VARIAN RT REPORT

2021年11月号

人にやさしいがん医療を 放射線治療を中心に No.6

Halcyonの“Flattening Sequence”について

門前  一(近畿大学医学部放射線医学教室放射線腫瘍学部門)

はじめに

「Halcyon」は,バリアン社が開発した高精度な強度変調放射線治療(IMRT)特化型のO-リング型リニアックである。Halcyonは加速管を含むヘッド部を小型化し,かつ照射を高速に行うためにflattening filterを用いないflattening filter free(FFF)ビームを採用している。また,cone beam CT(CBCT)が最短17秒で取得できるなど,画像誘導放射線治療(IGRT)の高速化も実現している。さらに,Halcyonは世界初である二層構造の「Dual-Layer MLC」が搭載されている。それぞれ1cm幅の上段(proximal)MLCと下段(distal)MLCが頭尾方向に5mmずれる形で設置されており,5mm相当のMLCを実現している。HalcyonではDynamic MLCを使用して,(1)  IMRTおよびVMAT,(2) irregular surface compensator(ISC),(3) flattened beam(FB)の照射が可能である。本稿では,ISCおよびFB(Flattening Sequence)を用いた通常照射(conventional照射)について解説する。

Flattened beam(平坦化ビーム)

FBは,通常照射をHalcyonで実現するために開発されたダイナミックシーケンスである。FBでは,図1のproximal MLCが単独でダイナミックに動くことにより,FFFビームが平坦化された線量プロファイルとなる。照射野の整形には図1のdistal MLCのみ用いる。
FBには6つの標準パターン(5cm×5cm,7cm×7cm,11cm×11cm,15cm×15cm,23cm×23cm,28cm×28cm)のシーケンスが存在する。proximal MLCがdistal MLCの照射野サイズに応じて,自動的に6つの固定MLCシーケンスサイズから最適なものが選択され,治療計画が作成される。「PROFILER 2」(Sun Nuclear社製)で測定したMLC駆動方向と垂直のFFFビームとFBの線量プロファイルの比較データを図2に示した。
図2に示すように,FBのプロファイルはflatness 102.4%,symmetry 100.9%と平坦化されており,通常照射に用いることが可能である。FFFビームと比較して,FBはMLCシーケンスにより平坦化されるため照射時間が長くなるが,「Enhanced Dynamic Wedge」使用時の照射時間と同程度である。

図1 Halcyonの構造およびFBの照射方法

図1 Halcyonの構造およびFBの照射方法

 

図2 PROFILER 2によるMLC駆動方向と垂直の線量プロファイル a:FFF(flatness 138.8%,symmetry 100.9%),b:FB(flatness 102.4%,symmetry 100.9%)

図2 PROFILER 2によるMLC駆動方向と垂直の線量プロファイル
a:FFF(flatness 138.8%,symmetry 100.9%),b:FB(flatness 102.4%,symmetry 100.9%)

 

Halcyonを用いた固定多門照射(通常照射)

1.子宮頸がんの治療計画
子宮頸がんの4門照射において,FFFビームでは照射中心部に高線量部が発生してしまうため臨床的に不適切である。FBを使用すると腫瘍部へ均一な照射が可能となるが,max doseが113.7 %と高いケースがある。このような場合は,さらにガントリ90°と270°にISCを追加することで,均一な分布の作成が可能である(図3)。

図3 Halcyonによる子宮頸がんの線量分布 a:FFF max:103.5%,min:69.1%,mean:91.4%,monitor unit(MU):38.6/ 44.6/59.0/56.5 b:FB max:113.7%,min:90.4%,mean:101.2%,MU:92.7 /108.2/142.1/136.2 c:FB & ISC max:109.6%,min:90.3%,mean:100.5%,MU:129.1 /138.6/ 95.6/114.1

図3 Halcyonによる子宮頸がんの線量分布
a:FFF max:103.5%,min:69.1%,mean:91.4%,monitor unit(MU):38.6/ 44.6/59.0/56.5
b:FB max:113.7%,min:90.4%,mean:101.2%,MU:92.7 /108.2/142.1/136.2
c:FB & ISC max:109.6%,min:90.3%,mean:100.5%,MU:129.1 /138.6/ 95.6/114.1

 

2.乳房温存照射の治療計画
Halcyonの乳房の接線照射において,FBを用いて治療計画を作成した場合にも高線量域が出現するケースがあり,このような場合にはISCもしくはfield in field(FIF)の使用を推奨する。少しの工夫で通常のリニアックによる治療計画と遜色ない線量分布が作成できる。ここではFIFを例に挙げ,FBとの比較を示した(図4)。また,鎖骨上窩リンパ節を含む乳房の接線照射にて,尾側方向に3cmアイソセンタをシフトさせた際の治療計画を作成した(図5)。治療計画上の線量分布は「TrueBeam」(バリアン社製)と同等であり,鎖骨上窩リンパ節と乳房の照射野接合部に高線量域は生じていない。フィルムによるQAを実施し,hot spotなどの問題がないことは確認ずみである。

図4 Halcyonによる乳房の線量分布 a:FB max:109.8%,min:92.2%,mean:101.3%,MU:272.6 /279.8 b:FIF max:102.8%,min:89.3%,mean:97.6%,MU:248.0(infield 17.9)/254.5(infield 18.5)

図4 Halcyonによる乳房の線量分布
a:FB max:109.8%,min:92.2%,mean:101.3%,MU:272.6 /279.8
b:FIF max:102.8%,min:89.3%,mean:97.6%,MU:248.0(infield 17.9)/254.5(infield 18.5)

 

図5 鎖骨上窩リンパ節を含む乳房照射の治療計画(TrueBeam vs. Halcyon) 鎖骨上窩リンパ節に対しては前後対向2門照射,乳房に対しては接線照射をISCにて作成Sc:鎖骨上窩リンパ節,Cw:胸壁

図5 鎖骨上窩リンパ節を含む乳房照射の治療計画(TrueBeam vs. Halcyon)
鎖骨上窩リンパ節に対しては前後対向2門照射,乳房に対しては接線照射をISCにて作成
Sc:鎖骨上窩リンパ節,Cw:胸壁

 

注意点

FBでは,先述のとおり上段 MLCを使用してFFFビームの線量分布を均一にしている。実際の線量分布では,図6のようにリーフ間の漏れ線量による縞模様が生じる。ただし,照射野サイズ28cm×28cmのFBを水ファントムに照射した際の10cm深におけるプロファイルの高低差は約1%以内であり,臨床的な影響はない。
ISCでは,照射野内の線量強度を変調していることから,照射前にはVMATやIMRTと同様に実測による患者QAが必要である。また,FBに関しても,いまだMU独立検証の手法が確立されていないことから,同様に患者QAが必要である。図7に,腰椎の骨転移へのFBによる治療計画に対して,EPIDを用いた患者QAの結果例を示した。QAが必須であるが,EPIDを用いるとその所要時間の合計は5分弱とストレスは少ない。ガンマ解析では,1%/1mmのクライテリアにおけるパス率が95.9%と非常に高い。

図6 FBを用いた乳房接線照射の1門をelectronic portal imaging device(EPID)にて実測した線量分布 MLC間に沿った縞模様の線量分布が生じることがわかる。

図6 FBを用いた乳房接線照射の1門をelectronic portal imaging device(EPID)にて実測した線量分布
MLC間に沿った縞模様の線量分布が生じることがわかる。

 

図7 腰椎の前後対向2門照射におけるEPIDを用いたPortal Dosimetry結果 ガンマ解析では,1%/1mmにおけるパス率が95.9%であった。

図7 腰椎の前後対向2門照射におけるEPIDを用いたPortal Dosimetry結果
ガンマ解析では,1%/1mmにおけるパス率が95.9%であった。

 

おわりに

Halcyon のFlattening Sequence について解説した。Halcyonを用いた固定多門照射は,TrueBeamに比べるとFIFやISCを駆使(少しの工夫)することで,治療計画に要する時間に大きな差はなく,同等の線量分布を得ることができる。

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