VARIAN REPORT

2021年1月号

人にやさしいがん医療を 放射線治療を中心に No.1

新型コロナウイルス感染症蔓延下での放射線治療部門の業務継続 神戸市立医療センター中央市民病院の対策

小久保雅樹(神戸市立医療センター中央市民病院放射線治療科)

はじめに

新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)のパンデミックにより,わが国の放射線治療も大きな影響を受けた。本誌2020年9月号1)で関西医科大学放射線科学講座・中村聡明先生が詳細を述べられたように,日本放射線腫瘍学会(JASTRO)では「COVID-19対策アドホック委員会」を立ち上げ,その実働部隊として「コロナ対策実行グループ」を発足させた。本実行グループが中心となりWebセミナーを開催し,放射線治療に関するCOVID-19情報を発信,共有した。以下の内容は,2020年4月23日に配信された第1回目のWebセミナーで当院の対策として報告したことの抜粋である。より詳細な報告は,日本医学放射線学会が刊行している「JASTRO Newsletter 2020 No.3(通巻137号)」2)を参照されたい。

放射線治療におけるCOVID-19対策の重要性

放射線治療の対象はごくわずかな良性疾患を除いて,ほとんどすべてが悪性疾患である。また,体にやさしい治療であることから必然的に高齢者が多くなり,当院でも60歳以上が多くを占めている。60歳以上はCOVID-19による重症化リスクが高いことが知られているが,海外からの多くの報告では,さらに担がん患者は重症化リスクが高いことがわかっている。その一方,COVID-19の致死率は,がんそのものの致死率よりもずっと低く,根治や症状緩和にかかわらず,がん治療を優先しなければならないことも非常に多くある。つまりは,放射線治療部門の業務を停止することは絶対に避けなければならないのである。
また,感染から発症・感染判明までが比較的短期であるインフルエンザなどと異なり,COVID-19では感染から判明まで約2週間のタイムラグがある。このため,状況悪化が確認されてから対応を検討したのでは遅く,2週間先の状況を先読みした上で対策を講じる必要がある。
そこで,4月7日の緊急事態宣言を待たず,「COVID-19を持ち込まない,持ち込ませない」を合言葉に当科でも感染機会の低減のための対策に着手し,直ちに実行に移した。

当科における感染防止対策

1.勤務態勢における工夫
対策のポイントは,感染機会の減少とトレーサビリティである。そのためのキーコンポーネントは,治療医を含む可能なかぎりの複数チーム化である。COVID-19は人と人の接触が多いほど感染機会が増すことがわかっている。そのため,可能なかぎり接触機会を減少させる2チーム化を対策の柱にした。防衛省で3月より実施されていた交代制勤務を手本とした,若手医師の発案が基である。
当院ではまず,治療医は完全に2チーム化し,急変時以外,別チームの患者にはかかわらないようにした。出勤は1チームのみとし,別チームは自宅待機とした。医師に感染者が出た場合はそのチームを出勤停止にすることとし,別チームがすべてを代行することにしていた。フォローアップの患者診察も,ほとんどの場合は曜日に応じた代診とした。新規治療患者とその治療方針,および問題のあった治療中の患者,あるいは今後問題となりそうなことについては,カルテに詳細を記載すると同時に,個人情報に配慮したメーリングリストで,自宅待機者を含むすべての医師に毎日の診療報告を行った。これにより,出勤したすべての医療スタッフのみならず,自宅待機の医師にも診療に関する必要な情報共有が行われており,2チーム化体制期間中,業務に支障はなく,治療の質を落とすこともなかった。
医師の複数チーム化に関しては,いくつかの他の施設の放射線治療部門からご批判もいただいている。1つは,医師が少なく複数チーム化できない,というものである。ただ,2人以上の医師がいれば最低限の2チーム化は可能ではないかと思っている。むしろ,2人など絶対数が少ない場合,「診療科医師全員が同時に感染し診療可能な医師がゼロとなる」リスクが高いとも考えられる。放射線治療の特性からは治療の“継続性”が最も重要であり,診療規模を縮小したとしても,治療の中断がないように注力すべきである。もう1つは,担当疾患が分けられており治療方針がわからないので複数チーム化できない,というものである。放射線治療医は専門分野を持つべきであると考えてはいるが,それはジェネラルな放射線治療の知識の上にこそ立脚するものであると思う。医師はどうしても感染機会が多く,COVID-19の感染力の高さからすると,同時に全医師が罹患し診療継続不能となることも十分に考えられるため,可能なかぎりの複数チーム化は必ず検討すべきだと考えている。
治療担当診療放射線技師は2チーム化できるほどの人員がいないため治療室固定とし,他室の治療には物理的にかかわらないようにした。さらに,各治療室のリーダーを介して診療放射線技師同士の情報共有を行う運用とした。居室や動線が同じため完全な分離は不可能ではあるが,休憩時間を分け,食事の場所も別にした。専従医学物理士は原則として患者対応は行わないこととし,看護師も医師チームに応じた担当分けを基本とした。

2.放射線治療に関する工夫
多くの施設でも行われているが,良性疾患や一部の乳がん,前立腺がんの治療開始の延期,フォローアップ間隔の延長,電話再診による接触機会の削減,入院と外来の治療時間分離による患者同士の接触機会の軽減,中待合の密集を避けるための人数制限と来院時間の分離,患者へのマスク着用の依頼,医療者の検温の実施なども直ちに実行している。放射線治療計画の上では,収入が多少減少しても(単回照射含め)寡分割照射を積極的に採用し接触機会の削減を図るとともに,3つの治療室に共通して使用可能な10MV-X線を用いて立案するなどの工夫を行った。感染拡大の状況によっては,治療室の一部を一時的に閉鎖する可能性も想定されたため,治療室の振り替え,マシンタイム調整やゾーニングなどの検討も同時に着手,実行に移した。
これらの対策の結果,放射線治療部門でのCOVID-19発生は,患者,医療スタッフとも一例もなく,予定された放射線治療はすべて完遂でき,放射線治療部門の業務は維持が可能であった。本稿執筆時点(2020年11月)においても,放射線治療部門内でのCOVID-19感染は医療スタッフ,患者とも起こってはいない。

3.感染症防止対策の立案における課題とBCPの重要性
ところで,このような対策は現状に追いまくられながら行ってきたわけであるが,何も基準がないことが問題と気づいた。1995年の阪神淡路大震災や2011年の東日本大震災,昨今の豪雨災害を経験した施設では,何らかの事業継続計画(business continuity plan:BCP)が作成されているものと思われる。しかしながら,そのほとんどがCOVID-19対策ではあまり役には立たないだろう。自然災害の場合には,ある瞬間の発災直後が最もダメージが大きく,そこからは復旧・復興へ段階を追って一つずつ積み重ねていくことになる。自然災害に対するBCPはこういう視点で記載されている。また,自然災害のダメージは,ある意味可視化できるものである。一方,このような感染防止対策では,危機がじわじわと長期間持続し,継続するものであり,また,状況はまったく可視化できないものである。さらに,施設の置かれている環境,立地,規模,感染状況においても,対策しなければならない内容はまったく異なるものであろう。
先に述べた「放射線治療部門の業務維持」と,このような観点から,放射線治療部門独自のBCPを作成した。まず,BCPを作成する必要性を,「放射線治療部門業務の完全停止を可能なかぎり避けるためになすべきことの具現化」と定義し,先に述べた2チーム化や寡分割照射の多用を柱とする具体策を記載し,さらに,施設内の感染者数に応じた具体的なシチュエーションごとに,どこまで医療体制を縮小するのか,どこまでの治療を行うのかを明確化した。例えば,治療中の患者および医療スタッフがCOVID-19に罹患した場合の対応についても,発生してから検討するのではなく,発生した場合にどのように治療中患者の治療を継続し,どのレベルまで感染が広がった場合に放射線治療体制を縮小していくのかを事前に決定した。“合理性”のある“迅速”な対策は,いずれの状況においても重要であり,BCPはその基礎となるものと考えられ,どの施設でも事前に作成しておくことが求められていると考えている。

おわりに

以上,当院での対策について述べた。未来永劫,新規ウイルスによる感染症との戦いは避けられない。本稿が今後,皆様の診療に少しでもお役に立てることを願っている。

●参考文献
1)中村聡明:新型コロナ感染流行下の放射線治療〜日本放射線腫瘍学会の取り組み〜. INNER-
VISION, 35(9):78-79, 2020.
2)小久保雅樹・他:感染症に対する放射線治療部門の継続:対策とBusiness Continuity Plan(BCP)の作成. JASTRO Newsletter, 137:25-27, 2020.

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