“AI”がもたらすMRI撮像へのBreakthrough 
大田 英揮(東北大学大学院医学系研究科 先進MRI共同研究講座)
Session 1:MR

2019-5-24


大田 英揮(東北大学大学院医学系研究科 先進MRI共同研究講座)

画像診断分野における人工知能(AI)の研究としては,CTやMRIの撮像と画像再構成に関する論文が急増している。キヤノンメディカルシステムズ社でも,AI技術の一つであるdeep learningをMRIのデノイズ(ノイズ除去)に応用した“Deep Learning Reconstruction(DLR)”(W.I.P.)の開発を進めている。本講演では,当院における同社製3T MRI「Vantage Titan 3T」を用いたDLRの臨床使用経験を述べる。さらに,DLRはさまざまなシーケンスと組み合わせて使用可能であるが,ここでは特にcompressed sensing(CS)とultra-short TE(UTE)を組み合わせたTime-SLIP MRAへの適用について報告する。

Denoising with DLR(dDLR)の概要

同社が現在開発中の,deep learningを利用してデノイズを行うdenoising with DLR(dDLR)は,低SNR画像から高SNR画像を作成する技術である。例えば,従来の手法であるスムージングとdDLRを頭部画像で比較すると,スムージングでは差分画像を得た時に脳や頭蓋骨の輪郭の情報が残るのに対し,dDLRではノイズのみが抽出されるため,非常に鮮鋭度の高い画像が得られる。
dDLRの技術的なポイントは,まず開発時に膨大なデータの特徴を分析・モデル化する学習処理(開発時処理)と,出来上がったモデルを利用して取得データの分析・処理を行う推論処理(装置内処理)というdeep learningの2つのステップを経てデノイズ画像を得ることである。このdDLRの処理を従来の画像再構成の流れに組み込むことで,SNRの高い最終画像を得ることができる(図1)。
頭部領域におけるdDLRの効果を実際の画像で見ると,長時間をかけて撮像したきわめてSNRの高い画像に肉薄する画質を得ることが期待できる(図2)。腹部領域においても,dDLRではノイズの少ない明瞭な画像が得られるが,診断への寄与についてはこれから検討していく必要があると考える。

図1 dDLRを組み込んだ画像再構成の流れ(W.I.P.)

図1 dDLRを組み込んだ画像再構成の流れ(W.I.P.)

 

図2 頭部領域におけるdDLRの効果(W.I.P.)

図2 頭部領域におけるdDLRの効果(W.I.P.)

 

CS+dDLRの効果

MRIの撮像時間を短縮する技術であるCSは,アンダーサンプリングを行い,そこにwavelet変換によるデータ復元を用いて画像を復元する方法である。この時,アンダーサンプリングに求められる条件を満たしておらず,また,ベースとなる画像のSNRが低いと,wavelet変換によってデノイズする際に閾値が高くなり画質が低下する。そのため,CSの適用に当たっては,撮像時間とSNRのバランスを取ることが重要となる。
そこで,同社では現在,新しい画像再構成技術として,同社の新しいparallel imagingである“MeAS”(開発名:W.I.P.)とCSを組み合わせた“MeACS”(開発名:W.I.P.)を開発している。MeASはSENSEとGRAPPAの特長を組み合わせた技術であり,コイルの感度マップを複数取得すること(Multi sensitivity MAP)でparallel imagingにおける展開エラーを低減する。さらに,MeACSでは,wavelet変換によるデノイズの際の閾値を下げ,画質の低下を抑えることが可能となる。
しかしながら,MeACSを用いてもアンダーサンプリングを行わない画像よりも画質は低下することから,dDLRを併用することで,短時間撮像を実現しつつ,さらなる画質向上を図ることができる。実際の画像(図3)を見ると,CS強度4+dDLRの画像(c)では,撮像時間が約1分と短いにもかかわらず,約4分半かけて撮像された画像(a)よりもノイズの少ない画像が得られている。
また,MeACS+dDLRは,全身のさまざまな領域に適用可能である。

図3 MeACS+dDLRの効果(W.I.P.)

図3 MeACS+dDLRの効果(W.I.P.)

 

図4は腹部ダイナミックMRIで,従来法(b)では肝左葉外側区が胃と周囲の脂肪との部分容積効果によって辺縁を区別しづらいが,3D-CS+dDLR(a)では,同じ撮像時間の画像でも,空間分解能を向上できるため辺縁や肝の下面の境界も明瞭となっている。さらに,3D-CSの画像をdDLRの有無で比較すると,dDLRを適用した画像では画質が向上している(図5)。

図4 腹部ダイナミックMRIにおける従来法と3D-CS+dDLR(W.I.P.)

図4 腹部ダイナミックMRIにおける従来法と3D-CS+dDLR(W.I.P.)

 

図5 3D-CSにおけるdDLRの有無(W.I.P.)

図5 3D-CSにおけるdDLRの有無(W.I.P.)

 

3D-CSは,ほぼアイソトロピックなデータであるため,dDLRで画質が向上すれば,CTのダイナミック撮影と同等の感覚で,MPR画像をストレスなく作成できると考えられる。これにより,ダイナミックスタディにおける撮像プロトコールの短縮化や,Gd-EOB-DTPA造影MRIにて微小な病変の描出も可能になると期待される。
このほか,CS+dDLRによる高分解能な肩の画像では,解剖学的な情報を損なうことなくノイズが低減され,詳細な構造が描出された。また,MRCPにCS+dDLRを適用することで息止め下での3D撮像が可能となり,ノイズの少ない明瞭な画像が得られることも,大きな利点と言える。

UTE Time-SLIP MRA+dDLR─腹部血管への応用

UTEのデータ収集は,通常のCartesian座標のデータ収集と異なり,RFパルスを照射するとk-space中心からラジアルに信号を取得する。これにより,従来は描出困難であったT2の短い組織を描出することが可能となる。実際の臨床応用として,ステントやコイルなどのデバイスが植え込まれた症例にUTE-MRAを用いることで,デバイス周囲の信号低下が抑制される1)ほか,コイル塞栓術後の再開通の確認が可能となる2)
UTEの腹部への応用をめざし,同社が現在開発しているのが非造影MRA手法であるTime-SLIP法との組み合わせである。Time-SLIP MRAは,描出したい血管領域の背景信号に選択的IRパルスをかけて抑制し,待ち時間を経て上流側から流入する血液の成分を撮像することで背景と血管のコントラストを得る手法であり,TrueSSFPを併用することで,より高画質が得られる。TrueSSFP Time-SLIP MRA(SSFP Time-SLIP)の利点としては,選択的な血管描出が可能,血流動態に依存した描出が可能,造影MRIと比べて実質内の血管観察が容易(腎臓など),背景信号が低下しているためコントラストが良好,などが挙げられる。一方,欠点として,乱流などの位相分散による信号低下,susceptibility artifactの影響が大きく,コイルやクリップの近傍,ステント内およびその近傍の血流評価に限界がある,という点が挙げられる。そこで,UTEを組み合わせると,乱流などの位相分散による信号低下やsusceptibility artifactの影響が少なくなり,欠点が利点へと変化する。しかし,UTEには,撮像時間が長い,SNRが低い,ストリークアーチファクトが発生する,などの欠点があることから,さらにdDLRを適用することによってこれらの欠点を補い,画質の改善が期待される。

●症例提示
症例1は,左腎動脈瘤に対するコイル塞栓術後である。UTE Time-SLIP(図6 a)では磁化率アーチファクトの影響がほとんどなく,血管形状はDSA(図6 b)と同様であった。
また,症例2の上腹部のUTE Time-SLIPの拡大像ではノイズが目立つが(図7 a),dDLRを適用することで画質が改善した(図7 b)。
このように,dDLR を併用した腹部血管のUTE-Time SLIPは,インターベンション例などの選択された症例に対して有用と考える。

図6 症例1:左腎動脈瘤コイル塞栓術後のUTE Time-SLIP(W.I.P.)

図6 症例1:左腎動脈瘤コイル塞栓術後の
UTE Time-SLIP(W.I.P.)

図7 症例2:上腹部のUTE Time-SLIP+dDLR(W.I.P.)

図7 症例2:上腹部のUTE Time-SLIP+dDLR(W.I.P.)

 

まとめ

dDLRはさまざまなシーケンスに適用可能であり,特にMRIの撮像時間の短縮を目的としたシーケンスにおける画質の問題を改善し,高SNRな画像が得られる技術であると考える。

●参考文献
1)Irie, R., et al., Am. J. Neurordiol., 36・5, 967〜970,2015.
2)Hamamoto, K., et al., Acta. Radiol. Open, 6・9, 2058460117732101,2017.

 

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