技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)
2026年4月号
腹部領域における核医学の最新技術
「Cartesion Prime / Luminous Edition」における腹部画像診断へのアプローチ
稲村 瑛仁[キヤノンメディカルシステムズ(株)国内営業本部核医学営業部]
キヤノンメディカルシステムズは,2023年4月より,デジタルPET-CT装置「Cartesion Prime / Luminous Edition」を販売している。当装置は,光検出素子にsilicon photo-multiplier(SiPM)を使用したPET検出器を搭載しており,検出器内部の信号処理回路の改良によって,238ピコ秒(typical値)という高いtime-of-flight(TOF)性能を有している。また,当装置が持つ27cmの長い体軸視野検出器により,頭部や心臓といったターゲット臓器の撮像を1ベッド撮像範囲で完結することができ,感度の担保と撮像時間の短縮に貢献できると考える。
本稿では,ディープラーニングを用いた画像再構成技術である「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」,および独自のデバイスレスPET呼吸同期システムである「Auto Gating」と,腹部領域への応用例について紹介する。
■デノイズ強度の選択が可能な「AiCE 2.0」
Cartesion Prime / Luminous Editionは,ディープラーニングを用いて設計した画像再構成技術AiCEをPET,CT双方に搭載している。AiCEは,設計段階で十分な収集時間をかけて得られたデータを教師データとして,統計ノイズが含まれた短時間収集のデータからノイズとシグナルの識別をトレーニングしている。よって,AiCE再構成はノイズを除去することが可能であり,一般的に用いられているGaussian filterのような一様なノイズ低減処理と比較して,微小病変の描出能が向上している。これにより,低投与量,短時間撮像のような撮像条件が厳しい状況下でも,高画質な画像を取得できることが期待される。
2025年4月には,新たにトレーニングデータを見直し,ノイズ特性をさらに向上させたAiCE 2.0をリリースした。現行のAiCEではトレーニングデータにスライスデータを使用していたが,AiCE 2.0ではボリュームデータを使用している(図1)。
肝SNRを指標として臨床画像を比較した例を示す(図2)。本ケースにおいては,conventionalな画像再構成条件の臨床画像に対して現行AiCEを適用することで,1.9倍の肝SNR改善が見られた。それに対して,conventionalの臨床画像に対してAiCE 2.0を適用することにより,肝SNRは2.4倍改善し,現行AiCEと比較しても,さらに26%の肝SNR向上を認めることができた。
加えて,新たな機能として,AiCE 2.0ではユーザー側でノイズ低減の強度を選択することが可能となっている。精度の高い診断を行うに当たり,高SNR画像を生成するための新たな画質調整の選択肢を提供することができる。
図1 トレーニングデータにおける現行AiCEとAiCE 2.0の違い
図2 AiCE 2.0によって肝SNRがさらに向上した例
■呼吸状態やトリガに依存しないデバイスレスPET呼吸同期システムAuto Gating
デバイスレスPET呼吸同期は,外部モニタ装置を使用せず,PET収集データのみから呼吸体動の影響を低減したPET画像を生成する。呼吸同期の一般的なアプローチとして分類されるphase gatingでは,生成した呼吸波形からトリガを設定し,位相同期収集を行う。この手法は,呼吸波形の周期ごとで振幅に大きな差があったり,トリガが欠損したりした場合には得られるデータの精度が不安定になりやすく,画質が呼吸状態に依存してしまうという性質がある。
一方,Cartesion Prime / Luminous Editionには,当社独自のデバイスレスPET呼吸同期システムであるAuto Gatingが搭載されている(図3)。当機能では,まず,収集されたデータを短時間ごとに分割し,簡易的なTOF再構成を行う。再構成された画像から,演算処理システムに組み込まれたdeep convolutional neural network (DCNN)により,動きの特徴量(latent vectors:LV)を抽出する。次に,LVの類似度を計算し,最も安定した呼気相から順に並び替え,任意のイベントを再構成に使用することで,呼吸同期画像を得る。
Auto Gatingでは,呼吸同期に使用するカウントの割合を入力することで,同期再構成画像が作成される。そのため,統計量的に安定した画像を取得することができる。また,LVを動きの特徴量によってソートしているため,呼吸波形に依存しない画像を取得することができる。これらの理由により,Auto Gatingは,phase gatingよりも画像に寄与するデータ量を増やせる可能性があり,特に呼吸状態が不安定な被検者において,よりボケの少ない呼吸同期画像を生成することができる。
図3 Auto Gatingの概念図
■Auto Gatingを適用させたAiCE 2.0再構成
これまで述べた当社技術の臨床への応用例を紹介する。長時間PET撮像を行うことは,呼吸による体動が画像へ反映される影響が大きくなってしまい,腹部領域においても位置ズレや分解能の低下を引き起こす可能性が高くなる。そこで,当社独自のAuto Gatingを適用することで,撮像時間の延長を行うことなく,ボケの少ない画像を作成することができる。
一方,呼吸同期を行うことは,画像再構成に使用するデータの一部を抽出して使用するため,画質の劣化を引き起こしてしまう可能性がある。そこで,AiCEを適用して再構成を行うことにより,コントラストを維持しつつノイズを低減し,画像全体の視認性と定量性を担保した画像を提供することが可能である。
図4に,非同期再構成(a)と呼吸同期再構成(b)を比較した臨床例を示す。非同期画像では,右中葉において,体軸方向に伸びて描出された集積が確認できる。また,左肺には輪郭が不鮮明な集積が認められ,肝臓上縁部ではPET撮像中の呼吸によって境界が不明瞭となっている。
一方,Auto Gatingを適用した呼吸同期画像では右中葉での集積のボケが抑制され,SUVmaxが向上している。また,集積辺縁や肝臓上縁部の輪郭が明瞭に描出されている。さらに,AiCEのノイズ除去技術により画像のざらつきや視認性の劣化を抑制し,呼吸同期によって引き起こされるSNRの低下を防ぐことが実現できている。
図4 非同期再構成(a)と呼吸同期再構成(b)を比較した臨床例
本稿では,腹部領域におけるデバイスレスPET呼吸同期とAiCEを同時に用いた画像再構成の有用性について紹介した。半導体PET-CTが市場に多く導入されていく今日の中で,画像に求められる視認性や定量性は,これまでよりも高い精度を求められている。国産の全身用PET-CTメーカーとして,今後のPET検査の動向を注視しつつ,診断価値を高める装置の開発に取り組んでいきたい。
* 本システムは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
* 装置やソフトウエアが病変を診断するものではありません。あくまでも医師の診断によります。
●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
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