超高精細CTを用いた脳神経外科手術支援 
齊藤 邦昭(杏林大学医学部 脳神経外科学教室)
Session 2-2:CT(診断から治療まで「画像を最大限に活かした治療」)

2019-5-24


齊藤 邦昭(杏林大学医学部 脳神経外科学教室)

脳神経外科手術には,脳腫瘍摘出術や脳動脈瘤クリッピング術などがあるが,いずれも脳血管の情報を詳細に把握することが重要である。超高精細CT「Aquilion Precision」の3D-CTAは,高空間分解能の画像により細い血管まで描出できることから,当院では脳神経外科手術の術前後の評価に用いている。
本講演では,Aquilion Precisionによる脳血管の描出が手術に有用だった症例を紹介する。

脳神経外科手術支援におけるAquilion Precisionの有用性

脳腫瘍摘出術では,脳機能検査や術中神経生理モニタリングなど,さまざまなモダリティを用いて手術支援を行う。なかでも,3D-CTAで脳血管の情報を得て画像再構成を行い,腫瘍と血管の位置関係を把握することは,安全に手術を行う上で重要である。

●症例1:左前頭葉膠芽腫
症例1は,80歳,女性,左前頭葉膠芽腫である。従来CTとAquilion Precisionの3D-CTAを比較したところ,動脈・静脈共にAquilion Precisionの方が脳表まで細い血管を描出できており,腫瘍との位置関係の把握に有用であった(図1)。
実際の手術の画像と比較しても,腫瘍周囲の血管の位置は術前の3D-CTA画像と一致していた(図2)。腫瘍の最も奥に走行している動脈(callosomarginal artery:)も同定されていたため,術前計画どおりに,この動脈まで腫瘍を摘出し,虚血を生じずに全摘出することができた。

図1 症例1:左前頭葉膠芽腫の術前3D-CTA(静脈)

図1 症例1:左前頭葉膠芽腫の術前3D-CTA(静脈)

 

図2 症例1:術前3D-CTAと手術画像の比較

図2 症例1:術前3D-CTAと手術画像の比較

 

●症例2:右頭頂葉悪性黒色腫
症例2は,76歳,男性,右頭頂葉悪性黒色腫(転移性腫瘍)である。大きな腫瘍の手術ではfeederの処理も重要であるが,Aquilion Precisionによる術前の画像では腫瘍に向かう多数の血管が描出され,すべて腫瘍内部で終わっていることからfeederであることがわかった。
手術の画像と比較すると,脳表の細い静脈も正確に描出されている(図3)。
従来CTでは,脳表の静脈をここまで描出することは難しかったが,Aquilion Precisionを用いることでアプローチ範囲を事前に計画し,腫瘍を確実に摘出することが可能となった。

図3 症例2:右頭頂葉悪性黒色腫の術前3D-CTAと手術画像の比較

図3 症例2:右頭頂葉悪性黒色腫の術前3D-CTAと手術画像の比較

 

●症例3:左前頭葉膠芽腫
症例3は,59歳,女性,左前頭葉膠芽腫である。腫瘍に向かう太い血管がfeederと考えられたが,詳細に観察すると,腫瘍の後方に通過する血管も確認でき,腫瘍後方を栄養する動脈もあると推測された(図4)。
そのため手術では,腫瘍内部に入る血管は凝固切離して出血を抑え,正常灌流の可能性がある血管は腫瘍後方まで走行していることが確認されたため,腫瘍から剥離して温存した。腫瘍後方は運動領域であり,血管を残すことで脳梗塞を防ぎ,麻痺を生じることなく脳腫瘍を摘出することができた。

図4 症例3:左前頭葉膠芽腫の術前3D-CTA

図4 症例3:左前頭葉膠芽腫の術前3D-CTA

 

●症例4:再発髄膜腫
症例4は,76歳,女性,再発髄膜腫である。髄膜腫は良性腫瘍だが,短期間で再発を来したため腫瘍を確実に摘出する必要がある。術前の3D-CTAでは,血管に腫瘍がまとわりつく様子が確認された(図5 左)。腫瘍内部を血管が貫通しており,これが途絶すると広い範囲で脳梗塞を生じる可能性があるため,温存する必要があった。
手術は血管と腫瘍の癒着を剥離しながら進められたが,深部の腫瘍を摘出するには貫通している血管が障害となった。そのため,貫通している血管ごと腫瘍を摘出し,動脈の断端をそれぞれ吻合することで血流を温存した。細い動脈が腫瘍を貫通していることを術前に把握できていたため,準備を整えて手術に臨むことが可能であった。術後の3D-CTAでは,吻合した血管の開通を確認できた(図5 右)。

図5 症例4:再発髄膜腫の術前後の3D-CTA

図5 症例4:再発髄膜腫の術前後の3D-CTA

 

●症例5:左中大脳動脈瘤
症例5は,61歳,女性,左中大脳動脈瘤である。動脈瘤手術においても血管評価は重要であり,手術では動脈瘤周囲の血管を剥離して動脈瘤の根元にクリップを掛ける必要がある。本症例をAquilion Precisionで詳細に観察すると,動脈瘤の周囲に複数の細い血管が癒着している所見が認められ,この剥離に難渋することが予想された。
実際の手術にて,術前3D-CTAのとおり細い血管が動脈瘤に癒着しており,破裂しやすい動脈瘤突起部も正確に描出できていることが確認された。術前画像でシミュレーションができていたため,ていねいに血管を剥離し,動脈にクリップを掛けることができた。術後の従来CTとAquilion Precisionの画像を比較すると,Aquilion Precisionの方がクリップやその周囲の血管も明瞭に描出されており,術後評価でも十分に有用と考えられる(図6)。

図6 症例5:左中大脳動脈瘤の術後の画像比較

図6 症例5:左中大脳動脈瘤の術後の画像比較

 

穿通枝の描出

穿通枝の中でもレンズ核線条体動脈(LSA)やlong insular arteryなどは,損傷すると麻痺などの重篤な合併症を来す。穿通枝は0.4〜0.8mmと非常に細く,従来の3D-CTAでは描出が困難だが,描出能に優れる脳血管撮影は侵襲性が高い。そこで,当院にてAquilion Precisionによる穿通枝の描出を試みた。
模擬微小血管(0.4〜2.0mm)を配置したファントムをAquilion Precisionにて撮影し,画像再構成法による描出能の違いについて検討した。FBP,AIDR,FIRST Cardiac,FIRST Brain CTA,AiCEを比較したところ,0.7mm程度の細い血管はFIRST Cardiacで最も良好に描出された。臨床例でも前脈絡叢動脈やLSAは,FIRST Brain CTAよりもFIRST Cardiacで良好に描出されたため(図7),FIRST Cardiacを用いた穿通枝の描出を試みた。

図7 画像再構成法によるLSA描出能の比較

図7 画像再構成法によるLSA描出能の比較

 

●症例6:左内頸動脈後交通動脈瘤
症例6は,58歳,男性,左内頸動脈後交通動脈瘤である。未破裂動脈瘤で,動脈瘤アプローチの際に穿通枝(LSA)の走行に注意が必要な症例である。脳血管撮影で確認できる穿通枝が,Aquilion Precisionで同じように描出されていることがわかる(図8)。

図8 症例6:左内頸動脈後交通動脈瘤

図8 症例6:左内頸動脈後交通動脈瘤

 

●症例7:再発神経膠腫
症例7は,42歳,女性,再発神経膠腫である。脳腫瘍の周囲血管として前脈絡叢動脈やLSAなど穿通枝が走行している場合には,術前にその情報を把握しておくことで安全に手術を施行できる。本症例は側頭葉内側の腫瘍の摘出であり,前脈絡叢動脈やLSAの損傷に注意が必要である。3D-CTA(図9)では,腫瘍の奥の内頸動脈,前脈絡叢動脈(),LSA()が確認できる。このように,細い穿通枝を描出し,術前情報として提供できるようになったことで,脳外科手術の安全性が向上している。

図9 症例7:再発神経膠腫

図9 症例7:再発神経膠腫

 

まとめ

超高精細CT Aquilion Precisionにより脳表の細動脈や穿通枝に至るまで描出できるようになり,脳腫瘍や動脈瘤などの脳神経外科手術における手術計画や手術合併症の回避,また,術後の血管評価に有用であった。
画像再構成法や撮影の工夫により,細い血管の描出能をさらに上げていきたいと考えている。

 

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