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2024年4月号

がん放射線治療の今を知る! ~最前線の現場から No.9

中規模がん診療連携拠点病院における「Radixact」1台運用の実際

野元  諭(九州労災病院放射線治療科部長)

当院の紹介と装置導入の経緯

当院は1949年に労働災害治療を目的に設立された全国初の労災病院で,現在,23診療科,450床の総合病院である。当院における放射線治療の歴史は古く,1980年に外照射装置(コバルトγ線)で開始され,2011年にMegavoltage(MV),On Board Imager(OBI),10mmマルチリーフコリメータ(MLC)のリニアックシステム(X線,電子線)に更新された。さらに,2017年に放射線治療科が新設され,放射線治療専門医が常勤となり,2020年4月より地域がん診療連携拠点病院に認定された。2022年に「Radixact X7」(アキュレイ社製)への更新が決定し,2023年1〜4月に設置・調整を行い,5月から本格稼働した。同装置導入においては,特殊な放射線治療(内照射,粒子線治療)以外のがん放射線治療において,多岐にわたる病態に対して自院で完結できる放射線治療システムを検討し,高精度治療である強度変調放射線治療(IMRT)や定位放射線治療(SRT)の専用機,かつ通常のがん診療に対応できる汎用機として,Radixactの1台運用が可能と考え選定した。表1に,当院のRadixact X7の装備を示す。

表1 当院のRadixact X7の装備概要 アキュレイ社ホームページより一部改変

表1 当院のRadixact X7の装備概要
アキュレイ社ホームページより一部改変

 

治療立ち上げ準備および治療開始後の経過

Radixactがどのような装置で,どのような治療が可能になるかについての啓発目的で,稼働開始前に院内研修,装置設置後に紹介医療機関に対して研修会および内覧会,医師向けに連携医療機関の訪問案内を積極的に行った。また,待機期間中の紹介患者に関しては,特に前立腺がん,術後乳がん,状態安定の緩和照射症例では,稼働前月より治療計画や日程調整を行い,稼働開始直後の症例確保を計画的に行った。
2023年5〜12月の症例内訳と1日の治療部位数(平均)の推移を表2,3に示す。11月は1日平均30部位を超える症例数であり,Radixact稼働後の症例集積は非常に順調に経過した。

表2 診療実績 集積期間 2023年5~12月

表2 診療実績 集積期間 2023年5~12月

 

表3 稼働開始後の月別の1日の治療部位数(平均)の推移

表3 稼働開始後の月別の1日の治療部位数(平均)の推移

 

運用事例

1.専用機としての役割
Radixactの特記すべきシステムの一つに,動体追尾照射機能の「Synchrony」がある。特に肺腫瘍に関しては,マーカーレスで実施可能となる。kV X線で腫瘍位置を確認し,同時に体表面マーカー(LED)をSynchronyカメラで呼吸位相を確認することによって両者の相関モデルを作成し,標的を追尾しながら照射を行う。照射中に位置ズレが生じた場合は,再度相関モデルを自動作成し照射を再開するシステムである。標的腫瘍に正確に照射でき,かつ内的マージン(Internal margin)が不要であり,放射線肺臓炎を代表とする有害事象発生の低減を可能にする。表4に,肺定位放射線治療の呼吸対策方法の内訳を示す。2023年5~12月に10例行い,X線透視や吸呼気CTで確認した腫瘍部呼吸性移動が10mm未満である症例は内的標的体積(ITV)法で,10mm以上の場合はSynchronyのシミュレーションを行った。その結果,6例中5例で実施可能で,1例で施行困難と判断しITV法に変更した。処方線量は全例PTV D95に48Gy/4frとし,Synchrony照射では肉眼的腫瘍体積(GTV)+5mmを計画標的体積(PTV)とした。Synchronyは相関モデルからズレの閾値を3mmと設定しており,それ以上のズレが生じた場合は再度相関モデルを構築する。装置上の誤差を0.6mmと考え,PTV マージンは5mmを設定している。

表4 肺定位放射線治療の呼吸対策の内訳 症例10はSynchrony不成功のためITV法に変更し治療を行った。

表4 肺定位放射線治療の呼吸対策の内訳
症例10はSynchrony不成功のためITV法に変更し治療を行った。

 

2023年12月に開催された日本放射線腫瘍学会の期間中に,リング型ガントリへの「Catalyst+HDシステム」の医療機器承認がアキュレイ社から発表された。これにより,体表マーカーレス患者セットアップのサポートや左側乳がん治療における深吸気息止め法(DIBH)が可能となる。また,Synchronyが適用できないSRTの症例に対して,このシステムを利用した呼吸移動対策が期待される。
少数個脳転移に対するSRTは,前年までは全例他院に紹介していたが,Radixact導入後は当院で治療可能となり,数例問題なく施行した(図1)。

図1 原発性肺がん脳転移 SRT 28.8Gy/4fr PTV D95処方

図1 原発性肺がん脳転移
SRT 28.8Gy/4fr PTV D95処方

 

2.汎用機としての役割
ヘリカル回転およびダイレクト照射による緩和照射への応用もRadixactは非常に有効である。図2のように,骨盤内播種,多発性骨転移の症例では,複数の有症状部位に対して同時に照射可能であり,患者の負担も軽減できる。また,進行食道がんや原発性肺がんに対する根治的な化学療法併用の通常分割照射にも十分に対応可能である。
三次元原体照射(3D-CRT)は,当院の整形外科は悪性骨軟部腫瘍の症例が多いことから四肢の術後放射線治療で使用することがあるが,体幹部に関してはダイレクトモードでの多門照射を使用することが多い。

図2 多発性転移(膀胱がん術後骨盤内播種,恥骨・右臼蓋骨転移)に対する緩和照射 Beam on time 247秒

図2 多発性転移(膀胱がん術後骨盤内播種,恥骨・右臼蓋骨転移)に対する緩和照射
Beam on time 247秒

 

Radixactで経験した興味深い治療例

Radixactによる治療例を紹介する。78歳男性,肝細胞がんの診断にて当科で肝動脈化学塞栓術(TACE)を施行した。その後のCT評価で腫瘍中心〜辺縁にリピオドールの沈着不良部があり,TACE後2週目のAFP 9.27ng/mL,PIVKA-II 128.32 mAU/mLで腫瘍遺残が強く疑われ,放射線治療依頼があった。リピオドールの沈着が強く残っている部分があり,TACE後の高吸収を利用したマーカーレスのSynchronyシミュレーションを行い,標的認識に問題がないことを確認し,PTV D95 40Gy/4fr処方でSRTを施行した。線量分布図を図3に示す。SRT3か月後の造影CTにてがん遺残部の増強効果は低下し,AFP 4.39ng/mL,PIVKA-II 22.81mAU/mLに正常化し,有害事象もなく良好な経過を確認している。肝腫瘍においてリピオドールなどの高吸収が存在し,マーカーレスのSynchronyによる動体追尾照射が可能であった貴重な症例であった。

図3 TACE後リピオドールを利用したSynchrony(マーカーレス)のSRT 治療計画は単純および造影CTによるCT/CT fusionで実施した。

図3 TACE後リピオドールを利用したSynchrony(マーカーレス)のSRT
治療計画は単純および造影CTによるCT/CT fusionで実施した。

 

Radixact治療のメリット,導入推奨のポイント

医療機関ごとに症例内訳の特徴はあるが,当院のような中規模のがん診療医療機関において,Radixact X7は高精度放射線治療の専用機,通常の緩和治療や根治治療における汎用機としての1台運用で十分に機能を発揮できている。本稿で紹介した当院の導入経緯,稼働前準備,実際の運用面が,今後導入を検討している施設において参考になれば幸いである。

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