技術解説(シーメンスヘルスケア)

2012年11月号

CT最新技術紹介

SOMATOM CTの被ばく低減への取り組み

前田路代(イメージング&セラピー事業本部CTビジネスマネージメント部)

CT装置の技術革新においては,スライス戦争が過去のものとなり,被ばく低減に関するトピックがメインテーマとなっている。シーメンスでは,装置開発の最優先事項として当初から「ALARA原則に則った被ばく低減」を念頭に置いている。本稿では,シーメンスの複合的な独自の被ばく低減機構「CARE」および次世代型検出器「Stellar Detector」について概説する

■被ばく低減機構CAREの特長

CARE(Combined Applications to Reduce Exposure)とは,最大限の被ばく低減効果を得ることを目的として,SOMATOM CTの全ラインナップに採用されている被ばく低減技術の総称であり,ハードウエア,ソフトウエアアプリケーション,エデュケーションの3要素から成る。
CAREの代表的なハードウエア技術としては,X線管や検出器に関する工夫が挙げられる。検出器に採用されている素子は,自社開発の高感度素子「UFC(Ultra Fast Ceramic)」である。従来の検出器素子と比較して,2.5倍の発光特性,250倍の残光特性を有しているため*1,微弱なフォトンを確実に検出し,高速回転時においても収集データの重複がないなど,空間分解能向上にも貢献している。
そして,X線管には非対称可変コリメータである「Adaptive Dose Shield」(図1)が搭載され,撮影速度や方向に応じて作動することで,スパイラルスキャン(螺旋状撮影)時の撮影範囲の前後に生じるX線の無効照射をカットしている。これは,CTの多列化に伴って増大するスパイラルスキャン時の無効被ばくへの対策となっている1)

図1 Adaptive Dose Shieldによる無効被ばくの低減

図1 Adaptive Dose Shieldによる無効被ばくの低減

 

ソフトウエアアプリケーションも,CAREにはさまざまな技術が搭載されている。代表的な技術としては,一般的に広く普及しているauto exposure control(AEC)機構「CARE Dose4D」がある。位置決め撮影で得られた被検者の体型を認識し,かつ撮影中にもリアルタイムに検出器が受光するフォトン量を計測しながら,X線の出力を自動調整する機構により,最大68%の被ばく低減が可能となる2)。さらに,新しい機能として,柔軟な管電圧設定を支援する機能である「CARE kV」(図2)がリリースされている。CARE kVは,位置決め撮影で認識した被検者の体型と事前に定義したプロトコールの検査内容を参照し,装置が推奨する管電圧を示す機能である。例えば,“体格が小さい”や“造影剤を使用する”などの条件がそろった場合には,装置が低い管電圧設定を推奨すると同時に,管電圧の変更に対しても同等のCNR(contrast to noise ratio)画像を維持できるよう,mAs値が自動的に計算される。これにより,低管電圧設定に伴う煩雑な作業を簡素化することが可能な機能である。加えて,業界で唯一となる70kVの管電圧設定も可能となっており,特に小児撮影においては,さらなる被ばく低減が期待されている3)

図2 CARE kVの概念図

図2 CARE kVの概念図

 

被ばく低減のアプリケーションとして,近年話題となっているのが,逐次近似画像再構成法である。シーメンスの「SAFIRE(Sinogram Affirmed Iterative Reconstruction)」は,raw dataを用いたモデルベースの逐次近似画像再構成法であり,raw dataとimage dataの2つの補正ループを有している。raw dataドメインではアーチファクトの低減効果,image dataドメインではノイズの低減効果がある。それぞれの反復計算が独立して行われることで,アーチファクトの低減とノイズの低減が,それぞれにとって最適なレベルまで遂行される。従来のfiltered back projection(FBP)法と同様に,複数の再構成アルゴリズムに加え,ノイズ低減レベルに応じた5段階の強度(strength)が選択でき,臨床目的に応じて簡便に調整が行える。さらに,秒間20画像*2という高速の画像再構成速度により,すでに日常臨床で広く活用されている。
CAREでは,ハードウエア技術による被ばく低減機構が自動的に作用することに加え,検査内容に応じて柔軟に設定ができるソフトウエアによって,より効果的な被ばく低減が可能となる。そして,被ばく低減機構を正しく理解し,効果的に臨床応用していただくことを目的に,アプリケーションスタッフによるエデュケーションも,コンセプトの1つとしてサポートしている。

■次世代型検出器 Stellar Detectorの特長

シーメンスは,さらなる被ばく低減を実現するために,次世代型検出器Stellar Detectorを2011年のRSNA(北米放射線学会)にて発表し,国内においてもリリースを開始している。Stellar Detectorは,検出器の構造を根本的に見直すことで,検出器内部回路に発生する電気ノイズやクロストークを最小化し,被ばく低減と画質向上の両立を実現する最新の技術である。
従来の検出器とStellar Detectorの模式図を図3に示す。X線検出器を構成するコンポーネントとして,X線を光信号に変換するシンチレータ,光信号を電気信号に変換するフォトダイオード,およびその電気信号をデジタル化するアナログデジタル変換器(ADC)がある。従来の技術では,この一連の経路におけるアナログ回路の存在によって,信号に電気ノイズが混入し,真の信号が汚染される原因となっていた。この電気ノイズは,入射するX線量に依存せず,ある一定量存在することから,特に低線量撮影時には,支配的要因となり,signal to noise ratio(SNR)の低下を助長し,アーチファクトの発生要因となっていた。しかし,Stellar Detectorでは,フォトダイオードとADCを1つの集積回路に集約し,実質的にアナログ伝送距離を排除している。結果として,回路上の電気ノイズを最小化できるため,低線量撮影時においてSNRの改善が可能であり,さらに回路上のクロストークも最小化することから空間分解能の向上を実現している。
Stellar Detectorは,CAREに代表される被ばく低減技術と併用することで,さらなる低線量撮影が実現可能である。また,積極的な低管電圧撮影も選択肢となりうるため,CNRの向上や,dual energyイメージングにおける解析精度向上も期待できる。被ばく低減と画質向上を,トレードオフなしに実現するStellar Detectorは,シーメンスのフラッグシップモデルである「SOMATOM Definition Flash」と新製品の「SOMATOM Definition Edge」へ搭載されている。

図3 従来型検出器とStellar Detectorの違い

図3 従来型検出器とStellar Detectorの違い

 

冒頭に述べたように,シーメンスでは,装置開発の最優先事項として「ALARA原則に則った被ばく低減」を念頭に置いている。今後とも被ばく低減と臨床的有用性を牽引していくことで,さらに優しいCT検査を提供できると確信している。

*1 SIEMENS AG調べ。
*2 装置仕様に依存。

●参考文献
1) Deak, P.D., Lagner, O., Lell, M., et al. : Effects of adaptive section collimation on patient radiation dose in multisection spiral CT. Radiology, 252. 140~147, 2009.
2) Mulkens, T.H., et al. : Comparison of low-dose with standard-dose multidetector CT in cervical spine trauma. Radiology, 237,
213~223, 2005.
3) Winklehner, A., et al. : Automated attenuation-based tube potentialn selection for thoracoabdominal computed tomography angiography ; Improved dose effectiveness. Invest. Radiol., 2011.

 

【問い合わせ先】ヘルスケアマーケティングコミュニケーショングループ TEL 0120-041-387

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