VARIAN RT REPORT

2018年10月号

技術解説:IMRTに特化した「Halcyon」の特長

バリアンが提供するがん放射線治療の最新ソリューションHalcyon

原  毅弘(株式会社バリアンメディカルシステムズ マーケティング部)

はじめに

米国パロアルトに本社を置くバリアンメディカルシステムズ(以下,バリアン)は,2018年に70周年を迎えた。われわれの放射線治療装置の歴史は長く,1956年にスタンフォード大学が6MVのエネルギーを搭載した放射線治療装置のプロトタイプを導入したのが始まりである。その後,1961年に市場向けの最初の装置として「Clinac 6」が開発され,現在の汎用機のメイン機種と同じ回転型リニアックの歴史はここから始まった。その後,「Clinac 4」が1968年にリリースされた。この時期は,放射線治療装置から出力される放射線を多方向から照射するシンプルな技術が放射線治療で主に用いられていた。放射線治療技術の大きな変化は,コンピュータ技術の進化とともに1990年前後から始まった。まず,「Clinac Cシリーズ」でコンピュータ制御を実現した。さらに,1998年にリリースしたmulti-leaf collimator(MLC)搭載の放射線治療装置では,MLCを治療中に可変させることで放射線の強度変調を実現し,腫瘍への線量を高めたまま周辺リスク臓器の線量を低減することを可能としたintensity modulated radiation therapy (IMRT)技術の搭載に成功した。この後の技術革新はめざましく,2005年にはkV管球とイメージャを搭載することで,毎回の照射前に患者の位置確認と補正を実施可能とするimage guided radiotherapy(IGRT),治療時間の短縮につながる技法である回転型IMRT,いわゆるvolumetric modulated arc therapy(VMAT)などの技術に対応する放射線治療装置を相次いで市場に提供してきた。長年の技術開発はすべて,がんの脅威に負けない世界の実現のため,そして,がん医療に貢献するために行ってきた。
近年,世界におけるがん罹患数が増加しており,今後さらに増えるとも予測されている。また,高精度を担保する放射線治療装置が開発されたことで,多くの施設でIMRTやVMATの実施が可能となり,よりリスク臓器への線量低減が実現可能となった。しかし,日本国内におけるIMRTの実施割合は,2012年で5%程度1)と欧米に比較してかなり低い状態にある。IMRTの実施は患者のメリットが大きい一方,実施病院にはIMRTの治療が集中する傾向があり,さらに,複雑な治療計画や品質管理などが求められ,医療現場の負担増加が課題となっている。この課題への解として,バリアンは「Halcyon」という放射線治療装置を開発し,2017年11月に日本の薬機法承認を取得した。

Halcyonの3つのコンセプト

HalcyonはIMRTに特化した放射線治療装置であり,高品質なIMRTを限られたマンパワーで実現することを目的としており,以下の3つのコンセプトを掲げている(図1)。

図1 Halcyon:3つのコンセプト

図1 Halcyon:3つのコンセプト

 

1.高品質なケア:High Quality of Care
従来の放射線治療装置との大きな違いは,ガントリ回転速度が4倍になったことである。これは,従来と同様の治療方法と比較した場合,治療時間短縮が見込めるのはもちろん,治療時間は従来と同様で,照射野数やアーク数を増やすことが可能となり,線量分布の改善が期待できる。また,IGRTはcone beam CT(CBCT)の選択が可能で,MV CBCTの場合,最短15秒で画像が取得できる。さらに,照射野を形成するMLCは交互配列された2段式のデュアルレイヤーを採用しており,MLCの平均透過率を大幅に抑えることに成功し,不必要な放射線を抑制することに寄与する(図2)。

図2 デュアルレイヤーMLC

図2 デュアルレイヤーMLC

 

2.運用効率の向上:Operational Excellence
バリアンの装置は長年使用されることも想定しており,新たな技術が開発された場合,放射線治療装置の入れ替えではなく,既存装置へのアップグレードで技術搭載ができるよう開発されている。これにより,同一装置を15年以上使用する施設も存在する。しかし,やはりどこかのタイミングで装置の更新は必要になる。その場合,病院経営として頭を悩ますのは更新期間中の治療停止である。Halcyonは,治療開始までの準備期間を大幅に短縮することで,装置更新中の治療停止期間を最小限に抑えることを可能とする。そのために,Halcyonはシンプルな2つのコンポーネントで設計,構成されており,簡便な搬入と組み立て時間の短縮を実現した。また,治療装置のビームデータがあらかじめ放射線治療計画用ソフトウエア“Eclipse”に登録された状態で出荷されるため,コミッショニング期間の短縮に寄与することが可能である。そして,治療時に必要な操作手順を簡易化し,従来と比べスループットと安全性の向上に貢献する。

3.人にやさしいデザイン:Human Centered Design
Halcyonのデザインは,がん治療に不安を感じる患者に対して,なるべくストレスを軽減できるように工夫している。まずは,その静音性である。加速器に水冷式を採用することで,空冷ファンから発生する音を低減した。そして,大きな特徴として100cmのボア内径を採用した(図3)。リング型ガントリのボア内径を広くすることで,患者の感じる圧迫感の低減を実現している。そのほかにも,患者照合機能,衝突感知機能,カメラとインターコムの装置統合などを総合的に有し,高いレベルの安全性が考慮されている。そして,人間工学に基づいたタッチスクリーンなどで直感的な操作を可能とするコンソールを搭載しており,医療従事者にも配慮のあるデザインとなっている。

図3 リング型ガントリ:ボア内径100cm

図3 リング型ガントリ:ボア内径100cm

 

進化を続けるHalcyon

2018年8月,Halcyonが薬機法の承認事項一部変更承認を取得した。一番大きな変更は,IGRT用にkV CBCT画像の取得が可能となったことである。kV CBCT機能の搭載で,軟部組織の視認性が向上する。さらに,Iterative kV CBCTという新たな画像再構成法を採用したことで,画質の向上が期待できる。また,CBCTの取得は最速17秒程度で,高速な画像取得を可能としている。
2018年9月現在,Halcyonは世界21施設で採用され,今後さらなる増加が予想される。

ソフトウエアソリューション

バリアンでは,放射線治療で用いるデータを一元管理するシステムを2000年以降から提供している(図4)。Halcyonの治療計画にはEclipseが使用でき,既存ユーザーは使い慣れた放射線治療計画システムをそのまま使用することが可能である。計画立案者は従前のワークフローを大きく変更する必要がなく,負担を低減することができる。

図4 放射線治療関連データの一元管理ソリューション

図4 放射線治療関連データの一元管理ソリューション

 

さいごに

バリアンは,2017年から放射線治療のみならず,がん医療全体に貢献できるよう舵を切った。がんの脅威に負けない世界を実現するために,今後も製品開発を継続していく。

●参考文献
1)全国放射線治療施設の2012年定期構造調査報告. 日本放射線腫瘍学会, 2017.

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