VARIAN REPORT

2020年9月号

がん医療における放射線治療最前線 No.11

新型コロナ感染流行下の放射線治療 〜日本放射線腫瘍学会の取り組み〜

中村 聡明(関西医科大学放射線科学講座)

はじめに

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)による全世界パンデミックにより,わが国のがん放射線治療も大きな影響を受けることとなった。日本放射線腫瘍学会(JASTRO)では,2020年4月の緊急事態宣言発令を一つの契機として,JASTRO理事を中心とした「COVID-19対策アドホック委員会」を立ち上げ,その実働部隊として「コロナ対策実行グループ」を発足させた。両組織が一体となり,放射線治療に関するCOVID-19情報を発信・共有するWebサイト,Webセミナーを企画・運営し,活動の成果を「COVID-19パンデミックにおける放射線治療 JASTRO提言」(以下,JASTRO提言)として5月に一般公開した。JASTRO提言は公開後も更新を重ね,現時点(2020年7月19日)での最新は第1.2版となった。
最新のJASTRO提言およびWebセミナーのスライド・動画は,「放射線治療に関するCOVID-19特設サイト」*1図1)に掲載し,「新型コロナウイルス感染症流行下の放射線治療」の具体的な対策・方法を詳述しているので,ぜひ内容をご覧いただきたい。
筆者は,コロナ対策実行グループのグループリーダとして,これら活動に関与してきた。本稿では2020年4月から7月にかけてのJASTRO COVID-19対策の主な活動(表1)について紹介する。

図1 放射線治療に関するCOVID-19特設サイト

図1 放射線治療に関するCOVID-19特設サイト

 

表1 日本放射線腫瘍学会(JASTRO)COVID-19対策の主な活動内容

表1 日本放射線腫瘍学会(JASTRO)COVID-19対策の主な活動内容

 

2020年4月:情報不足

2020年1月から始まったわが国における新型コロナウイルスをめぐる主な動き(表2)も,3月上旬までは放射線治療への影響は限定的であろうと高をくくっていたところがある。しかし,3月中旬からイタリア・ロンバルディア州やアメリカ・ニューヨーク州など先進諸国での医療崩壊が明らかとなり,4月7日にわが国で緊急事態宣言が発令される段になると,放射線治療の現場においても,わが国での医療崩壊を想定した対策を早急に立てる必要が出てきた。とはいうものの,4月上旬においては放射線治療のみならず,がん医療全般において,COVID-19対策についての情報は少なく,わずかにASTRO(米国放射線腫瘍学会)やNCCN(米国の主要がんセンターによる非営利団体)のWebサイトにFAQを中心とした情報が掲載されている程度であった。このため,当時COVID-19対策の主舞台であった感染症指定医療機関かつ放射線治療を実施している施設などに呼びかけ,4月15日,「放射線治療の現場より」と題したWebセミナー*2を開催した。各施設が独自に取り組んでいたCOVID-19対策を中心に発表していただき,大変に好評であった。本セミナーをきっかけに,JASTRO主導でCOVID-19情報を発信・共有する「COVID-19対策アドホック委員会」および「コロナ対策実行グループ」が組織された。
翌週の4月23日,JASTRO企画として第1回目のWebセミナー「JASTRO×COVID-19 #001」を実施,27日にはWebセミナーの情報をまとめたWebサイトを公開した。Webセミナーはその後も毎週木曜の定期開催を続けた。同時期からASCO(米国臨床腫瘍学会)やシンガポール放射線腫瘍学会のWebセミナーも開始され,ようやくがん医療におけるCOVID-19対策の情報が世界で共有される環境が整うようになった。

表2 新型コロナウイルスをめぐる主な動き

表2 新型コロナウイルスをめぐる主な動き

 

2020年5月:情報過多

5月は一転,COVID-19に関する多数の情報があふれ,有益な情報を正しく選別することが重要と考えられた。
このためWebセミナーは,「JASTRO×COVID-19 #004-6 敵を知る」シリーズ(図2)として,免疫学(平野俊夫先生),公衆衛生(渋谷健司先生),感染症(高山義浩先生)のそれぞれの分野から専門家に講演いただき,放射線治療の長期的・安定的な運用の礎となる情報収集に努めた。
また,放射線治療の分野ではASTRO,ESTRO(欧州放射線腫瘍学会)などからrecommendationが出された。それらを参考にしながら,日本の感染状況も踏まえ,代表的ながん種の外部放射線治療の情報をまとめた上で,5月12日に「COVID-19パンデミックにおける放射線治療の提言(第1版)」を公開した。
一般に,放射線治療の中断(あるいは開始の遅延)は可能なかぎり避けるべきであるが,低リスクの前立腺がんや乳がんなどでは放射線治療の省略または延期を考慮可能な場合があること,放射線治療を行う場合でも5〜7回照射などの寡分割照射の選択肢がありうること,また,頭頸部がん,食道がんや肺がんなどにおいても術後照射を中心に延期可能な場合があることを,具体的な総線量や分割回数とともに提示している。5月21日には,緩和照射と粒子線治療の項目を加え,JASTRO提言(第1.1版)として発出した。

図2 JASTRO×COVID-19 敵を知る:専門家による講演シリーズ 左から,平野俊夫先生(免疫学),渋谷健司先生(公衆衛生),高山義浩先生(感染症)

図2 JASTRO×COVID-19 敵を知る:専門家による講演シリーズ
左から,平野俊夫先生(免疫学),渋谷健司先生(公衆衛生),高山義浩先生(感染症)

 

2020年6〜7月:情報蓄積

幸いなことに,欧米諸国で見られた感染拡大,医療崩壊はわが国では起こらず,5月末に全国の緊急事態宣言が解除された。しかし,パンデミック状況が年単位で継続することが予想され,「新しい生活様式」が世界的に求められることになった。放射線治療においても,対コロナ長期戦に備えるべく「Withコロナのがん医療」をWebセミナーのテーマとし,主要がん種について有用な情報を蓄積することとした。
このようにして,7月末までに合計10回のWebセミナーを開催し,7月19日に小線源治療の項目を加えたJASTRO提言(第1.2版)を発出した。

おわりに

上記の活動の成果は,言うまでもなく,COVID-19対策アドホック委員会,コロナ対策実行グループ,および講演いただいた先生方の献身的なご協力・ご尽力の賜物である。この場を借りて,改めてお礼申し上げたい。
結果的に,準備してきたさまざまな対策の多くは,実際に臨床使用することなく温存することができた。長期間にわたるWithコロナ時代に備え,引き続き有益な情報発信に努めていきたい。

*1 放射線治療に関するCOVID-19特設サイト
https://www.jastro-covid19.net/
*2 Webセミナー「放射線治療の現場より」
https://wcb001.peatix.com/

VARIAN REPORT
TOP