FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み

ITvision No.55

循環器内科医長 森田康弘 氏,薬剤部科長補佐 森 卓之 氏,臨床工学技術科医療工学センター 山岸隆太 氏

Case60 大垣市民病院 院内に根づいたローコード開発プラットフォームFileMakerが電子カルテを補完して医療DXをサポート

左から森氏,森田氏,山岸氏,医事課課長(特命担当)の高田雅章氏

左から森氏,森田氏,山岸氏,医事課課長(特命担当)の高田雅章氏

大垣市民病院(817床)は,岐阜県の大垣市,海津市を含む西濃地域の中核医療機関として,救急医療,高度がん診療,周産期医療,感染症,災害医療などを提供している。同院では,電子カルテが稼働する以前から,Claris FileMakerプラットフォームによる診療支援システムが各診療科で開発されてきた。2007年の電子カルテ導入以後も,基幹システムがカバーしきれない業務や運用を支援するため,FileMakerによる開発が続けられている。今回,FileMakerの活用について,循環器内科医長の森田康弘氏,薬剤部科長補佐の森 卓之氏,臨床工学技術科医療工学センターの山岸隆太氏に構築の経緯と現在の活用の状況について話を聞いた。

内製開発からGOODNETに移行してデータ活用

同院でのFileMakerの利用は,1990年代半ばに循環器内科での冠動脈造影や経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の実施記録を入力するカテーテル台帳(カテ台帳)を構築したのが始まりだった。森田氏は内製化の経緯について,「当時は紙カルテの時代で,紙のカテ台帳をFileMakerでデジタル化しました。運用は紙中心でしたが,入力したデータを基に報告書を作成し,印刷して紙カルテに貼ったり,ネットワークで共有するなど,電子化のメリットを取り入れていました」と振り返る。2007年には,電子カルテシステム〔HAPPY ACTIS:東芝住電医療情報システムズ(当時,現在はキヤノンメディカルシステムズ)社製〕が稼働,2011年には動画像ネットワークシステムとして「GOODNET」(ニプロ社製)が導入された。内製開発のカテ台帳は,2018年のGOODNET更新時にFileMakerで構築されたレポートシステム「G-Record」へ移行した。G-RecordはFileMakerプラットフォームで開発され,循環器動画像ネットワークとともに多くの医療機関で採用されている。同院では,カテ台帳のデータだけでなくレイアウトなども含めてG-Recordに引き継いで運用されている。現在は,カテ台帳のほか,心エコー,小児循環器,心筋梗塞,ペースメーカーなど6つのファイルを構築・運用している。電子カルテとはDWHを介して連携し,レポートはPDFとしてGOODNETのサーバに保存され,電子カルテからは動画像とともに参照できる。
森田氏は,「FileMakerに入力されたデータは,徹底的に活用するのが基本的な考え方です。FileMaker Serverでホストされており,各FileMakerファイルに保存されたデータは相互に利用できます。手技の入力では使用材料をチェックボックスで選択し,データとして活用できる状態で保存,所見はフリーテキストではなく,入力データから計算式で文章を自動生成し,それを電子カルテに貼り付けられるようにしています」と説明する。また,学会や研究発表用のデータについても,表計算ソフトで作成するのではなく,FileMakerプラットフォームのGOODNETを使うようにして「業務と発表の一体化」を実現している。森田氏は,「学会発表のために入力や集計をするのではなく,業務の中で記録すれば研究用のデータが得られるようになっています。これによって研究発表用のデータ作成の時間が大幅に削減されて働き方改革にもつながっています」と述べる。

ME機器管理やCIED管理など臨床工学部門の業務を支援

カテ室業務で循環器内科との関係が深い臨床工学技術科(ME)は,循環器内科と同様に1995年頃から医療材料の使用状況や管理のシステムをFileMakerで構築してきた。山岸氏はME部門でのFileMakerの利用について,「私が入職した2011年にはすでに多くのFileMakerのシステムが稼働しており,人工心肺や透析業務記録,重症系経過表など,電子カルテのない時代からデジタル化して運用していました」と説明する。
FileMakerで管理されているものとして人工呼吸器の配置管理がある。人工呼吸器は,ICUや救急部門など院内各部署にストック場所を設けて,そこから貸し出されているが,配置場所の機器リストや貸し出し先,メンテナンス状況などをFileMakerで管理している。また,ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)など植込み型心臓電気デバイス(CIED)の管理も,FileMakerで患者情報,デバイスの状態(電池残量や閾値情報など)のほか,ペースメーカー外来の予定,医師のカンファレンス記録などを参照可能になっている。カンファレンス記録は,医師が電子カルテに記載した情報がDWH経由で取り込まれる。山岸氏は,「臨床工学技士は,FileMakerのCIEDのデータベースだけで患者情報を一元的に把握できます」と説明する。
CIEDの遠隔モニタリングでは,緊急送信や不整脈などのイベントの情報を,各デバイスメーカーのサイトで確認して入力。そのほか,ペースメーカー外来の受付表の発行システムもFileMakerで構築している。「3名のスタッフで運用していますが,電子カルテに載せるほどでもない,スタッフが表計算ソフトを使って処理していた業務を,要望や必要に応じてFileMakerで構築して効率化しています」と山岸氏は説明する。

プレアボイドや薬剤師外来など独自業務もFileMakerを活用

薬剤部では2014年からFileMakerを導入。森氏を中心に薬棚のインデックス作成,抗がん剤や化学療法の処方チェックシステム,残置薬管理,薬剤監査用のバーコード作成などを構築してきた。その一つが「プレアボイド」の管理システムである。プレアボイドとは,薬による有害事象を防止・回避するため,薬剤師が薬学的な視点で治療に関与する取り組みで,その事例や医師への問い合わせの内容などを病院として記録して,日本病院薬剤師会(日病薬)へ報告することが求められている。薬剤部では,プレアボイドの実績をFileMakerで入力し電子カルテに転記する仕組みを構築した。森氏は,「プレアボイド報告は重要ですが,報告に該当する事例の抽出と報告書の入力・管理に手間と時間がかかります。電子カルテ端末内のFileMakerでプレアボイド報告の管理を行うことで,対象事例の抽出や報告書の作成,内容の検証にかかる負担が大幅に軽減され,プレアボイド報告数の増加や質の向上につながっています。また,部内での報告事例の共有も容易になりました」と説明する。
また,過去の薬剤の使用量から適正在庫量を計算して,在庫の適正化を図る「薬品在庫管理サポート」システムをFileMakerで構築・運用している。電子カルテのDWHの自動出力機能を利用してデータを取得し,過去の最大処方量に係数をかけてマージンを取った値を算出。予約情報などと合わせて患者数を把握して,薬剤の過剰在庫を防ぐものだ。森氏は,「電子カルテのデータを活用することで,リアルタイムに在庫の見直しが行え,在庫ロス削減につながっています」と述べる。さらに,緩和領域の薬剤師外来のスケジュール管理・業務記録作成のシステムもFileMakerで構築・運用されている。森氏は,「薬剤師外来は限られた人員で行っており,担当薬剤師の適切な配置のため,該当患者さんの来院予定を可視化することが最初の目的でした。紙で管理していた予約情報だけでなく,申し送りや記録作成もシステム化するなど,要望に合わせて機能拡張していきました。薬剤師外来の患者数はそれほど多くなく,関わるスタッフも限られるニッチな業務で,電子カルテの機能にするほどではないですが,FileMakerでシステム化することで記録を残すことも含めて業務の負担軽減につながっています」と話す。

■Claris FileMakerプラットフォームで構築されたシステム

循環器内科:GOODNETカテーテル台帳

循環器内科:GOODNETカテーテル台帳

 

臨床工学技術科:人工呼吸器配置管理

臨床工学技術科:人工呼吸器配置管理

 

薬剤部:薬剤師外来スケジュール管理

薬剤部:薬剤師外来スケジュール管理

 

電子カルテ更新でのFileMakerのプロトタイプの役割

同院では2026年春に電子カルテの更新を予定しているが,FileMakerのローコード開発の柔軟さが,次期電子カルテのシステム設計にも生かされているという。森田氏は,「これまで外来予定表など,電子カルテで対応できなかった業務をFileMakerで補ってきました。電子カルテのベンダーからは,FileMakerで作られた画面や機能は再現可能と聞いています。電子カルテ更新に向けて院内の要望を精査して必要な機能をFileMakerでプロトタイプとして作成して,電子カルテ側に実装可能かを検討していく予定です。われわれが電子カルテを構築することはできませんが,FileMakerならば欲しい機能や画面を提示することはできるので,より具体的な形でベンダー側とすり合わせができるのではと期待しています」と述べる。
電子カルテ導入以前から,紙の利便性をデジタルで再現するツールとして活用されてきたFileMaker。病院経営の効率化を実現する医療DXの原点ともいえるこの取り組みは,システムが変わってもなお進化を続けていくことだろう。

 

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