Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2025年11月号

高画質デジタルPET-CTによる心臓アンモニアPET検査を透析の合併症管理に活用 〜心筋の明瞭な描出で心機能解析の精度が向上し検査スループットも改善〜

名古屋放射線診断クリニック

名古屋放射線診断クリニック

 

名古屋放射線診断クリニックは、透析医療を中心に医療・介護サービスを展開する偕行会グループのPET画像診断センターとして2001年に開院した。2013年からは心臓アンモニアPET検査を開始し、透析患者においてリスクの高い虚血性心疾患の精密検査に活用してきた。2025年4月には、キヤノンメディカルシステムズのデジタルPET-CT「Cartesion Prime / Luminous Edition」を導入し、高感度・高画質を生かして診断の質を向上させるとともに、検査スループットの改善を実現している。心臓アンモニアPET検査の意義やCartesion Prime / Luminous Editionの運用について、同クリニック心臓核医学センターの大島覚センター長、画像部画像課の小島明洋課長補佐、加藤光典技師に取材した。

大島覚 センター長

大島覚 センター長

小島明洋 課長補佐

小島明洋 課長補佐

加藤光典 技師

加藤光典 技師

 

透析医療と合併症対策に注力する偕行会グループ

透析医療を中心に発展してきた偕行会グループは、東海・関東で4つの病院を含む40の医療・介護事業所を運営している。透析医療に加えて、がんや認知症、リハビリテーションなど、高齢化に伴いニーズが高まっている分野に注力しているほか、近年ではインバウンドの健診・治療にも力を入れており、アジアのアワードを受賞するなど取り組みが海外でも評価されている。
透析医療においては、グループ全体で約3400名の透析患者の診療を行っている。グループの基幹病院である名古屋共立病院で副院長・循環器センター長も務める大島センター長は、「ここ1、2年の透析導入患者数は減少傾向にありますが、全国で35万人弱の患者さんが透析治療を受けています。透析患者は循環器疾患のリスクが高く、症状がなくても重症というケースも多いことから、以前から日本透析医学会が心血管系合併症管理の啓発活動を行っており、偕行会グループでも合併症対策に力を入れてきました」と話す。心疾患の早期発見と治療、運動療法や栄養管理など、高い専門性で合併症の予防・早期発見・治療に取り組むことで、グループ全体の透析患者の10年生存率は57.5%(2021年末)と全国平均(約36%)を大きく上回っている。

コンパクトかつ高感度の最新デジタルPET-CTを増設

偕行会グループのPET-CT検査専門施設として開院した名古屋放射線診断クリニックは、2004年より全国に先駆けてPET-CT装置を臨床導入。2008年にはグループ2施設目の画像診断センターである東名古屋画像診断クリニックが開院し、両クリニックでPET-CT検査の実績を積み重ねてきた。これまでの累計検査数は、FDG-PETを中心に18万件を超える。
同クリニックではFDG-PETとアミロイドPET、2013年からは心臓アンモニアPETも開始し、診療や健診に活用してきた。2台のアナログPET-CTを運用してきたが、うち1台の更新時期が、検査数が減少していたコロナ禍に重なったことから2021年からは1台で運用を行ってきた。小島課長補佐は、「3種の検査を1台で行うことになり、非常に煩雑で運用が厳しくなっていました。また、グループ内での心臓アンモニアPETの需要や地域の医療機関からの検査依頼も増えていることから、改めて1台増設することになりました」と経緯を説明する。
増設する装置は、心臓アンモニアPETでの使用を主眼に選定が行われた。サイクロトロンがある1階から薬剤の入ったバイアルを搬送するダムウェーター(小荷物専用昇降機)が設置された検査室は広さに限りがあり、装置はその部屋に収まることが求められた。小島課長補佐は、「その点において、Cartesion Prime / Luminous Editionのコンパクト設計が魅力でした。また、心臓アンモニアPET検査で使用する薬剤は半減期が約10分と短く、かつ投与量が多いため、高い計数率特性の装置であることも重要でした。Cartesion Prime / Luminous Editionは、LYSOシンチレータと半導体検出器を採用し、TOF時間分解能が短く優れている点が決め手の一つとなりました」と述べる。

心臓アンモニアPETを透析の合併症管理に活用

2025年4月に稼働を開始したCartesion Prime / Luminous Editionでは、1日平均で4、5件の心臓アンモニアPET検査、およびPET-CT健診(FDG)を行っている。サイクロトロン設備が必要な心臓アンモニアPET検査は実施施設が限られていることから遠方からの受診もあり、検査を開始した2013年からの累計検査数は約7500件、保険診療にて全国で実施される検査の半数が同クリニックで行われている状況だ。
心臓アンモニアPET検査は、隣接する名古屋共立病院や地域の医療機関から紹介された一般の患者の検査も行うが、透析患者の割合が徐々に増え、現在は約6割が透析患者となっている。偕行会グループでは、透析患者の心血管合併症の対策として、心電図やホルター心電図、心エコーによるスクリーニング検査を行い、精密検査として心臓アンモニアPET検査を実施している。透析の合併症管理における心臓アンモニアPETの意義について、大島センター長は、「一般に狭心症などが疑われる場合、心電図や心エコーで異常が認められれば冠動脈CTが行われますが、透析患者さんは冠動脈石灰化などで評価が困難なことが多く、われわれは心臓アンモニアPETで精密検査を行うケースが多くあります。また、カテーテル検査で中等度の狭窄が認められた患者さんで、血行再建の適応を判断するための虚血評価に心臓アンモニアPETを活用しています。さらに、現在はカテーテル治療のデバイスが進化し再狭窄率が低下しているため、フォローアップとしての冠動脈造影検査は慎重に検討されるようになりました。そのような中で、再発が懸念される患者さんのフォローアップとして心臓アンモニアPETが有用だと考えています」と説明する。
また、大島センター長は、心筋SPECTによる血流評価と比べた利点として、画質と血流量の測定を挙げ、「半導体SPECTと比べてもPETではクリアな画像が得られますし、Cartesion Prime / Luminous Editionになったことで、アナログPET-CTよりさらに明瞭になりました。また、ダイナミックスキャンにより心筋血流量(MBF)を測定でき、安静時と薬剤負荷時のMBFの増加率である心筋血流予備能(MFR)を定量的に評価することが可能です。そしてMBFやMFRは、予後指標としても有用です」と述べる。
心機能解析を担う加藤技師は、「アナログPET-CTでは画像がぼけて収縮期は内腔が潰れてしまっていたのですが、画質の向上により心筋がシャープに描出されて収縮期にも内腔が保たれ、左室駆出率の値が以前よりも高くなっています。ゴールドスタンダードであるMRIで測定した値に近づいていて、より真値に近い結果が得られると期待しています」と話す。

■Cartesion Prime / Luminous Editionによる臨床画像

図1 心臓アンモニアPET a:負荷時、安静時の血流評価 b:Bull’s eye(上段:負荷、中段:安静)

図1 心臓アンモニアPET
a:負荷時、安静時の血流評価
b:Bull’s eye(上段:負荷、中段:安静)

 

図2 FDG-PET a:MIP画像 b:fusion(axial)画像

図2 FDG-PET
a:MIP画像
b:fusion(axial)画像

 

高感度半導体検出器により検査スループットが改善

心臓アンモニアPET検査は安静時と負荷時(ATP負荷)の2回の収集を行う。従来のプロトコールでは、安静時と負荷時それぞれで13N-アンモニア350MBqを投与し、10分間のインターバルを設けて、各12分間で収集を行っていた。Cartesion Prime / Luminous Edition導入後は、投与量を安静時150MBq、負荷時450MBqに変更し、各10分間の収集を連続して行う運用に変更した。これにより、1検査の枠が60分から40分に短縮している。加藤技師は、「安静時の投与量が150MBqであればインターバルがなくても負荷時の検査に影響しないのですが、従来装置は150MBqでは十分な画像が得られませんでした。高いTOF性能によりインターバルをなくすことができ、また、総投与量が少なくなったことで、以前は安静時と負荷時で分けて製造していた薬剤を一度にまとめて製造できるようになり、スタッフの負担軽減にもつながっています」と言う。
さらに、日々の検査における有用性として、78cmのワイドボアにより検査中の患者の表情や様子を観察しやすいことや、ベッドが低い位置まで下がることで透析治療により足腰が弱っている患者も安全に昇降できることなどを挙げる。小島課長補佐は、「増設により健診枠を設定できるようになり、PET-CT健診も開始しました。最新装置で検査を受けられることは健診受診者にとって受益性が高いですし、クリニックとしても収益を上げることにつながります」と述べる。

心臓PET検査の普及を見据え多施設データ構築を進める

同クリニックは、全国的にも少ない心臓アンモニアPET実施施設として、先駆的な取り組みや検討を進めている。大島センター長は、「Cartesion Prime / Luminous Editionに搭載されているFDG-PET対応の呼吸同期機能を心臓アンモニアPETに応用できないかと考え、キヤノンメディカルシステムズとともに検討を行っています。また、呼吸同期や心電図同期はSNRが低下する傾向にありますが、Deep Learningを用いたデノイズ技術の活用も今後の検討課題としています」と話す。
さらに現在、東京女子医科大学や福島県立医科大学など複数の施設とデータベース構築を進めている。大島センター長は、「国内で臨床試験が進んでいるPET心筋血流イメージング剤の18F-Flurpiridazはデリバリーでの検査が可能で、承認されれば心臓PET検査が普及すると期待されています。それに先駆けて、多施設で心臓PET検査のデータを集めており、世界初の心臓アンモニアPETの多施設データを報告することをめざしています」と述べる。
同クリニックの先進的な取り組みは、透析医療だけでなく、心不全パンデミックが危惧される超高齢社会に一筋の光明をもたらすだろう。

(2025年9月3日取材)

*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見が含まれる場合があります。

一般的名称:X線CT組合せ型ポジトロンCT装置
販売名:PET-CTスキャナ Cartesion Prime PCD-1000A
認証番号:301ACBZX00003000

 

名古屋放射線診断クリニック

名古屋放射線診断クリニック
愛知県名古屋市中川区法華一丁目162番地
TEL 052-353-7211
https://nagoya-pet.or.jp/nishi/

 

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