Dual Energy CTの臨床的ポテンシャル 
町田 治彦(杏林大学医学部 放射線医学教室)
Session 2-1:CT(技術・臨床アプリ「装置の性能を最大限に切り拓く」)

2019-5-24


Dual Energy CT(DECT)は,2種類のX線エネルギーのデータを取得し,質量減弱係数が物質やX線エネルギーによって変化することを利用して画像化する技術である。DECTの主な特長として,仮想単色X線画像や物質弁別(密度)画像が得られ,コントラスト向上やアーチファクト低減による画質改善,高精度な物質弁別などが可能なことが挙げられる。本講演では,前施設でのDECT画像を供覧しつつ,主に仮想単色X線画像と物質弁別(密度)画像の有用性について報告した上で,キヤノンメディカルシステムズ社が開発中のSpectral CT(W.I.P.)の技術的な特長を概説する。

仮想単色X線画像

仮想単色X線画像は,低~高エネルギーにおける任意のX線エネルギーの画像を作成することができる。
低keV画像(低エネルギー画像)ではコントラストが向上し,低管電圧撮影と同様の効果が期待できる(図1)。また,合理的な造影剤量の低減も可能である。図2は肝細胞がんの経過観察の症例であるが,120kVpの造影CT画像(a)と比較して,造影剤量を半減(300mgl/kg)して取得した40keV画像にノイズ低減目的にhybrid IRを併用した画像(b)では,コントラストが向上して描出能が改善し,病変が視認しやすくなっている()。

図1 低keV画像によるコントラストの向上1) 70keV(120kVp相当)画像(a,b)と比較し,低keV画像(c,d)ではコントラストが向上し,末梢血管の描出も向上している。

図1 低keV画像によるコントラストの向上1)
70keV(120kVp相当)画像(a,b)と比較し,低keV画像(c,d)ではコントラストが向上し,末梢血管の描出も向上している。

 

図2 40keV+hybrid IRによる造影剤量の低減

図2 40keV+hybrid IRによる造影剤量の低減

 

一方,高keV(高エネルギー)画像は,ブルーミングアーチファクトや金属アーチファクト低減に有用である(図3)。140kVpで撮像した画像(図3 a)と比較して,高keV(120keV)画像(図3 b)では金属スクリューからのアーチファクトが低減され,脊柱管内の観察も容易である。

図3 高keV画像による金属アーチファクトの低減1)

図3 高keV画像による金属アーチファクトの低減1)

 

また,仮想単色X線画像のエネルギーレベル(keV)を横軸,CT値(HU)を縦軸としてプロットしたkeV-HU曲線は,物質ごとに固有のパターンを示す。副腎腺腫の症例(図4)では,腫瘍()の部分に関心領域(ROI)を設定すると,keV-HU曲線は低エネルギーになるほどCT値が低下し(青線),脂肪に特徴的な曲線パターンを呈することから,lipid richな副腎腺腫と容易に診断できる。同曲線解析を行わなくても,低keVで正常副腎と腫瘍とのCT値差が大きくなっているため,エネルギーを変化させるだけで脂肪を含む腫瘍であると判断できる。
このように,DECTでは,さまざまなエネルギーにおけるCT値の変化から組織の違いを推測可能であり,CT値の上昇が急峻であれば,細胞密度の高い腫瘍と推測できると考える。

図4 keV-HU曲線に基づく副腎腺腫の診断1)

図4 keV-HU曲線に基づく副腎腺腫の診断1)

 

物質弁別(密度)画像

物質弁別(密度)画像は,特定の物質を強調,あるいは抑制して画像化することができる。
ヨード/水密度画像は,ヨード密度を強調して水密度を抑制した画像であり,異所性甲状腺の診断や肺のperfusionの評価,がんの治療効果判定などにも有用である。図5は,多血性腎細胞がんに対し分子標的薬スニチニブを投与した症例である。スニチニブは腫瘍の栄養血管新生を抑制するため,病変サイズが縮小する前にバスキュラリティが低下し,造影効果が低下する。通常の造影CTでは,治療によって出血が生じると正確な治療効果判定が困難となるが,ヨード/水密度画像は出血の影響を受けず,しかもROIを設定してヨード密度値を計測することで,定量的な治療効果判定が可能となる。
物質弁別(密度)画像は,ヨード/水密度画像以外にもさまざまな画像が作成できる。水/ヨード密度画像は,造影CTのヨードを抑制した仮想単純CT画像であり,胆石と胆囊ポリープの鑑別に有用である。ヨード/カルシウム密度画像は,ヨードを強調してカルシウムを抑制することで,動脈内腔の正確な狭窄率の評価が可能となる。水/カルシウム密度画像は,水を強調してカルシウムを抑制することで骨髄浮腫を強調し,骨髄炎の診断を鋭敏かつ正確に行うことができるほか,外傷例においては,骨挫傷や新鮮骨折などの診断にも有用と思われる。尿酸/カルシウム密度画像やカルシウム/尿酸密度画像では,痛風の確定診断も可能である。また,脂肪肝で肝実質がびまん性に低濃度化すると,単純CTのみでは腫瘤性病変の指摘が困難だが,脂肪/水密度画像(または水/脂肪密度画像)を用いることで背景肝との濃度の差異を明らかにでき,病変の見逃し防止につなげることが可能となる。

図5 ヨード密度画像による腎細胞がんのスニチニブ治療効果判定1)

図5 ヨード密度画像による腎細胞がんのスニチニブ治療効果判定1)

 

さらに,実効原子番号を解析し,それに基づいた物質弁別も可能である。図6は尿管結石の症例である。横軸を実効原子番号としたヒストグラム解析(図6 b)では,結石()がシュウ酸カルシウム(COM)の実効原子番号(水色)と一致することから,シュウ酸カルシウム結石と診断できる。実際に,排泄された結石を赤外線分光分析にかけたところ,98%以上がシュウ酸カルシウムであった(図6 c)。

図6 実効原子番号解析に基づいた尿路結石の成分分析

図6 実効原子番号解析に基づいた尿路結石の成分分析

 

DECTのポテンシャル

DECTは,多様なコントラストの画像をレトロスペクティブに取得可能なことから,全例でのPACSレベルでの解析や,AIとの連携についても期待したい。また,高精度な定量性に基づくバイオマーカーが提供でき,ヨード/水密度画像を用いた腫瘍の治療効果判定や,肝臓や心筋の線維化の定量評価なども可能である。実効原子番号などによる物質の正確な同定は, DECT用造影剤の開発や治療への応用,フォトンカウンティングCTへの橋渡しにもつながると考える。
さらに,近年の報告では,ウサギにタングステンとヨードを順番に注入し,DECT撮影を行ったところ,タングステン・ヨード密度マップ画像が表示でき,1回の造影CT撮影で,動脈相(ヨード)と静脈相(タングステン)の造影2相の評価を同時に行えたことが示されている2)

Spectral CTの可能性

キヤノンメディカルシステムズ社では現在,New Area Detector CTとしてSpectral CTを開発中である。高速のkV switching方式を採用しており,撮像範囲はZ軸方向に16cm,AECが適用でき,FOVの制限はなく50cmである。さらに,deep learning再構成が適用されるというメリットもある(図7)。
また,AEC適用により照射線量の最適化を図り,Multi Energyデータの同時相収集と被ばく低減を両立する。そのほか,Spectral Scanからdeep learning再構成,Vitrea WorkstationでのDiagnosis解析やPACSへの転送に至るまで,Seamless workflowでの実行が可能になるとのことである。

図7 DECTの各方式(W.I.P.)

図7 DECTの各方式(W.I.P.)

 

*図1,3〜5は参考文献1)より引用転載

●参考文献
1)上野惠子 責任編集,町田治彦・他 編:スペクトラルCT基本原理と臨床応用. 東京, 学研メディカル秀潤社, 2013.
2)Mongan, J., et al.: In vivo differentiation of complementary contrast media at dual-energy CT. Radiology, 265, 267~272, 2012.

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)


【関連コンテンツ】
TOP