VARIAN RT REPORT

2022年1月号

人にやさしいがん医療を 放射線治療を中心に No.7

HyperArc付きのTrueBeamを導入した広島大学病院の高精度放射線治療の現状と展望

勝田  剛*1/河原 大輔*1/村上 祐司*1/今野 伸樹*1/竹内 有樹*1/久保 克麿*1/西淵いくの*1/齋藤 明登*1/中島 健雄*2/永田  靖*1(* 1 広島大学大学院医系科学研究科放射線腫瘍学 * 2 広島大学病院診療支援部門)

はじめに

広島大学病院では,2021年に新たにCTシミュレータと放射線治療装置の更新を行った(図1)。本稿では,当院の高精度放射線治療の現状と,現在導入している最新システムについて紹介する。

図1 広島大学病院(左)とTrueBeam室内の放射線治療スタッフ(右)

図1 広島大学病院(左)とTrueBeam室内の放射線治療スタッフ(右)

 

当院における高精度放射線治療

現在,高精度放射線治療である体幹部定位放射線治療(SBRT),強度変調放射線治療(IMRT)は,国内のハイボリューム施設において広く施行されるようになっている。当院でも,SBRT,IMRTともに早期より導入し,治療患者数は年々増加している(図2)。当院における高精度放射線治療の特徴は,広島がん高精度放射線治療センター(HIPRAC)と協同して診療を行っていることである。HIPRACは2015年に開設された,外来患者に特化した高精度放射線治療施設である。HIPRACで主に取り扱う治療は,前立腺がんIMRT,乳がん術後胸壁+鎖骨窩hybrid-IMRT,脳転移定位照射,肺・肝がんSBRTなどである。一方,広島大学では,化学療法併用症例,臨床試験症例を主な対象とし,頭頸部がん,脳腫瘍,頸部食道がんに対するIMRT,肺・肝がんSBRTを主に行ってきたが,現在ではIMRTは進行期肺がん,進行期食道がん,骨盤腫瘍,局所再発症例,SBRTはオリゴ転移にも適応を拡大している。当院のIMRTは患者スループット向上を考慮し,すべて強度変調回転放射線治療(VMAT)にて施行しており,肺・肝がんSBRTにも本技術を導入した。こうした積極的な適応拡大により,全治療患者中の高精度放射線治療率は,HIPRAC開設前の20〜25%から40〜50%に増加している。
当院では,高精度放射線治療計画立案を放射線腫瘍医と医学物理士が協同して行うことで,治療計画の品質保持に努めている。医師自らが計画立案に携わることで,どこの施設に異動しても高精度放射線治療計画立案に対応でき,かつ,治療計画の品質を正確に評価できる力を身につけることができると考えている。医学物理士は治療計画立案,装置の品質管理や患者線量検証などの臨床業務を担当,さらに,他施設の医学物理士と連携して新規放射線治療法の開発や臨床試験への協力などを積極的に行っている。当院では,放射線腫瘍医と医学物理士による週2回のVMATカンファレンスを開催し,VMAT全症例についてコンツーリングと線量分布図の確認を行っている。また,日々の画像誘導放射線治療(IGRT)確認とは別に,週1回のIGRTカンファレンスにて体輪郭の変化や患者位置精度のチェックを行い,必要時に遅滞なく計画変更を行う体制を構築している。さらに,頭頸部がん患者を主体とするVMAT治療症例に対しては,多職種が協同し,急性期毒性による治療中断の抑止,晩期毒性の軽減のための支持療法に積極的に取り組んでいる。
われわれは,高精度放射線治療にかかわるさまざまな研究を,各職種協同で推進している。最近は,線量最適化アルゴリズム,自動化治療計画,人工知能を活用した治療計画法や放射線治療後の予後予測システム構築など,臨床に貢献できる物理学的研究を主体に行っている。臨床的には,新たな治療法開発・エビデンス構築に貢献するため,「JCOG1408」をはじめとする高精度放射線治療を使用する臨床試験や企業治験にも多く参加している。

図2 高精度放射線治療の患者数

図2 高精度放射線治療の患者数

 

新規放射線治療システム

1.新規「TrueBeam」の導入
当院の外部放射線治療は,2009年導入の「CLINAC iX」と,2013年導入のTrueBeam(共にバリアン社製)の2台体制で行ってきた。装置の動作速度・精度向上やフラットニングフィルタフリービーム(FFF)による息止め照射時間短縮などメリットが大きいことから,高精度放射線治療はTrueBeamにて施行してきた。しかし,近年では,さらに増え続ける高精度放射線治療症例への対応に苦慮していた。また,マシントラブル時にはFFF照射不可などの理由で,CLINAC iXによる代替治療を提供できないなどの問題もあった。2021年に導入した新しいTrueBeamは,X線エネルギー,マルチリーフコリメータなど基本的な性能が現在稼働中(2013年導入)のTrueBeamと同等であるため,高精度放射線治療症例を2台体制で効率良く治療可能となり,さらなる症例の増加が見込める。また,放射線治療情報システム「ARIA OIS」(バリアン社製)の機能により,障害時にも即時に代替機に切り替えて治療が継続可能となる。さらに,新たに導入された6軸カウチ「PerfectPitch」,FFFによるポータルドジメトリに対応したフラットパネル,iterative reconstructionを用いた“iCBCT”による画質向上は,高精度放射線治療における患者位置精度のさらなる向上に寄与すると考える。室内装飾については,窓から空が見えるようなデザインとすることで,患者の不安やストレスを軽減するような治療室とした。

2.HyperArc
多発脳転移など,複数の離散的ターゲットに対してマルチアイソセンタで行う定位照射は,複雑なビーム配置,相互の線量分布の交錯の考慮が必要で,その計画には多くの時間と労力を必要とした。また,ガントリと患者,寝台などとの干渉を検証するため,治療室を占有してのドライランが必須であった。このたび導入した“HyperArc”ソリューションは,複数のターゲットを一括で定位照射可能とする技術で,IMRTの簡便で効率的な治療計画立案,バーチャル・ドライランによる軌道の安全確認,および自動照射が可能となる。多発脳転移の定位照射において有効な選択肢の一つとなることを期待している。

3.Velocity GRID
現代の放射線治療では,PET/CT,MRIなど多様な画像情報を治療計画 CT画像に融合し参照するが,その際,非剛体画像レジストレーション技術が用いられる。新規システムでは,これまで活用していた治療計画支援システム「Velocity」(バリアン社製)をサーバクライアントシステムの「Velocity GRID」にアップグレードした。これにより,計算速度の向上や複数クライアントからのアクセスなど利便性が高まり,各種画像レジストレーションや再治療計画CTでの輪郭のプロパゲーションなど,腫瘍医からの臨床的要望に迅速に対応できるようになった。近年増加している既照射部位への再照射では,前治療の線量分布データを新規治療計画CTに変形反映し,リスクを考慮した計画立案を行う。Velocity GRIDでは,各種DICOM-RTデータを取り込めるが,オプション機能でフィリップス社製の三次元放射線治療計画システム「Pinnacle3」のtarファイルアーカイブを読み込み,三次元治療計画データを直接取得することが可能となった。今回,当院での約20年間にわたるPinnacle3のtarファイルアーカイブについて,患者検索を行うインハウススクリプトを作成し,Velocity GRIDにデータを展開,迅速に安全な再照射計画が立案できるシステムを構築した。今後も,マルチモダリティ・マルチベンダー三次元放射線治療データを統合する治療計画支援プラットフォームとして活用していきたい。

4.その他のシステム
今回は,このバリアン社のシステムのほかにも,大口径ボアで治療体位設定の自由度が高いキヤノンメディカルシステムズ社製80列マルチスライスCT「Aquilion Exceed LB」や,RaySearch Laboratories社製の放射線治療計画システム 「RayStation」をはじめ,線量独立検証システムや各種線量計,多次元検出器,QA解析システムが一新された。ARIA OISとのオンライン接続によりデータ自動転送・解析などが可能となり,さまざまな領域で高精度かつ効率的で患者や医療従事者に優しいモダンな外部放射線治療システムの構築ができたと考える。

まとめ

広島大学病院は,HIPRACと連携し国内最先端の高精度放射線治療を希求している。また,世界最高水準の放射線治療チームの育成に向けて,放射線腫瘍医,歯科放射線科医,医学物理士,診療放射線技師,看護師,事務職員の連携を深めている。2017年の日本放射線腫瘍学会による「全国放射線治療施設構造調査」の解析結果では,広島県では人口1千人あたり1.9人の患者が放射線治療を選択されており,国内でトップになっている。

VARIAN RT REPORT
TOP