VARIAN RT REPORT

2021年5月号

人にやさしいがん医療を 放射線治療を中心に No.3

がん研究会有明病院のRapidArcの現状:臨床面と物理的側面からのUpdate

吉岡 靖生/中島  大(がん研究会有明病院放射線治療部)

がん研究会有明病院にはリニアック室が6室あり,リニアック5台を常時稼働させる体制で年間約1800人の放射線治療を行っている。バリアン社製の「TrueBeam」(+ExacTrac:ブレインラボ社製)が3台,「Clinac 21EX」〔+On-Board Imager(OBI)〕が1台,他社製装置が1台の構成である。いずれも強度変調放射線治療(IMRT)/画像誘導放射線治療(IGRT)が可能であり,当院では現在すべてのIMRTをバリアン社の強度変調回転放射線治療(VMAT)“RapidArc”または他社製装置で行っている。複数台のメリットを生かし,故障時や症例数に偏りが生じた場合にはmachine overrideも行っている。RapidArcが全照射に占める割合は,2020年の患者人数ベースで39%,照射回数ベースで48%であった。本稿前半では,2021年現在,当院でどのような疾患にRapidArcを用いているかなど臨床面について,後半では治療計画,QAなど物理的側面について述べる。

RapidArcを用いる疾患:臨床面

頭頸部がん(ただし,T1〜T2喉頭がんの局所照射は除く)と前立腺がんは,根治例・術後例とも全例RapidArcで治療している。全例で治療計画CTと同日に治療計画MRIを撮像し,IGRT併用がルーチンとなっている。前立腺がんの根治照射では全例に金マーカーを挿入し,適応症例にはハイドロゲルスペーサー「SpaceOAR」(ボストンサイエンティフィック社製)も挿入する。根治照射は70Gy/28回の中等度寡分割照射で行っているが,適応があり希望される方には,2020年から36.25Gy/5回の超寡分割照射も開始した。超寡分割照射の場合は,arcの半分時点でもExacTracによる金マーカーの位置確認を行っている。
Ⅲ期非小細胞肺癌の同時化学放射線療法(CCRT)においてRapidArcを用いることで,肺・心臓などの重要臓器に照射される線量の低減が可能である。従来の三次元原体照射(3D-CRT)では照射困難と判断せざるを得ない症例に対し,RapidArcを用いることで根治照射可能となった症例を多く経験している。肺がんのCCRTにおいて,IMRTの使用によってGrade 3以上の肺臓炎が有意に低下したことが欧米の臨床試験にて示された。また,心臓線量と予後との関係が近年報告されている。照射関連の心臓障害は,従来考えられていたより早期に生じる可能性があり,肺がん症例においても留意が必要である。3D-CRTでは,特に下葉の肺がん症例のoff-cordの照射野において,心臓に多く照射されることを免れなかったが,当院では下葉の肺がん症例もRapidArcを用いることで,心臓線量の有意な低減を可能にしている。
乳がんの術後照射のうち,左側で領域リンパ節を含めて照射する場合は,全例RapidArcで治療している。そのほかに,炎症性乳がん,同時両側乳がん,上肢挙上が不可能な症例が良い適応である。また,内胸リンパ節や鎖骨上リンパ節に転移を認める症例では,転移リンパ節に対して同時追加照射を行っている。
胃の悪性リンパ腫に対しては,全例RapidArcで治療しており,「Real-time Position Management system(RPM)」を用いた深吸気息止め照射を行うことによって標的の呼吸性移動を抑制するとともに,心臓などのリスク臓器に対する被ばく線量の低減を図っている。縦隔の悪性リンパ腫に対しても,複数のpartial arcを用いたdeep inspiration breath hold(DIBH)-VMATを行っている。
食道がんでは,全例にRapidArcでの治療を行っているわけではない。症例ごとに,従来の照射法とRapidArcのいずれのメリットが大きいかを検討し選択している。胸部上部や頸部原発のがんで呼吸性の変動が少ない症例,原発巣が大きく左右に張り出していたり,縦隔や鎖骨上窩リンパ節の両側が腫れている症例などがRapidArcの適応となりやすい。
膵臓がんでは周囲に放射線感受性の高い十二指腸などの臓器が存在するため,可能であればRapidArcが選択される。その際,呼吸性移動の大きい部位であるため,シミュレーションCTの撮影時に安定して呼吸を止めることができるかどうかなどを十分確認する必要がある。
T3,T4直腸がんの術前化学放射線療法においてはほぼ全例,術前短期照射においては半数程度にRapidArcを使用している。蓄尿により膀胱を拡張させた状態で,ベリーボードを用いた腹臥位での照射を行うことによって,消化管に対する被ばく線量の低減を図っている。肛門管がんの根治的CCRTもRapidArcで治療している(時に3 arc使用)。
子宮頸がんの術後照射において,術中所見や病理で腹膜播種が懸念される症例を除いて,積極的にRapidArcを採用している。根治症例においても,骨盤リンパ節転移や傍大動脈リンパ節転移あるいは傍組織浸潤に対しての追加照射としてRapidArcを用いている。3D-CRTによる全骨盤・中央遮蔽および小線源治療後に,RapidArcを用いて6〜16Gyを追加照射している。
定位照射においても,RapidArcを用いるメリットが考えられる場合がある。例えば,オリゴメタスタシスとしての椎体転移の場合,RapidArcを用いることで,step and shoot IMRTと比較して照射時間の短縮が可能である。これにより,照射中のintra-fractional motionを低下させることが期待でき,定位照射のような1回の大線量で行う治療でも少ないマージンで安全に治療を行うことができる。

リニアック

2016年以降導入された3台のTrueBeamは,“Enhanced Beam Conformance Specification(EBC・オプション)”1)を適用させた。EBCは,工場組立時にX線プロファイルをRepresentative Beam Data(RBD)2)に一致するように調整されており,受け入れ試験では通常より厳しい許容値が設定されている。エネルギーの一致度を感度良く確認するにはoff-axis ratio(OAR)を比較する方法が報告されているが3),当院で稼働している3台のEBC適用TrueBeamのOARはRBDとよく一致しており,装置間の差異は軽微であった(図1)。同一ビームデータを用いることで,故障時にはmachine overrideを安全に可能にするとともに,放射線治療計画装置のバージョンアップの際の確認作業量の削減にもつながっている。

図1 RBDとTrueBeamのOARの比較の一例

図1 RBDとTrueBeamのOARの比較の一例
10MV,照射野サイズ30cm×30cm,線量最大深におけるRBDのOARとRBDに対するdose difference(%)。照射野サイズ80%の位置におけるRBDとの相対線量差は,すべての装置およびエネルギーで±0.5%以内であった。

 

治療計画

近年の放射線治療計画装置および周辺機器には,(半)自動化を推し進める機能が搭載されており,従来行っていた作業内容をテンプレート化できることが機能を生かす上で重要になる。疾患領域ごとにバラツキのあったROI名称などを,American Association Physicists in Medicine(AAPM)TG-263レポート4)を参考にしつつ,当院の運用に合わせ統一を行った。
計画用CTは,CT装置付属のソフトウエアにより正常臓器のauto contouringを実施した上で放射線治療計画装置「Eclipse」(バリアン社製)に取り込まれ,必要に応じて修正をかけている。また,前立腺では知識ベース治療計画ソフトウエア“RapidPlan”が活用されているが,頭頸部,直腸などの領域でも,参照プランとしてRapidPlanで作成された分布を比較に用いる場合がある。

患者QA

患者QAでは従来のpatient specific QAのほか,主に頭頸部がんおよび肺がんではIGRTで使用したCBCTを用いて線量計算を行い,治療時の線量の把握に努めている。計算結果は,照射担当者のセットアップに対するフィードバックや再計画の指標に用いられる。VMATでは,辺縁の線量勾配は1つの照射野内でもさまざまであるため,症例により重点的に合わせる箇所を設ける必要も出てくるかと思う。その際に,マッチング位置の精度だけではなく,治療計画時の線量分布を再現できていることを確認することが必要である。

まとめ

がん研究会有明病院におけるRapidArcの症例数は年々増加しており,その有用性は明らかである。従来はIMRTの適応でなかった疾患も適応となってきており,その概要を述べた。装置の品質管理や治療計画における労力低減を図り,治療期間を通じた品質管理に努めることが,VMATの安全な施行と適応拡大には欠かせない。

●参考文献
1)X-Ray and Electron Beam Conformance. RAD 10174A, Palo Alto, CA, Varian Medical Systems, 2013.
2)Varian Medical Systems : TrueBeam Representative Beam Data for Eclipse.
https://www.myvarian.com/s/productdocu
mentation
3)Song, G., et al. : A comparison of methods for monitoring photon beam energy constancy. J. Appl. Clin. Med. Phys., 17(6): 242-253, 2016.
4)Mayo, C.S., et al. : American Association of Physicists in Medicine Task Group 263 : Standardizing nomenclatures in radiation oncology. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 100(4) : 1057-1066, 2018.

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