技術解説(シーメンスヘルスケア)
2026年4月号
腹部領域におけるCTの最新技術
Real-worldデータに基づく腹部領域フォトンカウンティングCTの技術的優位性
田中 秀和[シーメンスヘルスケア(株)ダイアグノスティックイメージング事業本部CT事業部]
腹部領域のCT検査は,肝胆膵疾患,消化管疾患,泌尿器疾患,腫瘍診断,救急医療まで,幅広い診療領域において不可欠な画像診断モダリティである。特に肝細胞がん(HCC)や転移性肝腫瘍,膵がんは,診断と治療方針決定に直結する疾患であり,造影CTにおける病変検出能と描出精度の向上が強く求められている。一方,腹部領域は,呼吸性移動や体格差の影響を受けやすく,造影CTでは撮影タイミング,造影剤投与量,被ばく線量,画質の両立が常に課題となる。近年,高齢患者や腎機能低下症例の増加も背景となり,造影剤量の適正化や低侵襲検査への要求はますます高まっている。
こうした背景の下,次世代CT技術として注目されているのがフォトンカウンティングCT(photon-counting CT:PCCT)である。PCCTは,従来のエネルギー積分型検出器(energy integrating detector:EID)とは異なる検出原理を採用することで,高空間分解能,スペクトラル解析,定量性,さらには被ばく低減を同時に実現しうる技術である。近年では,研究段階にとどまらず,実臨床(real-world)における運用経験や臨床データが蓄積されつつあり,複数領域での臨床的有用性が報告されている。van der Bieらの総説では,PCCTに関する臨床報告が急速に増加しており,造影コントラスト,空間分解能,スペクトラル定量性といった特長が実臨床で評価されていることが整理されている1)。
本稿では,肝臓および膵臓領域に焦点を当て,real-worldデータを踏まえたPCCTの技術的優位性と臨床応用のトピックを概説する。なお,本稿でいうreal-worldデータとは,前向き臨床試験に限定されない実臨床環境での運用結果を指す。
■PCCTの技術的背景
従来のEID方式では,X線をシンチレータで可視光へ変換し,フォトダイオードで電気信号として検出する。この方式では,光子のエネルギー情報は保持されず,信号は加算的に処理されるため,低エネルギー成分の情報がノイズに埋もれやすいという制約があった。
一方,PCCTでは,CdTe(テルル化カドミウム)などの半導体を用いた直接変換型検出器を採用し,入射したX線光子を直接電気信号として計測する。さらに,光子単位でのエネルギー分類が可能であり,スペクトラル情報を標準的に取得できる点が大きな特長である。この検出方式により,従来装置では困難であった高精細画像と物質弁別に基づく定量解析を,日常診療へ適用できる可能性が広がっている。
■腹部領域におけるPCCTの主要技術トピック
1.高空間分解能による微細構造描出
PCCTは,直接変換型検出器により光学的クロストークを抑制できるため,信号の広がりが少なく高い空間分解能を実現する。肝臓領域では,腫瘍境界や微小濃染,胆管壁の変化,末梢血管の描出が診断上重要である。また,膵臓領域では,膵管拡張や膵周囲浸潤,膵がんの局所進展評価など,微細構造の視認性向上が求められる。PCCTによる高精細画像は,こうした腹部診断における課題解決に寄与する。
2.スペクトラルイメージングの標準化と定量診断
PCCTでは,すべてのスキャンでスペクトラルデータが取得されるため,仮想単色X線画像(virtual monoenergetic image:VMI),ヨードマップ,仮想単純画像(virtual non-contrast:VNC)などを標準的に生成できる。従来のスペクトラルCTは一部装置や特定モードに限定される場合が多かったが,PCCTでは日常診療において,常時スペクトラル情報を利用できる点が重要である。
肝臓領域では,腫瘍性病変の造影効果をヨードマップで可視化,定量化することにより,病変性状評価や治療効果判定への応用が期待される(図1)。膵臓領域においても,腫瘍血流や虚血性変化の評価にスペクトラル情報が有用となりうる。
図1 肝病変症例:ヨードマップによる造影分布評価
(画像ご提供:米国・Duke University様)
3.低keV VMIによる造影コントラスト増強
肝胆膵領域の造影CTでは,腫瘍と実質の濃度差が小さい低コントラスト病変の描出が診断上の課題となる。PCCTでは,VMIを用いて低エネルギー側で再構成することでヨード造影効果を増強し,病変と正常実質のコントラストを高めることが可能である。real-worldデータを用いた検討として,Layerらは,腹部領域においてPCCTを用いることで,画像ノイズ特性および造影コントラストを維持しつつ,造影剤量を低減しうる可能性を報告している2)。この技術的特長は,肝細胞がんの動脈相濃染や転移性肝腫瘍の検出において有用であり,膵がんのように造影効果が乏しい腫瘍においても視認性向上が期待される(図2)。
図2 膵がん症例:低keV VMIを用いた病変描出
(画像ご提供:米国・Duke University様)
4.造影剤低減と診断能の両立
肝胆膵領域では,造影剤を用いた多時相撮影が行われることが多い。高齢患者や腎機能低下症例の増加を踏まえると,造影剤投与量の最適化は重要な課題である。PCCTでは低エネルギー光子を効率的に利用できるため,低keV VMIを活用することで,造影効果を維持しながら造影剤を減量できる可能性がある。造影剤関連腎障害(CI-AKI)リスク低減だけでなく,検査安全性の向上や医療資源最適化の観点からも注目される。
5.VNCによる検査効率向上と被ばく低減
腹部領域では,単純相と造影相を組み合わせた撮影が一般的であるが,PCCTのスペクトラル情報を用いることでVNC画像を生成できる。VNCを活用することで,単純相撮影を省略できる可能性があり,被ばく低減と検査時間短縮につながる。van der Bieらの総説においても,VNCを含むスペクトラル情報の臨床活用は,PCCTの重要な特長として整理されており,real-world運用における検査効率改善の観点からも有用性が示唆されている1)。
6.膵臓領域におけるreal-worldエビデンス
膵臓領域では,膵がんなど,低コントラスト病変の描出が診断上の課題となる。PCCTの高分解能および低keVのVMIによる造影コントラスト増強は,膵実質と腫瘍の濃度差が小さい症例において有用な技術的特長である(図2)。また,Daneらは,実臨床データに基づく比較研究において,PCCTでの膵囊胞検出率が従来のEID-CTより有意に高かったことを報告しており,PCCTが膵疾患検出能を改善する可能性を示している3)。この報告は,PCCTの技術的優位性がreal-world環境においても臨床的価値へ結び付くことを示す重要な知見である。
7.金属アーチファクト低減と術後症例への応用
肝胆膵領域では,胆道ステント,塞栓材料,手術クリップなどが存在し,金属アーチファクトが診断を妨げる場合がある。PCCTではエネルギー分解能が高く,VMIを高エネルギー側で利用することで,金属アーチファクト低減が期待される。胆道系術後症例における胆管壁や周囲病変の評価精度向上に寄与すると考えられる。
■腹部領域におけるPCCTの臨床的意義
PCCTは,高精細画像,造影コントラスト増強,定量的スペクトラル解析を同時に提供できるため,単なる画質向上にとどまらず,診断精度向上と検査運用の最適化に寄与する技術である。特に肝腫瘍および膵腫瘍の検出・評価においては,微細構造描出と造影コントラスト強調の双方が重要であり,PCCTは腹部領域の臨床課題に対し,直接的な価値を提供する可能性が示唆されている。
■「NAEOTOM Alpha class」による腹部領域への展開
シーメンスヘルスケアは,2021年に,世界初のPCCTである「NAEOTOM Alpha」を発表し,2025年にはNAEOTOM Alpha classとして3機種のラインアップへと拡充した。これにより,施設規模や臨床ニーズに応じた導入が可能となり,PCCTの臨床実装がさらに加速している。腹部領域においては,スペクトラル情報を標準的に取得できることにより,肝腫瘍・膵腫瘍の定量評価,造影最適化プロトコール,VNCによる検査効率化など,幅広い臨床価値を提供できる可能性がある。
腹部領域におけるCT診断は,病変検出,治療効果判定,フォローアップまで,広範な役割を担っており,さらなる高精細化,定量化,造影剤低減,被ばく低減が求められている。PCCTは,光子単位での計測とエネルギー分類を可能とすることで,従来CTでは得られなかった情報を提供し,腹部診断の質を向上させる技術である。近年では,real-worldデータに基づく報告も蓄積されつつあり,造影効果の向上,膵疾患検出能向上,VNCを活用した検査効率改善など,臨床現場に即した価値が示されている。今後,さらに臨床データが蓄積されることで,肝胆膵領域におけるPCCTの標準化と臨床的意義はいっそう高まると考えられる。
●参考文献
1)van der Bie, J., et al. : Photon-counting CT : An updated review of clinical results. Eur. J. Radiol., 190 : 112189, 2025.
2)Layer, Y.C., et al. : Image quality and contrast media reduction in abdominal photon-counting CT. Heliyon, 10(6): e28142, 2024.
3)Dane, B., et al. : Pancreatic cyst prevalence : Comparison between photon-counting CT and energy-integrating detector CT. Eur. J. Radiol., 175 : 111437, 2024.
●問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
コミュニケーション部
〒141-8644
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TEL:03-3493-7500
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