Deep Learning Spectral Imagingの原理と応用 
檜垣  徹(広島大学大学院医系科学研究科先進画像診断開発共同研究講座)
Session 2

2019-11-25


檜垣  徹(広島大学大学院医系科学研究科先進画像診断開発共同研究講座)

本講演では,キヤノンメディカルシステムズの新しいDual Energy CT技術“Spectral Imaging System”について,その概要と基礎実験の結果を報告する。

■Spectral Imaging Systemの概要

1.Rapid kV switchingの原理
Dual Energy CT技術の一つであるRapid kV switchingは,1回転中に高kVと低kVを高速に切り替えることによって,サイノグラム上ではほぼ同時に撮影した高kVと低kVのraw dataを取得することが可能となる。得られたraw dataをさらに高kV,低kVに分離して,それぞれ再構成を行うことによって,Dual Energy解析が可能となる。ただし,スイッチングによってデータに“隙間”が生じてしまうという問題がある。スイッチングを高速化すれば,隙間がほとんど生じず,それぞれのkVに対して適切な画像を再構成できるようになる。そのため,Rapid kV switchingによるDual Energy CTは,通常の120kVと同等の画質が得られるスイッチングの高速化に主眼を置いて開発されてきた。
しかし,管電圧の応答速度の観点から考えると,スイッチングの高速化にも問題が存在する。理想的な管電圧の切り替えは図1 aのような矩形波を発生させることであるが,実際には図1 bのように電気回路に過渡現象が生じるために,カーブを描くような形状の波となる。このカーブの部分は管電圧が不安定であるため,少し時間を置くことで,安定した区間のデータを収集することが可能となる。しかし,スイッチングを高速化した場合,切り替え時の管電圧が不安定な状態でデータを収集することになり,エネルギーセパレーションが不十分な画像となってしまう(図1 c)。このようにエネルギー分解能に関しては,スイッチングが高速の場合は管電圧の過渡期を含むことになり十分に分離ができず,低速の場合は管電圧の安定区間を得られるため,安定して分離できる。
さらに,スイッチングの高速化は,管電流にも影響を及ぼす。管電流を低くすると,管電圧の切り替えの応答速度が遅くなり,過渡現象のカーブが緩やかになってしまい,安定区間が短くなる。これによって,管電流を変えて撮影する場合に問題が生じる。管電流の変化によって部位ごとの平均kVも変動してしまうので,Dual Energy解析の精度が低くなる。そのため,従来のRapid kV switchingでは,AECを使用することが困難であった。しかし,スイッチングを低速化することで,管電流と管電流の応答速度によらず,安定した管電圧のデータを得られる区間ができ,十分なエネルギーセパレーションが可能となる。つまり,スイッチングの高速化は管電圧に変動を与えるため管電流を固定する必要があり,低速化は管電圧の変動を待てるため管電流の変調が可能となる。
これらのことを踏まえると,空間分解能の問題さえ解決できるならばスイッチングを低速化した方が,理想的なDual Energy CT撮影が可能となる。

図1 管電圧の応答速度 a:理想的な管電圧の切り替え b:実際の管電圧の切り替え c:スイッチングを高速化した時の管電圧の切り替え

図1 管電圧の応答速度
a:理想的な管電圧の切り替え
b:実際の管電圧の切り替え
c:スイッチングを高速化した時の管電圧の切り替え

 

2.Spectral Imaging Systemの原理と特徴
上記の問題を解決したのが,Spectral Imaging Systemである。Spectral Imaging Systemは,高kVと低kVを正確に分けてデータを収集でき,AECが適用可能な最適なスイッチングのサイクルとなるよう,切り替え時間を1ms以下とした。これによってミスレジストレーションのない高精度のDual Energy解析が可能となる。Spectral Imaging Systemではさらに,Deep Learningが用いられている。高kVと低kVのraw dataから安定した管電圧が得られている区間を分離すると,例えば低kVのraw dataには,管電流が不安定な区間と安定した高kVの区間のデータの不足(ギャップ)が生じる。そこで,低kVと高kVデータを入力したdeep convolutional neural network(DCNN)でのDeep Learningを行い,ギャップを推定している(図2)。さらに,低kVデータはザラツキがあるため,Deep Learningを用いたCT画像再構成技術“AiCE”で培ったノイズ除去技術を適用することで,ノイズを抑え高精度に補間されたraw dataを取得できる。
このように,Spectral Imaging Systemでは,低速スイッチングの問題であった分解能の低下やアーチファクトを,スイッチングサイクルの最適化とDeep Learningにより解決した。Spectral Imaging Systemの特長を改めて整理すると,Deep Learningでのギャップ推定によって通常の120kV撮影と同等の空間分解能が得られ,2-rotetion scanと同等のエネルギー分解能を有し,135kVと80kVのデータを取得できる。さらに,スイッチングサイクルの最適化によってAECが適用可能で,画質と被ばくの最適化が可能となった。

図2 Deep Leaningによるギャップ推定

図2 Deep Leaningによるギャップ推定

 

■Spectral Imaging Systemの基礎実験

1.AECの動作検証:被ばくとノイズ
われわれはSpectral Imaging Systemの特長を検証するために,ファントム実験を行った。3Dプリンタで作製した,頭尾方向60cm,左右30cm,奥行き20cmの楕円形のファントムは内容物を変更して,肩から胸部,腹部,骨盤までの軀幹部を模倣した。さらに,ファントム内の上下左右には線量計測の穴を設けているほか,中心部にはパイプを配して10mgI/mLに希釈したヨード造影剤を封入し,ヨード造影剤のCT値の精度についても検証した。また,「Single Energy CTでAECを使用」「Spectral Imaging SystemでAEC不使用」「Spectral Imaging SystemでAEC使用」の3パターンで撮影し,それらを比較した。評価方法については,(1) 管電流と被ばくについて,スライスごとにmA値を計測し,MOS線量計で部位ごとの線量を計測,(2) 画像ノイズについて,肩,胸部,腹部,骨盤部のスライスごとのSD値を計測,(3) 希釈ヨード造影剤のCT値のスライスごとの計測,の3項目とした。
管電流と被ばくについての検証結果を図3に示す。図3 aは,管電流の変調をグラフ化したもので,DICOM画像のヘッダに格納されたmA値を用いている。縦軸が管電流,横軸がスライス位置となっていて,左から肩,胸部,腹部,骨盤部となる。グラフ上の「Single Energy CTでAECを使用」は,低吸収値のところの管電流が下がり,高吸収値では管電流が上昇している。「Spectral Imaging SystemでAEC使用」も,胸部だけはシステムの制約上mAの最低値が230mAとなっているため十分に下がっていないが,それ以外はどの部位も「Single Energy CTでAECを使用」とほぼ同じ管電流であった。吸収値に応じて管電流が増減しており,適切に変調されていると言える。また,「Spectral Imaging SystemでAEC使用」の被ばくの検証では,MOS線量計による計測値を見ると,肩,胸部,腹部,骨盤部の線量のうち,胸部の線量の実測値が低くなっており,管電流の変調のグラフと同様のパターンを示していた(図3 b)。このことから,AECを使用することで管電流が変調できていることがわかる。

図3 管電流と被ばくの検証結果 a:管電流の変調 b:MOS線量計による計測値

図3 管電流と被ばくの検証結果
a:管電流の変調 b:MOS線量計による計測値

 

画像ノイズについては,Spectral Imaging SystemでのAEC使用・不使用の両方で検証した(図4)。いずれもスライスごとのSD値にはバラツキがあるが,AEC使用の場合の方がバラツキの範囲が狭く,すべての部位で目標SD値である8に近い値となっており,AECによって画質の最適化を図れることが示された。

図4 画像ノイズの検証結果

図4 画像ノイズの検証結果

 

2.基礎画質の検証:造影剤の造影効果
希釈ヨード造影剤のCT値のスライスごとの計測については,「Single Energy CTでAECを使用」と「Spectral Imaging SystemでAEC使用」を比較した(図5)。Single Energy CTの場合は,肩は約200HUで胸部は約280HU,最も低い骨盤部で約190HUと,最大90HU程度のバラツキが生じた。これは,ビームハードニング効果で環境ごとにCT値が変動しているためである。一方,Spectral Imaging Systemでは,すべての部位で250HUの前後10HUに収まっていた。この理由は,高精度なビームハードニング補正が行われているためであり,これによってCT値が安定して均一な画質が得られている。

図5 希釈ヨード造影剤のCT値の検証結果

図5 希釈ヨード造影剤のCT値の検証結果

 

■まとめ

Spectral Imaging Systemは,Rapid kV switchingを用いたDual Energy CTである。スイッチング時間の最適化とDeep Learningの活用によって,AiCEで培った技術を応用したノイズの少ない画像が得られ,基礎画質が向上している。また,スイッチングをやや低速化したことで,安定したエネルギーのデータ収集が可能となり,エネルギー分解能が高くなって解析精度も向上した。これはビームハードニング補正にも効果を生んでいる。さらに,スイッチング時間の最適化によってAECが利用可能になったことで,部位ごとに最適なX線の照射ができるようになり,画質と被ばくの最適化が図れると期待される。

 

 

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