FileMakerによるユーザーメード医療ITシステムの取り組み

ITvision No.56

放射線技術科副科長 松井 賢 氏

Case62 島根県立中央病院 安全で安心な血管内治療のため「CardioAgent Pro」の線量分布図で最大入射皮膚線量を可視化

左から松井 氏,放射線技術科・石倉諒一 氏

左から松井 氏,放射線技術科・石倉諒一 氏

島根県出雲市の島根県立中央病院(554床,小阪真二病院長)は,戦後に発足し,1999年に現在地に新築移転。大規模病院として日本で最初に電子カルテシステムが稼働した病院としても知られる。島根県唯一の県立総合病院であり,救急医療,高度先進医療,地域がん診療連携拠点病院など地域の急性期医療を担う中核病院として機能している。同院では,キヤノンメディカルシステムズ(株)の動画ネットワークである「CardioAgent Pro」の線量管理レポート〔開発は(株)ソフトクオリティ〕を用いて,血管撮影装置の線量管理を行っている。線量管理レポートでは,総入射線量に加え,線量分布図(ヒートマップ)として患者の被ばく位置や最大入射皮膚線量(Maximum  Entrance Skin Dose:Max ESD)を可視化・管理できる。2020年の医療法施行規則の一部改正による線量管理の義務化,検査における放射線量の目安を示す「日本の診断参考レベル(Japan DRLs)」に基づいた管理の下,循環器領域におけるCardioAgent Proの運用と,線量管理の現状について,放射線技術科副科長の松井 賢氏に取材した。

ハイブリッドORやIVR-CTなど4台の血管撮影装置が稼働

島根県立中央病院の放射線技術科の診療放射線技師は31名。検査を担当する放射線臨床部はモダリティごとに6部門に分けられている。血管撮影部門には10名のスタッフが在籍し,そのうち4名がローテーションで業務を担当している。血管撮影装置はすべてバイプレーンタイプで心血管用2台,ハイブリッド手術室(いずれもフィリップス社製),CTと組み合わせたIVR-CT(シーメンス社製)が稼働する。そのほか,CT3台,MRI2台などが稼働する。同院の3階フロアには,ICU,HCU,救急病棟など緊急対応の部門が集約されており,心血管用撮影装置,ハイブリッドORも3階に,IVR-CTは1階の放射線診療エリア内に設置されている。血管撮影装置の検査件数は年間約2300件に上る。
同院は,県内唯一の高度救命救急センターとして24時間365日の救急対応を行い,さらにドクターヘリの基地局となっていることから,血管撮影装置についても緊急対応の割合が多い。松井氏は,「経皮的冠動脈インターベンション(PCI)などの心臓だけでなく,外傷を含めて全身のIVRに対応しています。当直の際の緊急対応も多く,働き方改革が求められるなかでスタッフのやりくりも悩ましいところです」と述べる。

血管撮影装置の線量管理にCardioAgent Proを導入

同院では,2015年に動画ネットワークシステムとしてCardioAgent Proを導入した。その決め手となったのが,CardioAgent Proのレポートシステムに搭載されている線量管理レポートだ。血管撮影装置の線量管理の取り組みについて松井氏は,「PCIでは,慢性完全閉塞病変(CTO)など難しい手技が増え,透視時間が延長したり撮影回数が増えるなど,患者さんへの被ばくによる影響が気になっていました。特に当院ではPCIの件数が多く,血管撮影装置の線量管理の必要性を感じていました」と述べる。
CardioAgent Proの線量管理レポートは,総入射線量の管理だけでなく,空間的な線量を視覚化する「線量分布図」を作成できるのが特長だ。松井氏は選定の理由について,「キヤノンメディカルシステムズの血管撮影装置に,術中の入射皮膚線量の計算値を換算しリアルタイムで患者モデル上にカラーマッピング表示する技術(DoseRite DTS)があり,患者の被ばく線量を可視化する方法として注目していました。術後に同様の表示がCardioAgent Proで可能だと聞き,線量分布図を用いた線量管理の可能性に期待して導入しました」と述べる。

カテーテル治療の線量管理にFileMakerによる線量分布図レポートを活用

カテーテル治療の線量管理にFileMakerによる線量分布図レポートを活用

 

入射皮膚線量を線量分布図としてヒートマップで可視化

CardioAgent Proのレポートシステムは,ローコード開発プラットフォーム Claris FileMakerを基盤にソフトクオリティが開発した柔軟性の高いシステムで,CAGやPCIのカテレポート,植込みデバイス患者台帳など循環器関連の各種レポートや記録管理のアプリケーションが用意されている。線量管理レポートでは,透視時間や総入射線量といった通常の線量データに加えて,線量分布図として各ショットの撮影角度,寝台の位置および面積線量と入射線量から被ばく領域と入射線量を算出して,人体のシェーマ上に皮膚線量をヒートマップとして表示する(図1)。線量管理レポートでは,装置から送信されたRDSR(Radiation Dose Structured Report)のデータを基に,FileMakerでパラメータを計算して線量分布図マトリックスを作成しカラー表示する。RDSRのデータを用いるため,血管撮影装置のメーカーを問わず一括して管理することが可能だ。作成した線量分布図は,画像として電子カルテに貼り付け,主治医や看護師が参照することができる。また,単回の治療の線量だけでなく,検査・治療を繰り返した場合には,線量分布図の履歴の参照や線量を加算して表示する機能を搭載している。線量分布図のメリットについて松井氏は,「数値でなくヒートマップで表示することで,どの部分の線量が多いのか視覚的にわかりやすく把握でき,カラー表示のインパクトから医師や看護師の注意を引きやすく,治療後の外来や病棟でのフォローアップに役立っています」と説明する。

線量管理の義務化に合わせ対象を頭部,下肢へと拡大

2020年4月に改正医療法施行規則が施行され,CT,血管撮影装置などの線量管理・記録などを含む医療放射線の安全管理体制の確保が義務化された。同院では,それに合わせて血管撮影装置の線量管理について,2023年に頭部(図2),下肢(図3)に対象を拡大した。松井氏は,「医療法施行規則の改正でより広い領域の管理が求められたことから,動画サーバの更新に合わせて対象領域を拡大しました。特に頭部のIVRでは,細い血管に対する複雑な手技が多く,手技時間が3〜4時間,長いと5時間以上に及ぶこともあり,線量管理の必要性を感じていました。さらに脳外科の治療では,最初に決めたCアームのワーキングアングルを動かさずに治療を行うことが多く,同じ場所に照射されることになります。それだけに,術中の被ばく線量の把握が必要だと考えていました」と述べる。頭部については,胸部と皮膚の形状が異なることから新たに線量分布図作成の検証を行ったほか,Cアームを回転させた撮影方法(回転DSA)にも対応した。
同院では,改正医療法施行規則の施行に合わせて血管撮影装置の線量管理に関して,「診療用放射線の安全利用のための指針」を作成した。指針では,手技中に線量が2Gyを超えた場合には,「被ばく線量と部位を診療録などに記載すると共に,一過性の発赤の可能性を説明する」と定めている。また,5Gy以上では,「血管撮影(IVR)における医療被ばく報告書」を作成して,放射線管理委員会委員長に提出。対象患者は,6か月間経過観察を行うこととなっている。松井氏は,「手技中の照射線量が2Gyを超えた場合には,IVR医に伝えて可能であれば照射方向の変更などをお願いしています。5Gyを超えた場合には,委員会へ報告することで安全性と透明性を担保しました。指標自体はもともとあったものですが,従来は口頭での説明や報告だけだったのを,指針作成を機に記録を残したり,報告書を作成するように運用を見直しました」と説明する。さらに,術後のフォローアップについては,「皮膚障害(初期紅斑)は24時間以内に現れることが多いので,電子カルテを用いて病棟でケアする看護師や主治医にも情報を共有し,照射部位の観察をしています。線量分布図があることで,おおよそどの辺りに症状が出そうか,視覚的に把握することができます」(松井氏)と線量管理レポートによる運用について説明する。

■「CardioAgent Pro」線量管理レポートの線量分布図(ヒートマップ)

図1 PCI

図1 PCI

 

図2 NEURO IVR

図2 NEURO IVR

 

図3 下肢血管内治療(EVT)

図3 下肢血管内治療(EVT)

 

FileMakerベースのシステム開発の柔軟性を線量管理に活用

CardioAgent Proでは,循環器内科,脳神経外科のレポートの作成を行っている。また,CVITなどの各種レジストリー登録のためのデータとしても活用されている。松井氏はFileMakerをベースとしたレポートシステムの運用について,「診療科の医師によっても必要とされる項目が変わることがあり,そういった時の変更に迅速に対応していただけるのは助かっています」と述べる。
血管撮影装置以外の線量データは,電子カルテの放射線情報システムの照射録で保存されている。松井氏は,「電子カルテでは保存したデータの活用に手間がかかり,線量の検証が難しいのが課題です」と言う。血管撮影装置の線量管理の今後について松井氏は,「最新版のDRLではIVR領域の指標がより細分化されており,最新のDRLと当院の線量を比較して最適化を図っていくことが求められます。そういった検討ができるようにデータベースを活用していきたいですね」と期待する。
CardioAgent Proの線量管理レポートは,医療の質と安全に直結する線量管理データを効果的に活用できる基盤として,高い実用性を示している。医療現場におけるデータ活用と安全管理の高度化において,ローコード開発基盤の柔軟性が重要な役割を果たしていると言えるだろう。

 

Claris 法人営業窓口
Email:japan-sales@claris.com
医療分野でのお客様事例 : https://content.claris.com/itv-medical
03-4345-3333(平日 10:00〜17:30)

 

島根県立中央病院

島根県立中央病院
島根県出雲市姫原4丁目1-1
TEL 0853-22-5111
https://www.spch.izumo.shimane.jp

 

●そのほかの施設取材報告はこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP