検出器の試作を繰り返して改善を図りました。この過程を経て,面検出器CTの検出器の開発の成功を確信することができました。
また,検出器の列数の変更も大きな決断でした。当初256列,128mmのカバレッジでしたが,2004年に行われた藤田保健衛生大学の片田和広教授を交えた開発会議の場で,脳や心臓を1回転で撮影するために列数を320列として160mmをカバーすることを決定し,以後極秘事項として開発を進めました。このほか,製品化に当たり,(1) 重量1tの回転部を高速かつ低振動,低騒音で回転させる新架台,(2) 回転部から固定部まで20ギガビット/秒の高速データ転送,(3) 「Aquilion 64」の8倍の計算能力を持つ画像再構成装置,(4) 多様な撮影モードや臨床アプリケーションなどのソフトウエア,といった新技術を開発しました。
そして,64列CTが最先端であった2007年,世界に先駆けて320列の面検出器CT(Area Detector CT)「Aquilion ONE」を完成させ,世界最大の放射線学会であるRSNA 2007において発表しました。Aquilion ONE発表後は,従来の形態画像に加えて,動態画像も取得可能なCTとして,多くのユーザーに評価・支援をいただきました。特に,面検出器の特長を生かした,低被ばくでの機能画像・動態画像の撮影は,先生方とのコラボレーションにより,“新しい世界”を切り開くためのサポートができたと考えています。現在,Aquilion ONEに関連する学術論文は全世界で530本以上あり(当社調べ),多くのエビデンスをいただいていることに感謝申し上げます。

図1 プロトタイプの面検出器の構成

図1 プロトタイプの面検出器の構成

 

図2 初期の実験システム

図2 初期の実験システム

 

図3 面検出器CTプロトタイプ1号機の画像 a:ザリガニ b:マジックハンド c:顎 d:肺

図3 面検出器CTプロトタイプ1号機の画像
a:ザリガニ b:マジックハンド c:顎 d:肺

 

第4世代の面検出器CTの開発

初代Aquilion ONEの発表以降も,面検出器CTを進化させるために開発を継続してきました(図4)。第2世代の「Aquilion ONE / ViSION Edition」「Aquilion ONE / Global Standard Edition」では,スキャン速度の高速化(ViSION Editionは0.275秒/回転)や逐次近似応用再構成法の“AIDR 3D Enhanced”,金属アーチファクトを低減する再構成技術“SEMAR”を搭載。第3世代の「Aquilion ONE / ViSION FIRST Edition」では,新型検出器の「PUREViSION Detector」や順投影適用モデルベース逐次近似再構成法(Full IR)の“FIRST”を開発しました。そして,2016年には,第4世代の面検出器CTとして,開発初期のコードネーム“Genesis”を製品名に取り入れた「Aquilion ONE / GENESIS Edition」(GENESIS)を製品名に発表しています。
GENESISは,さらなる被ばく線量の低減と高画質の実現,そして,より使いやすく洗練された面検出器CTをめざして開発しており,(1) 新光学系の“PUREViSION Optics”,(2) 進化したFIRST,(3) ボリューム撮影範囲を視認できる“エリアファインダ”,(4) コンパクト設計の新筐体などを採用しています。
PUREViSION Opticsは,X線の出力から検出器に至るまでのあらゆる要素がブラッシュアップされています(図5)。X線の出力では,被検者のサイズと被ばく,画質のバランスを考慮して,X線エネルギーの分布の最適化を図っています。被検者の被ばくに大きな影響を与える低エネルギー成分を抑制し,高エネルギー成分を用いることで,低被ばくと高画質を両立しました。また,検出器のPUREViSION Detectorは,独自の精密加工技術と新素材の最適化によって光出力が40%向上し,データ収集装置(DAS)の改良により電気ノイズを最大28%低減しています(64列CT比)。これらの技術により,PUREViSION Opticsでは,最大約30%の被ばく低減ならびに最大約22%の低コントラスト分解能(Low Contrast Detectability:LCD)の向上を実現しました。
また,FIRSTは,被ばく低減と低コントラスト分解能・空間分解能の向上を目的に,対象臓器ごとに最適化しており,自動X線制御(AEC)との組み合わせによって被ばく線量を最大85.3%低減します(図6)。さらに,高性能な並列処理を行う専用ハードウエアの採用とアルゴリズム・パラメータの最適化により画像再構成時間を高速化し,ルーチン検査での適用も可能にしました。

図4 Aquilion ONEの進化

図4 Aquilion ONEの進化

 

図5 PUREViSION Opticsの技術的特長

図5 PUREViSION Opticsの技術的特長

 

図6 FIRSTの技術的特長

図6 FIRSTの技術的特長

 

進化を続ける面検出器CTのAquilion ONEは,全世界で高い臨床的有用性が認められており,2017年3月までに日本国内で400台以上,全世界で1250台以上が導入されています。2007年の初代Aquilion ONEの発表以来,当社は,面検出器CTの特長を生かした形態・機能・動態診断用アプリケーション,被ばく低減のための画像再構成技術,Dual Energy CTのアプリケーション,高分解能検出器などの技術開発を行ってきました。
当社では,これらの技術を進化・融合させて,次世代のCTを“創世”すべく,多くのプロジェクトを推進しています。今後も,新たな臨床価値につながる技術開発を進め,先生方とのコラボレーションを通じて,さらに医療に貢献していきたいと考えています。

 

 

TOP