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2022年8月号

がん放射線治療の今を知る!~最前線の現場から No.1

最新鋭サイバーナイフを使用したがん治療 大分岡病院での取り組み

香泉 和寿(社会医療法人敬和会 大分岡病院放射線科治療部長)

近年の化学療法の進歩は目覚ましいものがあり,がん治療が大きく変化してきている。放射線治療についても,最近の機器の性能向上は著しく,多種多様な放射線治療機器が登場してきており,「サイバーナイフ」(アキュレイ社製)もその中の一つと言える。
大分岡病院は,大分県で唯一サイバーナイフを持つ施設であり(図1),2004年に「サイバーナイフG3」を導入したのが始まりである。当初は頭頸部しか治療できない機器であったが,2010年にアップグレードを行ったことで体幹部の治療も可能となった。その後,2016年11月に最新鋭の「サイバーナイフM6」へと機器更新を行ったことで,より精度向上や治療時間短縮が得られており,以前にも増してさまざまな疾患に対応できるようになってきた。最終的に,2017年に治療計画装置の更新〔Accuray Precision 治療計画システム(Precision)〕と「InCise2 Multileaf Collimator(MLC)」のオプション追加を行っており,スループットが格段に向上している。本稿では,この最新鋭のサイバーナイフを用いたがん治療の魅力をお伝えしたい。

図1 社会医療法人敬和会 大分岡病院 大分県で唯一のサイバーナイフ保有施設。サイバーナイフ1台での運用であり,患者のほとんどは県内外の他施設からの紹介である。

図1 社会医療法人敬和会 大分岡病院
大分県で唯一のサイバーナイフ保有施設。サイバーナイフ1台での運用であり,患者のほとんどは県内外の他施設からの紹介である。

 

サイバーナイフとは

サイバーナイフは,工業用ロボットアームに6MVの小型リニアックが搭載されたことで,三次元的な照射が可能となった放射線治療機器である。天井・床には直交する2対のX線撮影装置が設置されており(図2),間欠的な画像取得によって患者の位置ズレを正確に評価することが可能になっている。さらに,検出された位置ズレは,照射側のロボットアームでその誤差が0になるような微調整が自動的になされている。この連動により,結果的に非常に簡便な固定具を用いるだけで高精度な照射が可能になっているのが優れた点と言える。また,体表と体内の動きの相関モデルを利用した自然呼吸下での追尾照射(特に肝・肺の治療で有用)も標準装備で可能となっており,患者腹部に設置したLEDマーカーで体表の動きを検知することで,最終的に体内の腫瘍位置を予測・照射することが可能となっている。照射中の誤差(intra-fraction error)には,通常,患者体動と臓器の移動・変化が含まれているが,サイバーナイフはその両方に対応することが可能な機器と言える。
このように利点の多い機器ではあるが,一方で,一般的なリニアックと比較すると最大照射野が小さく,通常のコリメータ(fixed/Iris collimator)では最大6cmの円形照射野になり,MLCを使用しても矩形照射野11.5cm×10cm程度しかないため,広範囲な照射は苦手としている(図3 a)。通常は三次元的に多方向から照射し,かつ一点にビームを収束させないnon-isocentricな照射(図3 b)を行うため,最大照射野を超える大きさでも照射は可能だが,その分どうしても1回あたりの照射時間が長くなってしまうことになる。結局は,限られた狭い範囲での照射に関して優位な機器ということになる。

図2 サイバーナイフシステム

図2 サイバーナイフシステム

 

図3 サイバーナイフにおける照射方法の違い a: isocenterを持つ照射 b: isocenterを持たない照射(non-isocenter) aは短時間で照射可能だが大きな病変には不向き。bは形が複雑で大きな病変にも対応できる。通常はbを用いる。

図3 サイバーナイフにおける照射方法の違い
a: isocenterを持つ照射
b: isocenterを持たない照射(non-isocenter)
aは短時間で照射可能だが大きな病変には不向き。bは形が複雑で大きな病変にも対応できる。通常はbを用いる。

 

健康保険適用に関して

定位放射線治療の健康保険適用疾患は少しずつ増えており,古くから行われてきた頭頸部腫瘍や脳動静脈奇形に加え,2004年に原発性および転移性の肝がん・肺がん,2016年に前立腺がん,2018年に原発性腎がん,2020年に原発性膵がん,転移性脊椎腫瘍,オリゴ転移が保険適用になっている(ただし,オリゴ転移は細かい条件付き)。

MLCオプション追加や最新治療計画装置Precisionのメリット

サイバーナイフは定位放射線治療を非常に得意としており,通常は非常に手間のかかる照射であるにもかかわらず,少ないスタッフで施行可能である。特に,当院においては,MLCのオプション追加と治療計画装置Precisionの更新が効率の良い治療計画の作成と照射の最適化につながっており,前述の保険適用疾患の拡大にしっかりと対応するのに非常に好都合であったと感じている。当院にて通常のコリメータ(Iris collimator)で作成した治療計画とMLCでの治療計画の一例を図4に示しているが,MLCを用いた計画(b)の方が1回の照射時間が12分も短縮できており,非常に効率の良い照射になっている。
それとは別に,これらの治療計画を作成する時間自体も,治療計画装置の更新で著明に短縮されている。以前の治療計画装置では,初回の線量計算結果が確認できるまでに30分以上かかるケースが多く見られていたが,Precisionで初めて採用された“VOLO 最適化アルゴリズム”での最適化計算では,早ければ数分程度で結果の確認が可能になっている。場合によっては,一度線量計算しただけでそのまま治療計画を完成させることも可能となっており,治療計画件数が多くなればなるほどこの差は非常に大きなものとなるため,医師の労働時間の短縮といった面でも大きな改善につながっている。また,照射時間短縮の実現は,スループットの向上だけでなく,より大きな腫瘍に対する治療が現実的な治療時間で可能になったことを意味する。結果的に,治療の幅が広がっている点も見過ごせない。

図4 コリメータの違いによる線量分布の差 a:Iris collimator, b: MLC 髄膜腫術後再発に対する治療の一例。MLC(b)は,より短時間での照射が可能。

図4 コリメータの違いによる線量分布の差
a:Iris collimator, b:MLC
髄膜腫術後再発に対する治療の一例。MLC(b)は,より短時間での照射が可能。

 

サイバーナイフ治療の具体例

当院は,幸いにして近隣施設にサイバーナイフ治療を評価していただいており,年間300件程度の治療を施行している。機器の維持・更新に必要な件数は確保できているが,それは何にも増してサイバーナイフ自体のシャープな線量分布や高精度な照射,それによるビビッドな治療効果のためではないかと思う。この非常に切れの良いサイバーナイフでの治療例をいくつかご紹介しよう。
図5 aは,小脳への転移に対する治療例である。精度が高いため1mm程度のマージン付与で十分治療が可能であり,3cm程度の転移性脳腫瘍であっても,分割回数を増やすことで比較的安全に治療することが可能である。観察期間内に明らかな放射線性脳壊死は認められなかった。
図5 bは,原発性肺がんの治療例である。サイバーナイフは標準的な装備で呼吸性移動対策が可能であり,相関モデルを利用して体表の動きから腫瘍の呼吸性移動を予測するシステムになっている。間欠的な画像取得での位置精度担保になるため,信頼性に疑問をお持ちの方もおられるかもしれないが,サイバーナイフM6は0.95mm未満の照射精度とされており,この一連の呼吸追尾システムは非常に高精度である。
図5 cは,有痛性転移性脊椎腫瘍(第2頸椎)の治療例である。骨破壊が顕著であったため頸部の安定性に不安が残る状態だったが,最終的には十分に骨化し,非常に良い局所制御が得られていた。もちろん,頸部の疼痛も完全に改善されていた。2021年のSahgalらの報告1)では,定位放射線治療の方が従来の外部照射療法より疼痛改善率が良いとされており,今後ほかの報告の結果次第では,定位放射線治療での除痛がより注目されてくるのかもしれない。

図5 サイバーナイフでの治療例 a:肺腺癌の転移性小脳腫瘍,40Gy/10分割 b:原発性肺がん(扁平上皮癌),48Gy/4分割 c:肺腺癌の転移性第2頸椎腫瘍,35Gy/5分割 aは有症状(嘔気・嘔吐)の転移例。照射後ほどなくして症状は改善している。bは無症状の原発性肺がん症例(左S8末梢)。照射後6か月で有害事象なく瘢痕化・腫瘍消失している。cは有痛性骨転移例。疼痛は速やかに改善し,14か月,25か月の時点では腫瘍の消失と骨化を認める。

図5 サイバーナイフでの治療例
a:肺腺癌の転移性小脳腫瘍,40Gy/10分割
b:原発性肺がん(扁平上皮癌),48Gy/4分割
c:肺腺癌の転移性第2頸椎腫瘍,35Gy/5分割
aは有症状(嘔気・嘔吐)の転移例。照射後ほどなくして症状は改善している。bは無症状の原発性肺がん症例(左S8末梢)。照射後6か月で有害事象なく瘢痕化・腫瘍消失している。cは有痛性骨転移例。疼痛は速やかに改善し,14か月,25か月の時点では腫瘍の消失と骨化を認める。

 

最後に

サイバーナイフは高精度であり,通常のリニアックとは違った魅力がある機器である。今まで以上に定位放射線治療が注目されれば,非常に高く評価される機器ではないかと考える。当院はサイバーナイフのみでの運用だが,MLCオプションを追加することで大きな腫瘍にも十分対応でき,治療の幅が広がった。1台でもかなり幅広い症例をカバーできるようになるため,当院のような1台での運用を考える場合には,MLCオプションの追加が個人的にはお勧めである。

●参考文献
1)Sahgal, A., Myrehaug, S.M., Siva, S., et al.: Stereotactic body radiotherapy versus conventional external beam radiotherapy in patients with painful spinal metastases : An open-label, multicentre, randomised, controlled, phase 2/3 trial. Lancet Oncol., 22(7):1023-1033, 2021.

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