GE Healthcare Japan Edison Seminar 2020

2020年12月号

GE Healthcare Japan Edison Seminar 2020

【基調講演 AI 1】情報化が拓く医療の未来

黒田 知宏(京都大学大学院医学研究科 医療情報学 教授)

黒田 知宏(京都大学大学院医学研究科 医療情報学 教授)

本講演では,京都大学医学部附属病院におけるICTを活用した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染防止対策を紹介する。さらに,情報化で変わる医療の未来像を展望する。

ICTを活用した感染防止対策

当院では,ICTを活用したCOVID-19の感染防止対策として,スタッフの感染防止を目的としたカンファレンスのオンライン化,患者の感染を避けるための電話等再診(オンライン診療を含む),感染者の診療を安全に行うための感染病棟・ICUのコミュニケーション支援を行ってきた。
ICUのコミュニケーション支援の例としては,陰圧室内外に赤外線方式のワイヤレススピーカーを設置し音声を伝わりやすくして,コミュニケーションの円滑化を図った。また,タブレットを使用して,患者と遠隔地にいる家族が会話できるオンライン面会も行えるようにした。さらに,医療機器の設定・調整の遠隔操作システムを開発した。

COVID-19と医療とICT

当院では,これらの取り組みで,スタッフや患者が接触しなくてもコミュニケーションや連携がとれる“Keep connected without contact”な診療を行っている。
COVID-19に対して,私たちは,ICTを活用した遠隔医療や在宅観察,感染対応病院によって接触を避けつつ診療を行ってきた。これは「ICTがある前提の社会設計」をしてきたと言える。
一方で,感染拡大を抑えるため,“Try anything plausible”とも言うべき,従来困難だった治療薬の特例承認や観察研究,リアルワールドデータの収集・分析,ゲノム解析が行われるなど,リスクをとる社会的コンセンサスが得られるようになっている。COVID-19のパンデミックを経験したことで,「前提なしの社会設計」で社会が動く時代になったと言える。

情報化時代の医療の姿

COVID-19のパンデミックを経験した私たちが,これからの情報化時代の医療の姿を考える上で重要となる技術が「IoT」と「クラウド」である。多様なIoTデバイスがネットワークにつながり,そのデータがクラウド上に集積されて活用される。これにより,以下に述べる2つの「世界」が切り拓かれる。
1つは,「ソーシャルホスピタル」である。COVID-19の感染拡大でオンライン診療が普及したように,患者が来院しなくても健康や医療に関するデータが各種のセンサから病院に送信され,そのデータを基に診療が行われる世界が今後も続くと考えられる。病院の機能が社会に埋め込まれ,日常生活の中に医療サービスがある世界が到来するだろう。
もう1つは,プレシジョン・メディシンを推し進めた「Preemptive Medicine(先制医療)」である。先制医療は,疾患を予測した上で予防介入することにより発症を防ぐ。これを可能にするのは,検査データやIoTデバイスから収集したビッグデータを用いた人工知能(AI)による分析である。この先制医療が提供される世界も,間もなくやってくると考えられる。

先制医療におけるAI活用

先制医療では,AIが主役となる。その具体的なイメージが,私たちの一人ひとりの健康を見守ってくれる「守護霊エージェント」である(図1)。IoTデバイスなどから得られたデータに基づき平常値からの変化や連続的な悪化をとらえて,行動変容を促し,場合によっては受診を勧奨する。その実現には,EHRやPHRといったリアルワールドデータを集積するビッグデータサイトの構築が求められる。
そして,ビッグデータサイトを支えるのが,「Social Hospital Platform」とも言うべき次世代医療情報基盤である。この基盤に集積されたデータは,次世代医療基盤法の認定匿名加工医療情報作成事業者が加工した上で守護霊エージェントに渡される。

図1 健康を見守る守護霊エージェント

図1 健康を見守る守護霊エージェント

 

まとめ

次世代医療基盤法は,医療データを収集して企業や研究者,行政が利用するための法律である。本法律によって,今後,集積されたデータを活用したサービスが生まれ,そのサービスから得られたデータを次世代医療情報基盤に戻すというループができることで,情報化時代の医療は切り拓かれていくと考える。私たちはその時代の入り口に立っているのである。

 

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