VARIAN REPORT

2020年3月号

がん医療における放射線治療最前線 No.8

前立腺がんへの寡分割照射~東京女子医科大学病院の長期治療成績~

橋本弥一郎(東京女子医科大学放射線腫瘍学講座)

はじめに

寡分割照射とは,通常分割照射と比較して1回線量を増やし照射回数を少なくした照射である(寡は少ないという意味)。強度変調放射線治療(IMRT)や画像誘導放射線治療(IGRT)など,放射線治療の高精度化に伴い,安全に寡分割照射を行うことが可能になった。
前立腺がんは寡分割照射が有効であることが知られており,近年,米国から「前立腺がんに対する寡分割照射のガイドライン」が報告された1)。本邦でも2018年から,「1回線量が2.5Gy以上の前立腺照射を行った場合」に診療報酬で1回線量増加加算が算定できるようになり,前立腺がんへの寡分割照射は一般的になりつつある。
東京女子医科大学病院では,2005年から前立腺がんへの寡分割照射を用いたIMRTを導入している。本稿では,当院の長期治療成績を通して,前立腺がんへの寡分割照射の有効性と安全性を報告する。

前立腺がんの放射線生物学的な特徴

前立腺がんは,古くから放射線反応性の指標であるα/β比が小さいことが知られており,最近の報告では,前立腺がんのα/β比は,1〜2Gy程度とされている1)。α/β比とは,放射線治療における理論(LQモデル)に基づく数値で,放射線の1粒子で2本鎖DNAを切断する「1粒子切断」と,放射線の2粒子で2本鎖DNAを切断する「2粒子切断」が細胞死に等しく寄与する時の線量に該当する。放射線生物学的にα/β比が小さい場合,1回線量が大きいほどその効果が高くなる2)。隣接臓器である膀胱や直腸のα/β比は3〜5Gy程度とされ,前立腺がんよりもα/β比が大きいため,前立腺がんへの寡分割照射が有効であることが示唆される。
LQモデルを用いて分割照射を評価する代表的な方法として,equivalent dose in 2Gy fraction(EQD2)がある。EQD2は,D〔d+(α/β)〕/〔2+(α/β)〕の公式で定義され,1回線量dで総線量Dを照射した場合と等しい生物学的効果を得るための1回線量を2Gyとした場合の総線量(Gy)を表している。言い換えると,EQD2は,通常分割照射(1回線量2Gy)に変換した場合の総線量を表す。EQD2を用いる場合は,以下の3原則を満たす必要がある。
(1) 1回線量は,1Gyより大きく,α/β比の2倍以下の範囲でなければならない。
(2) 各照射間隔は,少なくとも6時間以上は空ける必要がある。
(3) 比較する照射法の総治療期間は等しくなければならない。

当院における長期治療成績3)

1.対象と評価方法
2005年5月〜2011年12月に当院で前立腺がんへの寡分割照射を行った195人(表1)を後ろ向きに解析した。有害事象を考慮し,インスリン使用中の糖尿病患者とワーファリン内服中・中断不可の患者は本対象から除外した。リスク分類としてD’Amico分類,前立腺特異抗原(PSA)再発(生化学的再発)の基準としてフェニックスの定義(PSA最低値+2.0ng/mL),有害事象の評価としてRTOG/EORTC(放射線反応評価基準)を用いた。

表1 2005年5月〜2011年12月に実施した195人の内訳

表1 2005年5月〜2011年12月に実施した195人の内訳

 

2.具体的な治療内容

1)放射線治療
1回線量を3Gyとし,週3回の隔日照射(月・水・金),IMRT(IGRT併用),66Gy/22回/7〜8週間とする。
・臨床標的体積(CTV):T1〜T3a:前立腺+精囊基部,T3b:前立腺+全精囊
・計画標的体積(PTV):CTV+(頭尾側 0.9cm,左右側 1cm,腹側 1cm,背側 0.6cm)
・線量評価の指標:CTV D95(CTVの95%以上の体積に照射される線量)
・線量分布図(図1

図1 IMRTの線量分布図

図1 IMRTの線量分布図

 

2)ホルモン療法
・低リスク:併用なし
・中間リスク:照射前〜照射期間中に4〜6か月間
・高リスク:照射前〜照射期間中に4〜6か月間,照射後に6か月間(合計1年間)

3.治療内容の特徴
・前立腺がんのα/β比を1.5と仮定し,1回線量をα/β比の2倍である3Gyとした。また,週3回照射を用いることで,総治療期間を通常分割照射と合わせるようにした。総線量66Gy/22回(週3回法)は,EQD2で84.9Gy相当になる。
・線量評価の指標として,一般的なPTV D95でなく,CTV D95を用いている。CTV D95は,PTV D50(mean)に近似しており,従来の放射線治療である三次元原体照射(3D-CRT)と線量分布が似ているため,用いやすい指標と考えている。
・高リスクに対して,一般的な照射後2年間のホルモン療法ではなく,短期(合計1年間)ホルモン療法を用いている。

4.結 果
観察期間の中央値は,69か月であった。5年全生存率:97.7%,5年PSA非再発率:92.4%であった。リスク別の5年PSA非再発率(図2)は,低リスク:100%,中間リスク:93.2%,高リスク:89.8%であった。
有害事象に関しては,尿路系は,急性期Grade 0〜1:168人(86.2%)・Grade 2:27人(13.8%),晩期Grade 0〜1:190人(97.4%)・Grade 2:5人(2.6%)であり,急性期・晩期ともGrade3以上はなかった。消化器系は,間歇的な直腸出血(Grade 2)を1人に認めたのみで,そのほかにGrade2以上は認められなかった。

図2 リスク別の5年PSA非再発率

図2 リスク別の5年PSA非再発率

 

おわりに

当院の前立腺がんへの寡分割照射の長期治療成績を報告した。総線量66Gy/22回(週3回法)の寡分割照射は,諸家の報告と比較して遜色ない治療成績であり,有効性と安全性を示すことができた。その中でも特筆すべきは,高リスクの治療成績が良好であること,直腸出血をはじめとした晩期有害事象が非常に少ないことである。
寡分割照射は,医療経済的にも優れている。また,週3回照射は,特に働きながら通院する患者が時間を捻出しやすいという理由でおおむね好評である。本稿執筆時点(2020年1月)でも,同内容の治療を継続しており,将来的にさらなる長期成績を報告したいと考えている。

●参考文献
1) Morgan, S.C., Hoffman, K., Loblaw, D.A., et al. : Hptofractionated Radiation Therapy for Localized Prostate Cancer : An ASTRO, ASCO, and AUA Evidence-Based Guideline. J. Clin. Oncol., 36(34) : 3411-3430, 2018.
2) Miles, E.F., Lee. W.R. : Hypofractionation for Prostate Cancer : A Critical Review. Semin. Radat. Oncol., 18(1): 41-47, 2008.
3) Hashimoto, Y., Motegi, A., Akimoto, T., et al. :
The 5‑year outcomes of moderately hypofractionated radiotherapy(66 Gy in 22 fractions, 3 fractions per week)for localized prostate cancer : A retrospective study. Int. J. Clin. Oncol., 23(1) : 165-172, 2018.

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