技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2021年4月号

循環器領域における核医学装置の技術の到達点

心筋SPECT検査における3検出器型SPECT装置「GCA-9300R」の特長

金子 舞美[キヤノンメディカルシステムズ(株)核医学営業部]

本稿では,心臓SPECT検査において卓越した画像を提供する3検出器型SPECT装置「GCA-9300R」(図1)の特長について,最新技術の紹介を交えて概説する。

図1 3検出器型SPECT装置GCA-9300R

図1 3検出器型SPECT装置GCA-9300R

 

■‌ 3検出器×LMEGPコリメータ

360°分のデータを得るために,汎用2検出器型SPECT装置では検出器を180°回転させるのに対し,3検出器型SPECT装置では検出器を120°回転させるだけですむため,同じ収集時間では1.5倍の収集効率で高画質が得られる。
コリメータにも大きな特長がある。標準装備である低中エネルギー汎用パラレルホールコリメータ(以下,LMEGP)は,低エネルギー高分解能パラレルホールコリメータ(LEHR)と比較して約1.8倍の感度がある。そのため,心電同期収集や,99mTc製剤に比して投与量の少ない201Tl製剤でも,統計ノイズの少ない高画質な画像が得られる。また,123I核種に見られる529keV由来の散乱線成分の混入を抑え,心縦隔比(H/M比)の定量性を改善する(図2)。

図2 LMEGPコリメータとLEHRコリメータの比較 (データご提供:国立循環器病研究センター様)

図2 LMEGPコリメータとLEHRコリメータの比較
(データご提供:国立循環器病研究センター様)

 

■‌ 3D-OSEM再構成による画質向上効果

3D-OSEM(コリメータ開口補正付き逐次近似)再構成は,コリメータの有限な開口径によって生じる幾何学的な位置分解能の劣化を改善する補正機能を含んでいる。GCA-9300Rでは,演算処理をCPUからGPUに切り替え,最適なコーティングをすることで処理時間の大幅な短縮に成功した。また,コリメータ開口補正で発生するGibbs振動現象によるアーチファクトを抑えるよう,逐次近似の処理パラメータの最適化も行われている1)99mTc製剤を投与し,12分収集してFBPで再構成した画像と,6分収集し3D-OSEMで再構成した画像を示す(図3)。3D-OSEMで再構成した画像は,FBPで再構成した画像の半分の収集時間にもかかわらず,SNRが高く画像の不均一が低下している。

図3 3D-OSEM再構成とFBP再構成の比較 (データご提供:福島県立医科大学様)

図3 3D-OSEM再構成とFBP再構成の比較
(データご提供:福島県立医科大学様)

 

■‌ SSPAC法を用いた減弱アーチファクトの低減

心筋SPECT検査において,生体内での吸収・散乱の影響により,下壁・中隔領域のカウントが相対的に低下することが知られている。このカウント低下を補正するには,生体内での減弱の影響を示す減弱マップが必要であり,最近では,CT画像を基に減弱マップを作成する方法が検討されている。しかし,短時間で撮影するCT画像と長時間の自由呼吸下で撮像するSPECT画像では,臓器の位置ズレが課題となる。これは,同一寝台で撮像可能なSPECT/CT装置においても解消されていない2)。この問題を解決するために,SSPACが前田らによって開発された3)
SSPAC法は,被検者に投与された心筋血流製剤から放出されるγ線の情報を用いて減弱マップを作成する手法で,フォトピークウインドウデータとコンプトン散乱領域のサブウインドウのデータを利用して,SPECT画像から減弱マップを作成する。データ収集のエネルギーウインドウ設定は,散乱線補正法(TEW法)と同じである(図4)。SPECT収集データそのものから減弱マップを作成するため,SPECT/CT装置で認められるSPECT画像と減弱マップとの位置ズレを解決し,より精度の高い減弱補正を行うことができる。

図4 SSPAC法のデータ収集におけるエネルギー設定

図4 SSPAC法のデータ収集におけるエネルギー設定

 

図5に,SPECT/CT装置で心筋SPECTの減弱補正を行った場合と,SSPAC法を用いた場合を比較した結果を示す。補正なしでは存在しない心尖部の画素値低下がCT画像による補正で認められるのに対し,SSPAC法では認められない。心尖部の画素値低下の要因の一つは,減弱補正用画像とSPECT画像の位置ズレと考えられている。SSPAC法は画像の位置ズレがないため,心尖部の画素値低下が生じないと考えられる。

図5 SPECT/CT装置のCT画像を使った減弱補正とSSPAC法による減弱補正の比較 (データご提供:金沢大学様)

図5 SPECT/CT装置のCT画像を使った減弱補正とSSPAC法による減弱補正の比較
(データご提供:金沢大学様)

 

■‌ 冠動脈CT画像と心筋SPECTのフュージョン“NM Cardiac Fusion”

近年,ソフトウエアの進歩により,冠動脈の形態的評価を行う冠動脈CT画像と機能的評価を行う心筋血流SPECTをフュージョンさせる手法が開発されており,その融合画像は臨床の場で高く評価されている4),5)。
NM Cardiac Fusionも,画像フュージョン用アプリケーションの一つで,冠動脈CT画像とSPECT画像の3Dフュージョン表示が可能である。冠動脈の状態(走行・狭窄や石灰化の有無)と心筋血流の状態(虚血・梗塞の有無)を同時に観察することで,責任血管の判定,治療方針の決定,被検者への説明に効果が期待できる(図6)。

図6 NM Cardiac Fusion使用画像 (データご提供:鹿児島大学様)

図6 NM Cardiac Fusion使用画像
(データご提供:鹿児島大学様)

 

■‌ 心筋血流と心機能を総合的に評価可能な“INVIA 4DM”

新バージョンより心臓解析ソフトウエア“INVIA 4DM”が追加されている。現在,“Cedars”の最新バージョンが搭載されているが,INVIA 4DMでは,非同期SPECT画像から左心室を自動的に輪郭抽出し,ポーラーマップ解析を行うことが可能になっている。また,負荷像と安静像の比較から求められるreversibilityや一過性心拡大を評価するTID,201Tl心筋血流検査におけるwashout rateといった指標が算出できる。正常者データベースと比較したスコアリング機能を有しており,予後予測に有用なSSS,SRS,SDSを自動算出することもできる。
心電図同期SPECT画像に対しても独自のアルゴリズムで自動輪郭抽出を行い,各位相のデータからvolumeやEFといった指標を算出することができる。また,心拍動のリズムを見る位相解析機能を有しているため,左室収縮同期不全(LV Dyssynchrony)に対する心臓再同期療法(CRT)の治療効果予測および治療効果判定のサポートが可能となっている(図7)。

図7 INVIA 4DMの解析画面

図7 INVIA 4DMの解析画面

 

GCA-9300Rは,さまざまな先端技術の搭載に加え,新たに心臓解析ソフトウエアINVIA 4DMの搭載により,心筋血流と心機能を総合的に評価することが可能となった。これらの特長は診断能向上に大きく貢献できると考える。

* NM Cardiac Fusion,INVIA 4DMはオプション機能です。

●参考文献
1) 大西英雄 : 数値ファントムを用いた最新鋭SPECTの位置分解能の基礎的検討.日本放射線技術学会雑誌, 68(6): 686-696, 2012.
2) McQuaid, S.J., et al. : Sources of attenuation-correction artefacts in cardiac PET/CT and SPECT/CT. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 35(6): 1117~1123, 2008.
3) 前田壽登 : 心筋SPECTにおける減弱補正 ─散乱・フォトピ-クデ-タからの減弱係数マップ作成および減弱補正. メディカルレビュー, 27(4): 7-11, 2003.
4) Matsuo, S., Nakajima, K., et al. : Clinical usefulness of novel cardiac MDCT/CT fusion image. Ann. Nucl. Med., 23(6): 579-586, 2009.
5) Slart, R.H., et al. : Diagnostic pathway of integrated SPECT/CT for coronary artery disease. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 36(11): 1829-1834, 2009.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

TOP