第2回 医療現場のワークフロー変革セミナー 2019

2020年1月号

人工知能 セッション1

インテルのAIへの取り組み

清水 由香(インテル株式会社インダストリー事業本部)

清水 由香

本講演では,インテルの人工知能(AI)への取り組みについて,GEとの協業なども含めて解説する。

ヘルスケア分野の現状

ヘルスケア分野は,医療費の高騰や生活習慣病の増加,高齢化の進展,医療資源の不足など数々の課題を抱えている。一方で,従来の画一的で非効率だった医療から,データに基づく個人向けに最適化された個別化医療へのシフトが進んでいる。個別化医療により,効率的な支出とアウトカムの改善が期待される。

ヘルスケア分野におけるディープラーニング

このような状況の中,AI活用への関心が高まっている。AIの有用性としては,データの効率的かつ高精度の分析や医療従事者の業務支援,低コスト・短時間での創薬などが挙げられる。
現在のAIは,ヒトの特性を模したインテリジェントシステムであるが,その中でも分析マシンラーニングと,その一つの手法であるディープラーニングが注目されている。また,手法としては,教師あり学習と教師なし学習,強化学習などがある。
ヘルスケア分野でもマシンラーニングやディープラーニングを活用した事例が出てきている(図1)。米国カリフォルニア州のSharp HealthCareでは,1時間以内にrapid response team(RRT)の対応が必要となるイベント発生の確率を,80%の精度で予測できるようになった。これにより,RRTを適切に配置して迅速な対応が可能となった。また,米国ニューヨーク州のMontefiore Medical Centerは,肺の換気のデータを基に,70%の精度で48時間前に患者の呼吸不全を予測可能にした。この技術を基にICUのリアルタイムストリーミングデータを用いたシステムを構築している。さらに,米国ペンシルバニア州のPenn Medicineでは,約1200症例のデータから敗血症ショックの発症を予測するプログラムを開発。発症30時間前に85%の確率で特定できるようになった。

図1 ディープラーニングによる予測分析

図1 ディープラーニングによる予測分析

 

ディープラーニングは個別化医療にも貢献する(図2)。例えば,米国のある病院グループでは,遺伝的データを用いたディープラーニングにより心血管疾患予測プログラムを開発。85%の精度で予測できるほか,従来の手法では診断が困難だった症例でも診断が可能になった。また,中国では,ディープラーニングを用いて画像診断支援システムの精度を75%から85%と向上させ,70%の作業量を非専門スタッフへシフトでき,その分,医療者による患者への対応を充実させた。このシステムは3施設に導入されており,約5000名の患者が恩恵を受けている。ほかにも,新薬の開発にディープラーニングが威力を発揮している。マルチスケールを組み込んだニューラルネットワークの新たなアルゴリズムによって短時間での開発が可能となり,創薬を加速させている。
しかし,ヘルスケア分野でのAI活用は進んでいるものの,十分にデータを活用できているとは言えない。このような現状を踏まえ,インテルは,ヘルスケア分野でのAI開発に取り組んでいく。AIは人に置き換わるものではなく,あくまでも医療者を支えるツールであり,医療者が使い,共存していくものである。そして,インテルは,患者の安全という観点からも,AI活用は適切な規制の下で行われるべきだと考える。

図2 個別化医療に向けたディープラーニングの活用

図2 個別化医療に向けたディープラーニングの活用

 

GEとの協業によるAI開発

医用画像においてもAIの活用が広がっている。インテルでは,米国においてGEと協業して,同社の回診用X線撮影装置に搭載するAIアプリケーションの開発を行った。このアプリケーションはインテルのAI技術を用いており,胸部X線撮影後わずか数秒で,非常に高い感度で気胸を自動検出することが可能である。これによって,検査および読影業務の効率化と時間短縮に貢献する。米国では,RSNA 2018で技術展示が行われた。

まとめ

インテルのAIに対するビジョンはシンプルである。ユーザーが用意したデータを基に,インテルやわれわれのパートナーが提供するソリューションやツール,ハードウエアでAI技術の実現をめざす。インテルは,これからも,将来に向けてAIの研究開発や,投資・施策を推進する。
インテルでは今後も,データの積極的な利活用による個別化医療を実現するために,AIの研究開発などを医療従事者や企業とともに取り組んでいく。

 

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