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2023年11月号

がん放射線治療の今を知る!~最前線の現場から No.8

肺がんに対する定位放射線治療におけるサイバーナイフの有用性

阿部 孝憲(埼玉医科大学国際医療センター放射線腫瘍科)

はじめに

早期肺がんに対する定位放射線治療は,手術不能の患者に対する標準治療としてその役割が確立されている1)。早期肺がんに対する定位放射線治療のエビデンスは,装置の設置台数からして汎用リニアックによる治療の報告が多いが,サイバーナイフは装置の特性上,体幹部定位放射線治療(SBRT)に有用な機能が多く搭載されており,最近ではその性能を反映した良好な治療成績が報告されている。本稿では,サイバーナイフの機能を紹介しつつ,どういった点がSBRTに向いているのか,当院の成績や最新のエビデンスを交えて紹介する。

サイバーナイフの特性

1.超多門照射
サイバーナイフの特性として,ロボットアームを駆使した超多方向からの照射が挙げられる。汎用リニアックでは,ノンコプランナー照射を使用しても多くて十数方向からの照射が限界であるが,サイバーナイフは50〜100本のノンコプランナー超多門照射である。これにより,肺には極低線量のみ広がるが,低~高線量は腫瘍の近傍からきわめて急峻に立ち上がる。装置間の線量分布の比較は公平に行おうとするときわめて奥が深く,困難な作業であるが,Atalarらの報告では,肺線量に関してリニアックと比較してサイバーナイフの有用性が示されている2)

2.追尾照射
サイバーナイフは,天井に設置された2方向のX線撮影装置により,照射前,照射中に寝台上の患者の腫瘍,または金マーカーの位置を三次元的に取得することができる。また,同時に体表に置かれたマーカーの動きも監視しており,呼吸波形と腫瘍,または金マーカーの位置の相関モデルを構築することで,任意の呼吸位相の腫瘍,または金マーカーの位置を予測することができる。予測と実際に相違がないか,常に監視して相関モデルが更新され,照射中に位置ズレを補正しながら追尾し続けることができる。この機能により,呼吸性移動を包含するような内的標的体積(ITV)を設定する必要はなくなり,必然的に肺線量は低下する。

当院のワークフロー

治療計画CTでは,線量計算用として中間位息止め画像,呼吸性移動評価用として4D-CTを撮影する。4D-CTで呼吸性移動が1cm以上ある場合は,相関モデルによる呼吸追尾照射が可能か否か,治療装置に患者を乗せてシミュレーションを行う。呼吸性移動が1cm以上あり,呼吸追尾できない場合はITV法で治療を行うか,金マーカーを留置して再度治療計画用CTを撮り直すか検討する。呼吸性移動が1cm以下の場合は,脊椎による位置合わせでの治療を行う。輪郭作成では,呼吸追尾の場合は中間位息止め画像のみに肉眼的腫瘍体積(GTV)を輪郭作成し,それ以外の場合は4D-CTからMIP法にてinternal gross tumor volume(iGTV)を作成する。線量処方は総線量54Gy/3回分割〔生物学的等価線量(BED)で151.2Gy〕で,GTV D99=処方線量としてnormalizeしている。これらの方法を図1に示す。

図1 方法

図1 方法

 

当院における早期肺がんに対するサイバーナイフの成績

当院から論文として報告した治療成績を紹介する。

1.臨床的肺がんも含めた96例の成績(Ryuno, Y., et al., Radiat. Oncol., 17(1) : 128, 2022.)
患者背景を表1にまとめて示す。年齢中央値は77歳であり,これは治療法が外科,内科,放射線科合同カンファレンスで議論され,放射線治療に紹介される患者は手術不能の高齢者が多いことを反映している。そのほかの患者背景としては,線量は91名が54Gy/3frで,5名が60Gy/3frであり,BEDの中央値は151Gyと高線量を使用していることが特徴である。しかしながら,肺V20の中央値は2.4%であり,肺線量はきわめて低く,GTV D99の中央値は101.4%,PTV D95の中央値は95.6%と標的に対する線量のカバーは十分であると考えている。このような集団の治療結果として,観察期間中央値27か月で2年局所制御率97%,2年生存率90%であった。Grade2以上の肺臓炎は6%,Grade3以上の肺臓炎が1%であり,肺臓炎発症率はきわめて低い。代表的症例の治療経過を図2に示す。

表1 患者背景(n=96)

表1 患者背景(n=96)

 

図2 代表的症例の治療経過 a:右肺下葉に20mm大の結節を認める。 b:結節は縮小し,肺臓炎は認めない。

図2 代表的症例の治療経過
a:右肺下葉に20mm大の結節を認める。
b:結節は縮小し,肺臓炎は認めない。

 

2.低肺機能の症例の成績(Abe, T., et al., JRR, 61(6) : 903-907, 2020.)
1秒量1L以下の患者13名におけるサイバーナイフの治療成績を示す。年齢中央値は76歳,1秒量の中央値は0.87L,腫瘍径の中央値は21mm,線量中央値は54Gy/3frであった。観察期間中央値27か月で2年局所制御率100%,2年生存率89%であり,Grade2以上の肺炎は認めなかった。慎重な適応判断と厳重なフォローアップは必要であるが,1秒量1L以下というきわめて低肺機能の患者において,サイバーナイフは低侵襲な方法として治療の選択肢となる可能性がある。

文献的考察

1.早期肺がんに対するサイバーナイフの報告
PubMedで“CyberKnife,Lung Cancer”と検索したすべての結果から,早期肺がんに対する治療成績を手動で絞り込んだ。まとめると線量BED中央値=141Gyで,2年局所制御率76〜100%,2年生存率60〜93%,肺臓炎はGrade2以上が0〜11%,Grade3以上が0〜11%であった(表2)。

表2 早期肺がんに対するサイバーナイフの治療成績の報告

表2 早期肺がんに対するサイバーナイフの治療成績の報告

 

2.線量と治療成績の関係
前述の検索結果から処方線量のBEDと2年局所制御率を抽出し,プロットした散布図を示す(図3)。局所制御率は腫瘍径の違いの影響を受ける可能性を考慮する必要があるが,おおむねT1a〜T2aを対象とした報告であり,散布図からはBEDと局所制御率には正の相関関係があるように見える。大船中央病院の立石らのリニアックによる治療の報告3)でも,BED高線量群において局所制御率,全生存率ともに良好であることが示されており,今後の早期肺がんに対する定位放射線治療では「高線量を安全に投与すること」が重要であると言える。

図3 線量と局所制御率の関係

図3 線量と局所制御率の関係

 

まとめ

サイバーナイフは,末梢型早期肺がんの定位放射線治療において高線量を安全に投与できるきわめて有用な装置である。このことを明確に示すため,現在,多施設共同前向き試験を計画中である(jRCTs032230014)。

●参考文献
1)https://www.haigan.gr.jp/guideline/2022/
2)Atalar, B., et al. Technol. Cancer Res. Treat., 11 : 249–255, 2012.
3)Tateishi, Y., et al. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 111(1) : 143-151, 2021.

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